「ワンダーウォール 劇場版」青春の挫折は蜜の味

上映館の映画紹介を見て、ああ予告で見た京大の吉田寮のやつねと適当な記憶だけで見に行ったんですが意外にも(ペコリ)集中して見られました。

そもそも予告を見たというのも記憶違いかも知れませんし、NHKで放送されたドラマの再編集版ということも、ちゃんと書いてあるのに目に入ってこなかったらしく、ああそうだったのといういい加減さです(笑)。

 

ワンダーウォール 劇場版

ワンダーウォール 劇場版 / 監督:前田悠希

 

実は足を運んだ一番の理由は成海璃子さんなんですが、残念ながらあまり出番がなかったです。

 

成海璃子さんは「無伴奏」で初めて見て存在感ある俳優さんだなあと感心し、その映画では高校生役でしたので大人の女性のものを見てみたいなあと思ったわけです。

 

この映画では2シーン程度の出番ですがやはり存在感はあります。役柄としてマドンナ的な存在ということもありますが、寮へやってくるシーンでは周りの男たちに比べて大きく感じられました。

 

京都、京宮大学の学生寮近衛寮は築100年の古い木造建築の寮で代々学生の自主管理で運営されています。その近衛寮が老朽化を理由に大学側から取り壊して建て替えを提案されます。それに対して学生たちは補修による現状の姿での維持を主張しています。

 

この対立は10年来のものらしく、一度補修で合意が成立したもののその後大学側が撤回し、さらに大学側は学生たちが学生課に抗議にやってくることを想定し、学生課の室内に壁をつくってしまいます。

 

というところから映画は始まります。

すでに学生側と大学側の間には現実的な壁ができてしまっているところからの話ですので、いうなれば学生たちの挫折の物語なんですが、その描き方がうまいです。

 

ただ、好ましいという意味ではありません。

すでに学生たちは戦うべき対象を見失っています。志村(岡山天音)がキューピー(須藤蓮)に学校側の権力構造をこたつの上のものを使って語るシーンがあります。権力は何層にもなっており、我々はその表層に怒りをぶつけているだけで、その表層が適度に強固であれば(テラドポット)闘いも実感を得られるが、その表層がかわって無反応であれば(香)、もう何もできなくなると自分の挫折感を語ります。

 

さらに悪いことにその三船香(成海璃子)は闘いの先頭に立っていた三船(中崎敏)の姉であり、三船は目の前の敵がただ単に姉というだけで闘いを放棄し逃走するのです。

 

この三船香の設定は今の世の中を反映しているように思われます。

 

学生たちが学生課に抗議に押しかけた時、香は学生たちにとっては抗議する対象、言うなれば敵です。その香が後に寮へやってきて自分は三船の姉であり、この学校の卒業生であり、派遣職員であると語り、実は敵ではなく味方だということが明らかになります。さらに香は大学側の真の目的を語り闘うことは無駄よと言って帰っていきます。

 

実際にそう言っているわけではありませんが結局そういうことです。現代は敵が見えなくなっている時代です。言い換えればもう敵味方だの、対立だのというものの見方が受け入れられなく、また嫌われる時代です。

 

本当は香はキューピーや志村を奮い立たせ闘いの先頭に立つ存在にならなくてはいけないのです。

 

というのはやや斜め見に過ぎますが、映画全体としてもある種挫折の心地よさみたいな感じが漂っており、それがノスタルジックな映画のつくりとうまくあっているということかと思います。

 

ただ一本の映画としてみた場合、やはり物足りなさは免れませんし、やたらナレーションが多くて説明的ですし、ラストに持ってきている応援団(?)の合奏シーンもエンディングとしてはいいにしても唐突すぎます。

 

監督の前田悠希さんは現在27歳、ということは、この映画がNHKのドラマとして放送されたのが2018年ですので、24、5歳のときに演出をまかされたということですね。

 

NHKの内部にいて映画が撮っていけるとは思えませんが、また本人にその意志があるのかどうかもわかりませんが、映像のセンスにしても、物語の運びにしても映画向きだと思います。