そんなには褒めないよ。映画評

ミニシアター系映画レビュー*沈黙する言葉

映画タイトルの50音順メニュー作りました!

当サイトおすすめ映画直近の4作品

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汚れたダイヤモンド

監督:アルチュール・アラリ

(完全ネタバレ)ラスト10分のピエールの描き方が見事

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あさがくるまえに

監督:カテル・キレヴェレ

(ネタバレしても問題ない)のでよく知って見るべし。シンプルなのに情感豊か。

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ブランカとギター弾き

監督:長谷井宏紀

(ネタバレ)映画はシンプルなのに物語は深い

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残像

監督:アンジェイ・ワイダ

アンジェイ・ワイダ監督の遺作、心に残る映画です!

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最新記事

「ブルックリン/ジョン・クローリー監督」この不思議な映画は何だろう?感情の表出が消され、ただただ明るいエイリシュは、アイルランド移民の強き意志の現れか?

随分前に予告を見た時から、まさにフィフティーズというメインスチルが強く印象に残っていたのですが、見るのが公開最終日になってしまいました。

1950年代、ひとりアイルランドからアメリカに渡った女性が、新天地での夢や希望と生まれ故郷への郷愁の間で思い悩み、揺れ動く様を描いた映画です。

監督が誰かは気にしていなかったのですが、「ダブリン上等!」「BOY A」のジョン・クローリー監督でした。内容はあまり思い出せませんが、良かったという記憶だけは残っています。

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2016年アカデミー賞®作品賞、主演女優賞、脚色賞ノミネート! 故郷アイルランドから、新天地アメリカへ。内気な少女が洗練された女性に変わっていく日々の中、2つの運命の間で揺れながら選ぶ未来とはー(公式サイト


この映画も、極めてシンプルにつくられていて、なかなか良い映画でした。

 

シンプルと書きましたが、逆に言えば、物語は相当単純化された展開となっており、エイリシュ(シアーシャ・ローナン)が置かれた環境や本人の状態で幾つかのシーンに明確にわかれています。

保守的な上に碌な仕事もないアイルランドの田舎町でアメリカ行きを夢見るエイリシュ、ニューヨークでホームシックにおちいり落ち込むエイリシュ、イタリア移民のトニー(エモリー・コーエン)と出会い次第に希望を感じ始めるエイリシュ、突然の姉の死により一旦アイルランドへ戻りますが、生まれ故郷ゆえの居心地の良さとアメリカでの希望に満ちた未来との間で揺れ動くエイリシュ、そこにはもうひとつ、家族や地域社会という、そこから出ていこうとする者を出すまいとする圧力がかかります。

そしてラスト、アイルランドの保守性を象徴するようなミス・ケリー(エイリシュが働いていた店の店主)の一言に、エイリシュは即座にアメリカ帰郷を決断します。その時のエイリシュの言葉が印象的です。

「ミス・ケリー、思い出させてくれてありがとう」(だったと思う)

まさに「帰郷」です。

つまり、エイリシュは、すでにアメリカでトニーと結婚しているのですが、故郷の居心地の良さと新たに出会った紳士的なジム(ドーナル・グリーソン)に惹かれ始めて、トニーに象徴されるアメリカを忘れかけていたのです。

ミス・ケリーは、アメリカの知り合いからそのことを聞き(伏線はきちんと張られている)、エイリシュを問いただすのです。

事実、エイリシュは「新しき故郷」アメリカを忘れかけていたのです。

 

この極めて単純化された構図は、見ていても不思議な感じがします。ひとりの女性の細やかな心を動きを捉えようとの意思はほとんど感じられません。

米国に渡ったエイリシュに苦難など何も降りかかりません。エイリシュは、アイルランド移民たちが共同生活している寮で暮らすのですが、ここのオーナーらしき女性キーオ夫人(ジュリー・ウォルターズ)はユーモアもあってとてもいい人ですし、一緒に暮らす女性たちも口は悪くても面倒見がよく、幾度か描かれる寮での食事風景のシーンは、字幕だけでは完璧には理解できませんが、とても面白いシーンです。

その他、デパートの店員として働くエイリシュを見守る女性上司もいますし、そもそものアメリカ行きを援助した神父さんもいます。そういえば、神父さんが、エイリシュのアメリカ行きを金銭的に援助した誰かがいると言っていましたが、あれ、誰だったんでしょう? 映画の中で語られていましたっけ?

 

アイルランドに戻ったエイリシュの行動も不思議な感じに描かれています。

結婚したばかりのトニーを思い出すようなシーンが全くありません。トニーから送られた手紙を開封せず何通も引き出しにしまってしまうのです。

友人や(多分)母親から出会いを仕組まれたジムとも、なぜかさほど抵抗もなく付き合い始め、そのままアイルランドに残りそうなところまで行くのです。

 

多分こういうことでしょう。

エイリシュは、ひとりの女性というよりも、アメリカ人の12%(ウィキより)を占めるアイルランド移民を象徴した存在だということです。

意図的であったかどうかは分かりませんが、映画的にはかなりの変化があっても不思議ではない大きな環境の変化の中で、エイリシュ、シアーシャ・ローナンの演技はほとんど変わりません。

とてもホームシックになっているとは思えませんし、トニーとの恋愛に心躍らせているとも思えませんし、ジムとの新しき出会いに何か打算があるようにもみえません。

一貫して淡々と自分自身であるようにとしかみえないのです。

その意味でも、この映画はエイリシュというひとりの女性の映画というよりも、アメリカの基礎を築いたと自負するアイルランド移民の映画なのだと言えます。

 

ところで、トニーを演っているドーナル・グリーソンさん、そのつぶれた声が一瞬、え?という感じで不思議なインパクトがあります。

誰か主役で使ってみて、と思える俳優さんです。

 

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