天国でまた会おう

面白い物語なのに焦点が定まらず…。

映像的にはロマンチシズムの香りがします。ふと「レ・ミゼラブル」が思い浮かぶようなクラシカルでロマンチックなフランスっぽい映画です。ただ、物語自体は第一次世界大戦というヨーロッパを疲弊させた戦争後の話ですので、そんなに明るい話ではありません。

天国でまた会おう

天国でまた会おう / 監督:アルベール・デュポンテル

私は読んでいませんが、同名タイトルの原作があるとのことです。ピエール・ルメートルさん、現在67歳で、この映画の脚本にも名を連ねています。

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

原作は人間関係がとても濃い~大河的な物語ではないかと想像しますが、どうでしょう、映画はあまりうまく整理できていないんじゃないでしょうか。ヴィジュアルもいいですし、物語も面白そうなんですが、いろいろありすぎて何に注目していいのか定まらない感じです。

登場人物はさほど多くないんですが、皆が同列に並んでいる感じで誰が軸なのかはっきりしていません。それに小さなエピソードが散りばめられていて、それらが回収できていないといいますか、フェードアウトしてしまっています。

まず、アルベール(アルベール・デュポンテル)、監督自身が演じています。このアルベールが、1920年(だったかな?)、フランスの植民地モロッコで何らかの容疑で尋問を受け、その話が回想シーンとなって映画は進みます。

回想は1918年、第一次世界大戦の西部戦線から始まります。いろいろ映画にもなっている戦争で、ドイツなど同盟国とフランスなど連合国がともに塹壕を築き、その長さが760kmにもおよび膠着状態に陥った泥沼の戦争です。

アルベールは一兵卒で、上官がプラデル(ローラン・ラフィット)と言い、アルベールが語るには根っからの戦争好きで、まもなく休戦になろうかという時にわざわざ部下二人を偵察に出します。

で、銃声がして睨み合っている双方から砲弾が飛び交い戦闘が始まります。プラデルから突撃命令が出て兵士たちは大混乱に陥るのですが、その時、アルベールは偵察の二人が背中から撃たれている姿を発見します。つまり、プラデルが戦争したさに味方を撃ったということです。アルベールとプラデルの目が合います。

まずこれ、普通なら重要な映画の起点になってもいいような出来事なんですが、忘れ去られはしないものの、たとえばプラデルがアルベールを無きものにしようとするとか、アルベールがどこかに訴えようとするとか、互いのそうした思いはほとんど表に出てきません。

戦闘中の混乱の中、アルベールは逃げ惑ううちに塹壕(単に穴?)に落ち生き埋めになります。エドゥアール(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)がそれを救います。しかしその時近くで砲弾が炸裂し、エドゥアールは顎を吹き飛ばされてしまいます。

この二人の関係が一番重きをなしています。いや、関係ということでもなく、この二人に絡んで起きる様々な出来事といったほうがいいですね。

映画そのものはあまりよくないのですが、この戦闘シーンはよかったです。さほど長くありませんしリアリズムでもありませんが、カメラワークとテンポでかなり迫力を出しています。

顔半分を失って絶望的になったエドゥアールは家へ戻ることを拒みます。アルベールは仕方なく死亡した兵士の認識票とすり替え、エドゥアールが戦死したものとします。 

二人はパリに戻り共同生活を始めますが、帰還兵たちへの世の中の風は冷たく生活は楽ではありません。貧しい借家住まいの二人ですが、大家(かな?)に預けられている孤児のルイーズはミルクを持ってきてくれるなど親切で、エドゥアールとも打ち解け、さながら三人組のような仲になります。

アルベールはエドゥアールにつくしているという印象です。痛みのせいなのか精神的なものなのか、しきりにモルヒネを求めるエドゥアールのために街の傷痍軍人から奪うといったひどいこともやってしまいます。命を助けてもらったからということでしょう。ただ、この二人が親密になっていくという描き方はされていません。

エドゥアールは虚無的です。気が紛れるのか、絵を描いたり仮面をつくることに集中しています。そして、自分をこんな目にあわせた国(とははっきりしていないが)に復讐するために絵の才能をいかした詐欺を計画します。世の慰霊ムードを利用し、慰霊碑のデザイン画を書き、注文だけ受けてモロッコにとんずらしようという計画です。カタログ制作はエドゥアールとルイーズの役目、そしてアルバートはサンドイッチマンなどをしてその資金作りです。

この詐欺計画も、エドゥアールとルイーズは積極的ですが、アルバートはもともと小心者ということもあり、あまり乗り気ではなく、エドゥアールの勢いに負けて従っている感じです。

考えてみれば、この計画、国への復讐になりませんね。カタログを作って広く注文を受けるということですから、その対象は戦争で家族を失った遺族ということになり、自分たちと同じ立場にある人たちを傷つけることになってしまいます。どういうことなんでしょう?

そうしたことも関係しているのか、この詐欺計画は有耶無耶のうちに忘れ去られたような扱いになっており、そのカタログで誰かが注文したとかそんなシーンもなく、なんとなくあららという感じでもうひとつの詐欺計画にすり替えられていました。

どういうことかといいますと、エドゥアールの家は銀行を所有する資産家で、父親は厳格で傲慢な印象の人物です。もともと芸術家肌のエドゥアールとの折り合いはよくありません。さらに金の力で政界にも力がおよぶようで、市長(だったかな?)が媚びてお伺いを立てにくる人物でもあります。エドゥアールが戻りたくなかったのはそうしたこともあるのでしょう。

で、その父親がその資金力で大掛かりな慰霊碑建設の計画を立てそのデザインを公募します。当然、エドゥアールも応募する流れになり、当然、選ばれます。

エドゥアールがこの建設計画の出資者が父親であることを知っていたかどうかはっきりしていません。私が見逃しているかもしれませんが、少なくともそれを示すはっきりしたシーンはなかったと思います。

父親の方は、応募作品に息子のサインを見つけ、あるいは息子かもしれないと半信半疑で、また詐欺(製作までの委託事業だから)であることがわかり、デザインの応募者を探し出そうとします。

で、実際に探し出して対面となり、ひとつのクライマックスということになるのですが、その前にプラデルの話があります。

これがかなり唐突な話なんです。

エドゥアールには姉がいるのですが、全くそれらしきシーンも経緯の説明もなくプラデルと結婚しています。正直、は? ですが、まあそういう映画です(笑)。こういうところを疎かにしていますので物語の軸がはっきりせず映画がぼやけてしまっています。おそらく原作にはいろいろ記述があるのでしょう。

で、そのプラデルは、おそらく義理の父の力を利用してだと思いますが、戦没者を埋葬する事業を立ち上げ、さらにはいもしない戦没者を埋葬する不正をはたらいたり、中国人の労働者を(多分)搾取したりして大儲けしています。

このプラデルへの復讐も同時に進行します。計画をリードするのはこちらもエドゥアールで、アルベールは言われたままに動くといった感じです。

この映画、見たのがもう一週間ほど前ですのでかなり記憶も薄れており、どういう流れだったかはっきりしませんが、エドゥアールの策略で不正が役所にばれ、調査に来た役人とのやり取り中で、埋葬のために掘ってあった墓穴に生き埋めになってしまいます。たしかその場にアルベールもいたように思いますが、なぜだったか忘れてしまいました(涙)。

とにかく、これでひとつ問題解決です(笑)。

映画のラストは(アルベールにとっては)ハッピーエンドとなるのですが、そのためにもうひとり登場させておかないといけない人物がいます。

エドゥアールの父は良き人間ではありませんが、そこは親子、息子への愛情はあるようで、アルベールが戦友であったことを知り、エドゥアールの最期の様子を聞きたいと屋敷に招待します。

アルベールは似合わない一張羅を着込んで出掛け、そこでメイドのポリーヌ(メラニー・ティエリー)と出会い一目惚れします。その後デートに誘うシーンやベッドをともにするシーンもあります。

ところで、このメラニー・ティエリーさん、この映画ではあまり出番もなかったのですが、ちょうど今日見てきた「あなたはまだ帰ってこない」、マルグリット・デュラスの自伝的小説『苦悩』を映画化したものなんですが、マルグリット本人をやっておりとてもよかったです。

で、やっとエドゥアールと父の結末です。最初に言い訳しておきますと、ここあまりはっきりと記憶していません。記憶できるようにつくられていません(笑)。

父親は、応募作を書いたのはエドゥアールではないか、息子は生きているのではないかとプラデルに応募者を探し出すように命じ、居場所を突き止めます。

エドゥアールは、モロッコへの出発を目前にして(確か)ホテルでモルヒネをうち意識はやや混濁気味です。中毒になっているということでしょう。

エドゥアールは鳥の仮面をつけています。対面する二人、もちろんエドゥアールには父であることはわかりますし、父親の方も確信したようです。父親は絵を褒め称えます。抱擁する二人。エドゥアールは「天国で…」(のような)の言葉を残し、そのまま後ろ向きにホテルの屋上から飛び立っていきました(飛び降りました)。なぜ屋上にいったか記憶がありません(ペコリ)。

で、アルベールがモロッコで尋問を受けるシーンに戻ります。聞き終えた尋問官(軍人?)は部下たちにもう帰れといい、自分も席を外すといいます。怪訝そうな顔のアルベールに、偵察に出た兵士のひとりは私の息子だといいます。

アルベールが外に出ますと、そこにはルイーズとポリーヌが待っています。開放的なモロッコの空の下、三人が大きなトランクを抱え笑顔で歩いていきます。

むちゃくちゃ長くなりましたが、そういうお話です。

やや取ってつけたような結末ですし、何度も書いていますようにあれこれ詰め込み過ぎで焦点がボケています。どれかひとつに絞って、一番映画的なのはエドゥアールだと思いますが、彼をもっと前面に出して、いろいろ出てきた仮面ももっと生かして作れば面白い映画になったように思います。まったくの想像でいえば原作者が脚本に入っているのがよくないかも知れません。

監督、主演のアルベール・デュポンテルさん、顔に記憶はありますが映画は思い浮かばずググってみましたら、「アレックス」の人だったんですね。

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天国でまた会おう 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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