そんなには褒めないよ。映画評

映画を見てから読むブログ

「聖なる鹿殺し」(ネタバレ)悲劇的ではない、ギリシャ神話を基にした家族愛憎物語

「聖なる鹿殺し」なんてタイトル、無茶苦茶そそりますね。

ただ、英語タイトルは「The Killing of a Sacred Deer」ですから「聖なる鹿」を殺したことを意味していると思われ、ややニュアンスが違いますし、そもそも映画を見ても鹿など出てきません。それでも興行的にはうまいタイトル付けだと思います。

で、どういう意味かと調べてみましたら、ウィキペディアにありました。

ギリシャ悲劇の『アウリスのイピゲネイア』を基にしているとありますが、残念ながらギリシャ悲劇などオイディプスあたりの有名どころしか知りませんので、ネットでいろいろ読んでみました。

監督:ヨルゴス・ランティモス

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公式サイト

 

直接的には『アウリスのイピゲネイア』の物語をベースにしているわけではないようですね。それに、ネット上には「アガメムノンが女神アルテミスの聖なる鹿を射殺してしまったためにアルテミスの怒りを買い」 といった記述が見られますが、多分それはギリシャ神話からの話であって、「アウリスのイピゲネイア」とは違うのではないかと思われます。ギリシャ神話のアガメムノンの話からインスピレーションを得ているということなのかもしれません。

 

映画の内容も、父親を医療ミスで殺されたと信じる息子の復讐物語ですので、心臓外科医であるスティーブン(コリン・ファレル)をアガメムノン、復讐するマーティン(バリー・コーガン)をアルテミスとするのは、ある意味わかりやすい話ではあります。

 

映画の作りとしてはギリシャ悲劇を意識しているのではと思われるところ、たとえば台詞はかなり抑制的に演出されていますし、音楽はかなり仰々しく、「コロス」をイメージしているのではないかと思えますし、そして親子、夫婦など肉親間の愛憎がテーマというところも、そう思わせる要因ではあります。

 

ただ、その視点でこの映画を見るとすれば決定的に欠けているものがあります。

 

それは「運命的な力」です。

 

スティーブンは、過去に自分が執刀し不幸にして亡くなった男の息子マーティンのことを気にかけています。映画では6ヶ月くらい前からということを言っていましたので、なぜマーティンは6ヶ月後の今復讐心に燃えたのかという疑問はありますが(笑)、それはおいておいて、マーティンは何やら得体のしれない力を持っているらしく、スティーブンの息子ボブと娘キムに呪い(?)をかけ、歩けないように、そして次には食欲を失わせてしまいます。

 

かなり早い段階で、その原因がマーティンによるものであり、マーティン自身が、スティーブンに、自分の父親を殺したその償いにスティーブンも誰か家族をひとり殺さなければならないと告げます。

 

ですので、映画のつくりは、なぜそうなったのかといった謎を解き明かしていくようなサスペンスものではなく、全てが明かされているけれども通常では考えられないことを見せていき、ある種人間存在の根源的なことを象徴的に見せていくことをテーマにしていると思われます。

 

まずは、ボブの足が麻痺し、次に食欲がなくなり、続いて同じことがキムにも起きます。意を決したスティーブンはマーティンを拉致し暴行を加えたりします。

 

このあたりの直情的な即物さが全体の流れの中ではかなり違和感があり、ここを何とかすればもう少しまともな映画(ペコリ)になったのではとは思いますが、兎にも角にも、スティーブンはひとり殺す決心をし、ああ、決心じゃないですね、もう視野が極端に狭くなっている状態なんでしょう、ボブとキムと妻のアナ(ニコール・キッドマン)を三方向に座らせて、自分はライフル銃を持ち、ニット帽で目隠しをして中央でくるくると回って止まった時に銃をぶっ放します。

 

何やってるの、このおっちゃん?って感じなんですが、そういう映画です(笑)。

 

仮に、こうした状況に置かれても誰もこんなことしません。自分自身が危機に陥っていないのに、誰かを殺せば誰かが助かるなんて設定でその誰かを殺す理由なんてありえません。それもその誰かが皆家族なわけですから、こうした行動を取らせるには何か他に理由があるはずです。

 

多分、家族おける異性愛ですね。

 

スティーブンは娘キムを愛し、アナは息子ボブを愛していることがあからさまに描かれています。簡単に言えば、スティーブンはくるくる回っても見えていたんでしょう。結局妻が愛する息子ボブ、つまりはギリシャ悲劇的に言えば自分の妻を奪うかもしれない息子、そして父権を奪われるかもしれない息子を殺す選択をしたということです。

 

話が随分飛躍してしまいましたが、この映画に決定的にかけているものは、こうした説明できないパワーをマーティンの呪い以上の運命的な力として描けていないことにあります。つまり、マーティン自身も見えない力に動かされている存在であることを描けなければ、それは単なるオカルトサイコもので終わってしまいますし、終わっています。

 

それはそうとニコール・キッドマンの立ち位置が中途半端ですね。アナは足が萎えるでもなく、それなのに何故かマーティンにひれ伏し、足にキスをしたりしています。そして、子どもたちと同様にスティーブンに、抵抗もしなかったのでしょうか、椅子に縛り付けられてしまっています。

 

ニコール・キッドマンって、こんなに脱がない俳優さんでしたっけ? 夫と寝るその時でもブラジャーをつけていました。 

 

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