そんなには褒めないよ。映画評

ミニシアター系映画レビュー*沈黙する言葉

映画タイトルの50音順メニュー作りました!

おすすめ映画直近の4作品

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ナチュラル・ウーマン

監督:セバスティアン・レリオ

(ネタバレ)ロッカーの中にあったもの、それはマリーナがマリーナであるためのもの

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花咲くころ

監督:ナナ・エクフティミシュヴィリ、ジモン・グロス

(ほぼネタバレ)1992年トビリシ、14歳エカとナティアの二人は確かにその時そこで生きていたという映画

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ソニータ

監督:ロクサレ・ガエム・マガミ

(ネタバレ)ドキュメンタリーとしての問題提起も含めオススメです

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汚れたダイヤモンド

監督:アルチュール・アラリ

(完全ネタバレ)ラスト10分のピエールの描き方が見事

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最新記事

「オーバー・ザ・ブルースカイ/フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督」初めて二人がデュエットするシーン、エリーゼの透明感のある歌声に一気に引き込まれます

見始めてしばらくは、子供の難病を扱った感動ものかなとか、ディディエとエリーゼ以外には出てこず、薄っぺらい恋愛ものかななどと、やや引き気味で見ていたところ、とんでもありませんでした。今年のベスト10に入るくらいのいい映画でした。

エリーゼは、篤い信仰心を持った情緒的な女性。タトゥー・デザイナーで、スタジオを開いている。体中に自身の歴史を語るタトゥーを彫り込んでいた。

ディディエは、カウボーイに憧れるアナーキストブルーグラス・バンドでバンジョーを弾き、ベルギー国内をキャラバンでまわっている。彼にとって、「自由の国=アメリカ」は理想の国だ。

突然恋に落ちた二人。まもなくエリーゼは天性の歌声を開花させ、ディディエのバンドで歌うようになる。音楽は、二人の愛を紡ぎ、絆を固くしていった。プロポーズ、結婚、そして子供の誕生。それは、型破りな二人にとって完璧な幸せだった。しかしやがて愛娘が重い病気にかかると、それまでの全てが一変し、二人の愛が試されることになる・・・。(公式サイト

娘メイベルは、映画の中頃で亡くなってしまいます。その後のディディエ(ヨハン・ヘルデンベルグ)とエリーゼ(ベルル・バーテンス)の喪失感と葛藤がこの映画の主題です。

物語は割とベタで、男と女が出会い、愛し合い、子どもが生まれますが、その子どもが(多分)白血病で亡くなり、その喪失感で二人の間もうまくいかなくなり、最後は女の自殺で何もかもが崩壊してしまうというお話しです。

で、そうした悲しいけども物語としてはありふれている映画の何が良かったかと言いますと、まずは音楽ですね。

ディディエのバンドにエリーゼも加わり、ライブハウスやホールでコンサートをやったりするのですが、(映像としては)初めて二人がデュエットするシーンが下の動画です。エリーゼの哀愁を感じさせる透明感のある歌声に一気に引き込まれます。
「The Boy Who Wouldn't Hoe Corn」

もうワンシーン、これはすでにメイベルが亡くなった後で、この後、映画は一気にクライマックスに向かいますが、もうこれを聞いたら誰もがこの映画を見たくなるに違いありません。
「 If I Needed You」

ブルーグラス=アメリカという印象を持っていましたが、ルーツはアイリッシュなんですね。何となく哀感が分かるような気がします。

ところで、「オーバー・ザ・ブルースカイ」ってタイトル、そういう曲でもあるんでしょうか? 原題は「The Broken Circle Breakdown」、映画の中でも使われている「Will The Circle Be Unbroken」永遠の絆と訳されている曲にかけつつ、壊れた家族の絆がBreakdown? BrokenがBreakdownなのかCircleがBreakdownなのか、私の英語力ではよく分かりませんが、何も英語タイトルがあるのに、違った英語タイトルをつけることはないと思いますが、どうなんでしょう?「ブロークン・サークル・ブレイクダウン」で語呂も悪くない思いますが…。

で、話は戻って、素晴らしいと感じたふたつめは、映像的なこだわりと編集です。冒頭にも否定的な意味で「ディディエとエリーゼ以外には出てこず」と書きましたが、全編2時間、本当にこの二人以外の描写はありません。出会い、愛し合い、そして最後は、心の中では求め合いつつも相手も責めてしまう二人を、ただただ撮り続け、そしてそれを少しずつ時間軸を前後させながら、決して混乱させることなく、そして説明しようとすることなく、最後まで見る者の集中力を持続させる編集技術には感動します。

そしてもうひとつは、映画の主題を、愛する子供を失った後の二人の壮絶とも言える葛藤とそれからくる二人の争いにおいている点です。これは、神がいるとするのなら、なぜ神は人に不幸をもたらそうとするのか、という永遠の命題へとせまることになります。

ラストシーンは、ああベルギーの映画なんだとあらためて気づかされます。ベルギーは医師による安楽死を子どもにさえ認めている国です。