「太陽は動かない」ネタバレレビュー・あらすじ:アクションに走りすぎて肝心の人物描写がない…

吉田修一さんの『鷹野一彦シリーズ』3部作のうち、2011年に月刊誌に連載された『太陽は動かない』と、その後書き下ろしで2015年に発刊された『森は知っている』の2作を原作としてます。

ちなみに3作目の『ウォーターゲーム』は2作めに続いて2015年から2016年にかけて新聞連載されています。その頃から映画化の話が持ち上がったようです。

 

太陽は動かない

太陽は動かない / 監督:羽住英一郎

 

 

原作はスパイアクションものではないよ 

映画はかなりアクションに力が入っていますが、原作のテイストはどちらかと言いますと、青春群像ものだと思います。3作すべて読むとそれがよくわかりますし、『ウォーターゲーム』発刊時のインタビューを読んでも作者のそうした思いがよく伝わってきます。

 

 

このインタビューにもありますが、『太陽は動かない』の着想の原点は2010年に起きた「大阪2児餓死事件」とのことです。小説の内容からはあまりにかけ離れた事件ですので、え?とにわかには結びつかないのですが、おそらく事件に衝撃を受けてなにか書かねばと思い巡らしていたのでしょう。最初はその子どもたちを部屋の外から見る視点しかなかったのが、ある時突然、中の子どもの視点になれたということで、つまり、『太陽は動かない』の物語は母親によって閉じ込められた子どもが見る空想物語だということです。

 

その瞬間、目の前の世界がガラッと変わり、ぱぁーんと視界が広がっていった先にあったのは、絶望でも哀しみでもなく、ヘリコプターで空を駆け巡ったり、車で突っ走ってみたり、という子供っぽい空想の世界でした。
幻冬舎plus

 

映画の中で風間が鷹野に言い、そして鷹野が田岡に言う「今日一日生きればいい」というのは閉じ込められた子どもたちの思いの言葉だということです。また、日に一度連絡しなければ爆死させられるという設定もそこからきているわけです。

 

で、その空想物語に反映されているのが吉田修一さん得意の青春群像ものです。

 

原作に書き込まれているのはスパイものではあってもアクションものではなく、鷹野をはじめ、田岡、デイビッド・キム、AYAKOたちの絡み合いや会話がほとんどであり、それは吉田修一さんが空想する青春物語ということだと思います。

 

同じくインタビューでこう語っています。

なぜ、このキャラクターが、書き始めたときから出てきたのか。今思うと、このストーリーのなかにいる者たちを、ものすごく羨ましがっている僕自身の視点から生まれたように思うんです。 

 

ですので、映画はアクションに走りすぎているきらいがあり、それぞれの人物を立ててその駆け引きをみせるような正統派(って言ってもよく知らないけど)スパイものを狙ったほうがよかったように思います。

 

その点では鷹野と田岡のバディっぽさも足りませんし、AYAKOと鷹野やキムの間にも会話の妙というものがなく、多用されていると思われるアフレコの違和感だけが残ってしまう結果になっています。

 

それに映画の結末としてもAYAKOとキムは鷹野たちとは違うものを追っていた(ような)わけですので、誰が敵か味方かわからないそんな駆け引きを見せていけばドンデンということも可能になりますし、いろいろ楽しい話になったように思います。

 

原作はそういう物語ですよ。

 

 

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

いきなりブルガリアの市街地を使ったアクションシーンから始まります。

 

すごいなあとは思いますが、もうああいうのは見慣れていますからねえ。

 

とにかく、AN通信のエージェント山下(市原隼人)が何者かに拘束されて本部への連絡が入れられずに胸に埋め込まれた爆弾が爆発するタイムリミットが迫っています。それを救い出しにきた鷹野(藤原竜也)と田岡(竹内涼真)ふたりと悪者たち(?)の格闘シーンやカーアクションが続きます。

 

結局山下は間に合わず爆死します。

 

 

あまり細かく物語を書いても意味がありませんので設定と概要だけにとどめます。

 

AN通信は世界中にネットワークを持つ産業スパイ組織です。鷹野、田岡、山下はそこの情報部員です。彼らには24時間毎に本部に連絡を入れなければ爆死させられる爆弾が胸に埋め込まれています。

 

今回の任務の依頼主は日本の大手電機メーカーMETの取締役川上(鶴見慎吾)であり、山下がその任務を担っていたわけです。しかし、山下が拘束され爆死したために鷹野と田岡がそれを引き継ぎます。

 

任務はMETの提携先である中国の巨大エネルギー企業CNOXの真の狙いを探ること(だったと思う)です。山下はその情報を手にしたためにCNOXから狙われ拘束されたということです。

 

CNOXは会長アンディ・ウォンが率いており裏社会にも通じています。CNOXはMETに日本での電力事業を持ちかけていますが、実はMETの持っている蓄電技術を手に入れることだけが目的で電力事業はフェイクです。

 

CNOXの真の構想は、宇宙空間に太陽光パネルを打ち上げて発電し、それをマイクロ波変換して地球に送り蓄電するという宇宙太陽光発電というものです。それを実現するにはCNOXの資金力(かな?)にMETの蓄電技術、そしてもうひとつ必要なのがマイクロ波変換技術です。その研究の第一人者がブルガリア大学の小田部教授(勝野洋)であり、CNOXはすでに小田部に接近しておりその情報を山下はつかんだということです。

 

多分こういうことじゃないかと思いますが、なにせアクションが中心の映画ですので物語自体はかなり適当に(ぺこり)端折られている印象で、正直あまりよくわかりません。もちろん原作はもっと複雑(と記憶している)です。

 

で、そこに一匹狼の産業スパイであるデイビッド・キム(ピョン・ヨハン)と正体不明の女性AYAKO(ハン・ヒョジュ)が絡んできます。

 

このふたりが何を目的に、あるいは誰に雇われているかということは曖昧です。とにかくアクションだけです。ですので、鷹野とキム、また鷹野とAYAKOの格闘シーンがあったりしますが、何を争っているのかは不明です(笑)。

 

基本的には小田部教授の争奪戦が軸ということになり、まずキムが小田部の娘を介して小田部に近づき、ブルガリアからどこか(どこだっけ?)へ列車で移動しようとしますが、そこにCNOXとAYAKOが催眠ガスを持って乗り込み小田部父娘を奪取して、CNOXは船で小田部父娘をどこかへ連れて行こうとし、AYAKOはどこかへ行ってしまい、鷹野と田岡は船の後を追い、あれ?どうやって船に乗ったんでしたっけ? とにかく(じゃない!)その頃アンディー・ウォンが汚職か何かで失脚し、宇宙太陽光発電構想は中断してしまい、もういらなくなった小田部教授も船ごと沈めてしまえということになり、間一髪、鷹野が船から小田部父娘と田岡を救い出し、海にぷかぷか浮いている時にキムがヘリコプターで救出してくれるということになります。

 

このキムの救出劇ですが、鷹野がキムに誰に頼まれた?と聞いた時、ワンカットだけ写った男がいます。キムがなんと答えたか聞き取れていませんが、あれ、少年時代の親友である柳勇次ですね。柳は『ウォーターゲーム』にリー・ヨンソンとして登場します。

 

という『太陽は動かない』をベースにした物語の中に鷹野の青春時代とその生い立ちのフラッシュバックが入ります。それが『森は知っている』からとられた物語です。

 

鷹野はネグレクトからのサバイバーです。AN通信が引き取り(原作では誘拐みたいなものだったように思う)、しばらく風間(佐藤浩市)のもとで育てられ、その後南蘭島に移り同じ境遇の柳とともに高校生活を送っています。同級生には東京から転校してきた菊池(南沙良)がいます。鷹野は菊池に恋心を抱いています。

 

映画では描かれていませんが、南蘭島では鷹野も柳も密かに特殊訓練を受けています。18歳になりますと情報員になるかどうかの決断をすることになり、それは胸に24時間タイマーを埋め込むかどうかの決断でもあります。

 

柳には発達障害の弟がいます。柳は弟とふたりで逃げる決心をし、AN通信が持っている情報を盗み出して逃亡します。映画はここまでですが、この柳が『ウォーターゲーム』のリー・ヨンソンになります。

 

鷹野は東京への修学旅行の際にある場所に忍び込んで情報を盗み出す最終試験を課せられます。首尾よく盗み出したもののそこに同じものを狙った敵が現れ奪われてしまいます。デイビッド・キムです。

 

生涯のライバルという意味でしょう。

 

映画はそこまでです。鷹野は任務は失敗したもののAN通信の情報員となります。

 

ラストシーン、METのパーティー会場を去っていく鷹野の後ろ姿に「鷹野くん…」とつぶやく女性がいます。南蘭島の初恋の人、菊池です。

 

柳のチラ出しと言い、このシーンと言い、続編をつくるつもりなんでしょうか。

 

キャスティングと映画のつくりは…

鷹野一彦

原作でも鷹野はスーパーマンではなく人間味のある人物ですのでその点では藤原竜也さんは適役だとは思いますが、この映画のようなアクション中心ですとちょっと物足りなさは感じます。

 

田岡亮一

竹内涼真さんを初めて見ましたのでよくわかりませんが、そもそもこの映画の中では人物像がはっきりしません。原作には単独シーンもたくさんありいろんな迷いを持った行動的な青年だったと思います。

 

AYAKO

こういうキャラクターは日本の俳優さんではなかなか思いつかないですね。ハン・ヒョジュさんはよかったと思いますが、無理やり日本語を話させる必要はなかったと思います。

 

デイビッド・キム

AYAKOと同じで、ああいう使い方をするのであればある程度日本語で演技の出来る俳優にするか字幕にしたほうが流れがよくなります。

 

映画のつくりで一番感じたことは音楽の付け方が古臭いですね。

 

全体の構想としては現在軸はスパイアクションものでいき、鷹野の人物像はフラッシュバックで描くということかと思いますが、詰め込み過ぎですべてがダイジェストになっています。

 

現在軸に、もっと鷹野の人物像が出るシーン、たとえばAYAKOやキムと絡むシーンを入れて鷹野のキャラクターに厚みを持たすべきだったと思います。

 

ところで、エンドロールに流れていたのはWOWOWのドラマ版の映像だったんですね。

ああ、ちょうど今「Final Episode」が放送されているようです。

 

見られないけど…。

 

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