セデック・バレ/ウェイ・ダーション監督

圧倒的ではないのですが、なぜか不思議と引き込まれる絶妙なバランス感覚のようなもの

台湾映画、ほんとレベル高いですわ。まあ、ホウ・シャオシェン監督もいますし、ウェイ・ダーション監督の前作「海角七号 君想う、国境の南」もとても良い映画でしたし、当たり前と言えば当たり前なんですが、それにしてもこれだけの歴史活劇が撮れるなんてすごいことです。前後編あわせて4時間36分、飽きることはありません。


『セデック・バレ』予告編

日本統治時代の1930年、台湾で起きた先住民セデック族の抗日暴動事件「霧社事件」を描いているわけですから、戦闘シーンがかなり多く、それもほとんど肉弾戦で、首が相当数飛びます。印象としては、時間にして7、80%くらいが戦闘シーンだったように思います。

セデック族は、狩猟民族とのことで、男たちは狩り場を守り、侵入者に対しては果敢に戦いを挑み、容赦なく首を落としたりします。映画では、部族間の争いも相当厳しく描かれていました。

第一部の前半は、セデック族マヘボ社(先に部族と書きましたが、社は集落のような集団らしい)の若きモーナ・ルダオが、他部族(社)の男の首を取り、英雄ともてはやされたり、その後、侵攻してきた日本軍と戦い、やがて屈するところが描かれます。

後半は、35年後の日本の統治下、「新しい文化文明がもたらされる一方、日本人化運動が推し進められ、原住民族独自の文化や習慣がないがしろにされたり、一部では過酷な労働と服従を強いられ(公式サイト)」たりしたようで、すでにマヘボ社の頭目となっているモーナ・ルダオは、反旗を翻す機をうかがいながら、じっと耐えています。そして、1930年、日本人警察官との間で起こった小さないざこざがきっかけとなり、ついに蜂起の決断をします。ここまでが第一部。

そして第二部は、ほとんど霧社事件そのものが描かれています。

アクションシーンには、多分特撮などほとんど使われておらず、相当激しくアクションですが、極めてシンプルに撮られています。一定程度のリアリティを保ちつつ、歴史活劇としてのダイナミックさを失わない、とてもいいバランスを感じました。

そうですね、「海角七号」もそうでしたが、ウェイ・ダーション監督の撮る映画は、圧倒的ではないのですが、なぜか不思議と引き込まれる絶妙なバランス感覚のようなものがあります。こういう才能は、ハリウッドに向いているように思います。

ウェイ・ダーション監督、あるいは、次作、第三作目にしてはハリウッド進出? この映画、ジョン・ウーさんがプロデューサーで入っていますので、あるといいですね。

ところで、このところ戦中戦前の日本とアジア諸国の関係が賑やかしく語られることが多く、この映画もそういった視点で見る向きもあるかも知れません。その点でもバランス良く(という言い回しも変ですが…)つくってあります。

国家レベルでいえば、侵略行為であったことに間違いはないでしょうが、セデック族にもいろいろな人がいて、日本にもいろいろな人がいたということでしょう。