THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~

主演のホアン・ヤオで持っている

基本は香港の学校に通う深センの女子高生の青春物語なんですが、そこに iPhoneの密輸というクライム・サスペンス風味を加えた映画になっています。主演のホアン・ヤオ(黄堯・黄尧)さんの存在感で持ちこたえている映画かと思います。

THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女

THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女 / 監督:バイ・シュエ

しかし、それにしても今の香港はどうなっているんでしょう?

このところの香港に関するニュースといえば、周庭さんや黄之鋒さんが収監されたとか、民主派議員が抗議のために全員辞職したとか、香港にとってみれば絶望的としか思えないようなことばかりですので、映画を見ていてもなんとも収まりの悪い感覚を覚えます。

この映画の時代設定は2015年ということらしく、わずかと言っていいのかどうか今から5年前の話なんですが、今や香港と深センの関係もすっかり様変わりしているのではないかと想像します。

香港と深セン THE CROSSING 越境

中国では自明のことかもしれませんが、香港と深センの関係を理解していないと登場人物の背景がよくわかりません。そのあたりのことが公式サイトの谷垣真理子さんと中井圭さんの解説文に書かれています。

深センで母親とともに暮らすペイ(ホアン・ヤオ)は16歳、毎日税関を通って香港との間を行き来して高校に通っています。父親が香港人ですのでペイには香港の永住権があるからです。父親は香港で暮らしており運送業をやっています。

ペイが父親のもとを訪ねるシーンがありますが、すでに両親の間には関係はないようです。映画は何も語っていませんので過去に婚姻関係があったかどうかはわかりません。

こういうことのようです。深センは1980年に経済特区となり、香港の企業が深センに生産拠点を移すなどしたため、それに伴って人的交流も盛んになり、関係は様々でしょうが香港人と大陸人の間に子どもが生まれることになったということです。

ペイの母親が働いている様子はなく麻雀をやっているシーンや男性との間のトラブルのようなシーンしかありませんし、後半にはペイが友人から母親のことを売女と罵られるシーンもありますので、おそらく父親が運送業で行き来するうちに深センで母親と出会いアパートメントを買って住まわせていた、あるいは同居していたのでしょう。

ペイが生まれた2000年ごろといえば香港と深センの経済格差はまだまだかなりのものだったのではないかと思いますのでそうしたこともあり得たのでしょう。ちなみに香港が中国に返還されたのは1997年です。

と書いて公式サイトのストーリーを読んでみましたらこういう物語らしいです。

香港で家庭を持ちながらトラック運転手として働いていた父親ヨンと出稼ぎに出ていた母親ランが出会い、ヨンは愛人としてランと親しくなりペイを授かる。景気も悪くなると、ランはヨンを香港に残しペイを連れて深センに2人で暮らす。母は麻雀で生計を立て、父は香港で別の家族を持ちながらトラック運転手をしている。ランは日々、友人との麻雀で生計を立てている。

そうだったの?(笑)

ネタバレあらすじ

映画の前半は焦点が定まっておらずどこに向かおうとしているのかやや見えづらいです。

ペイと親友ジョーは冬(?)休みに北海道へ行く約束をしています。ペイは雪が見たいと言っています。ジョーは温泉に入って日本酒が飲みたいと言っています。

香港人のジョーの家庭は裕福そうで、おばさんの住まいと言っていた家はプール付きでしたし、ジョーは早く航空券を買おうよと急かすのですが、ペイはまだお金がたまっておらず、オリジナルの携帯ケースを売ったりアルバイトをして旅行代金を貯めようとしています。

これがのちに自ら iPhoneの密輸に手を染めていく伏線になっていますし、ふたりの生活環境の違い(格差)がのちに仲違いする遠因につながっていきます。

ジョーに誘われ(学校をサボって?)船上パーティーに参加します。ペイ自身はあまり楽しそうではありません。罰ゲームで海に飛び込むことになります。溺れそうになります。ハオが助けてくれます。ここでペイはハオを意識することになるのですが、ハオはジョーの恋人なのです。

パーティーからの帰り、税関を通るときです。後ろで係員のちょっと待てとの声、振り返りますと、パーティーで一緒だった男がすれ違いざまに包みをペイに預け走り去っていきます。

iPhoneです。谷垣氏の解説によれば、iPhone6の時代らしく、関税により大陸では割高になるためにその利ざやを稼ごうと密輸が横行していた(している?)とのことです。

これ以降はペイの密輸シーンでひやひやするシーンも多くなりそれなりに持ちますが、ここらあたりまではかなり冗長です。

ペイに電話が入り iPhoneを深センの指定の場所まで持っていきますとお金を渡されます。ハオたち船上パーティーの男たちは密輸グループだったということです。ペイは自分もやりたいと仲間に加わります。

初めての密輸のシーンはひやひやします。ホアン・ヤオさん、おそらく撮影時は22、3歳だと思いますのでかなりしっかりした人物の印象ですが、逆にその落ち着きがゆえの緊張感が生まれています。

密輸シーンは2、3シーンあったかもしれません。その間に、家に帰れば母親の麻雀シーンであるとか、男とのトラブルシーンがあり、ペイの生活環境が語られます。

密輸にもかなり慣れてきた頃でしょう。ペイは密輸グループの女ボスに度胸があるということでかなり買われています。ある時、ボスが拳銃をちらつかせ、これを運んでみるか(という意味だと思うが違っているかも…)などとカマをかけたりしてきます。ハオには危険だからやめろと止められます。

ある密輸シーン、深センに入り途中で iPhoneを落としてしまいガラスが割れてしまいます。闇市のようなところで修理しようとしますが、iPhone6が大陸では手に入らないのでしょう、人が集まり、売ってくれ、売ってくれと iPhoneを持っていこうとします。

このシーンも結構ひやひやしますし、人が集まって iPhoneが人から人へと渡っていくところはとても面白いシーンでした。

そこに突然ハオが現れ iPhoneを取り戻し、知り合いの修理屋へ連れて行ってくれ、密輸は何とか事なきを得ます。

ハオがペイを香港の街を見下ろす山に連れていきます。特別ふたりの関係が進展するというわけではありませんがハオもそれなりにペイのことが気になっているのでしょう。

ただ、今振り返って考えますと、こうしたシーンも次のシーンへの前振りになっており、なぜハオがここへ連れてきたかという必然性よりも物語の組み立てのために入れられているような気がします。

実際、ジョーがこの件を聞きつけて、私の恋人を取った!あんたは母親と同じ売女よ!と罵られ絶交となります。

このあたりのシーンで、密輸グループのボスがハオに疑念を抱いているようなカットを入れているのも同じことで、かなり唐突ですが次のシーンへのフリになっています。

ハオが自分自身のルートで iPhoneを密輸しようとペイを誘います。ぺいは誘いを受けます。

ふたりがお互いに大量の iPhoneを体に巻き付けるシーン、かなり意識して撮られているシーンです。ドキドキします(笑)。この映画、キスシーンさえないのですが、このシーンはかなりエロさ(違う言葉はないのか?)が意識されています。多分街のネオンだと思いますが、小部屋に赤っぽい色合いが満ちており、ハオがシャツをたくし上げペイが iPhoneベルトを腰に巻き、今度は逆にハオがペイの腰に巻きます。ペイのスカートの中の太ももにまで巻きます。荒い息遣いが入っていたと思います。(見ている自分の息遣い?(笑))

ふたりの抜け駆け密輸は成功し例の深センの修理屋に到着です。が、そんなことはグループのボスにはお見通しです。グループの一団に乗り込まれます。ペイはボスに頬を叩かれ、でも、もう一度チャンスをあげると言われ(ていたと思い)ます。

しかし、残念ながら警察に踏み込まれ全員逮捕です。

後日、ペイはたいした処分にはならなかったのでしょう、母親を連れてハオときた山に上り香港を見下ろしています。雪が舞ってきます。(実際に香港でも雪が降ったことがあるそうです)

ホアン・ヤオ(黄堯・黄尧)で持っている

ということで、うまく出来た映画だとは思いますが、物語展開のためにつくられたエピソードつなぎの感が消えておらず、ペイの心情をもっと前面に出すシーンを入れるべきなんだろうと思います。

ペイは生活拠点である深センをどうみているのか、また香港をどういう場所と考えているのかがみえれば、ペイの脱出願望であるとか、なぜ雪を見たいと思っているのかとか、なぜ最後に母親をあの山につれてきたのかとかがはっきり示されたんだろうと思います。

そうした物語のぼんやりしたところをホアン・ヤオさんが救っています。

1994年生まれですから現在26歳、撮影当時は中央戯劇学院を卒業したばかりの22、3歳だったようです。

さすがに16歳にしてはしっかりし過ぎとも思いますが、なにせ環境が環境ですからあれくらいタフでもよかったのかもしれません。

この映画の演技で2019年の第13回アジア・フィルム・アワード(Asian Film Awards、亞洲電影大獎)の新人賞にノミネートされています。受賞とはならなかったようです。

今後が期待できる俳優さんです。

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