シシリアン・ゴースト・ストーリー

実話ベースと知らずに見るとちとつらい、知って見ても…

何も知らずに、愛する人の前に幽霊が現れる、いわゆるゴースト・ラブストーリーものだろうと見に行きましたら、確かにラブストーリー要素はあったのですが、オープニング、いきなり不吉な印象のシーンで、なんだこれ!? のぞわぞわ感、なんとも落ち着かない気持ちのまましばらく過ごすことになってしまいました。

これは、ざっとでも情報を入れて見に行ったほうがいいですね。

シシリアン・ゴースト・ストーリー

シシリアン・ゴースト・ストーリー / 監督:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ

映画の中ほどあたりまででしょうか、これがどんな映画なのかつかみかねてモヤモヤしていたんですが、13歳の少年ジュゼッペ(ガエターノ・フェルナンデス)がマフィアに誘拐され監禁されていることが理解できてからは、ああ、これは実話ベースの映画かなと、さもなくばこんな物語をこんなつくりで映画にするなんてかなりの才能だなと、結構興味が湧いていきました。

実話ベースでした。「dino」というサイトから一部引用です。

1993年11月23日、警官の制服を着た男たちがジュゼッペを車で連れ去った。指示したのはマフィアの頭領ジョヴァンニ・ブルスカだった。息子を救うためなら(父親が)検察にマフィアの内情を漏らすのをやめるにちがいないと考えての犯行であった。しかし、(父親は)告発を続け、ジュゼッペの監禁は779日間にも及んだ。1996年1月11日絞殺され、死体は酸で溶かされた。

映画は、この事件を事件としてリアルに描くのではなく、ルナ(ユリア・イェドリコブスカ)という同級生の少女を置き、ルナがジュゼッペを必死に探すという設定にし、その強い思いから見る幻影を織り交ぜながらのファンタジーのような作りになっています。

ということから非常につかみにくい映画になっているわけで、おそらくイタリアでは知らない人はいないような事件でしょうから、ないとは思いますが、もし事件を知らしめる意図があるとすれば成功しているとはいい難いです。追悼ファンタジー映画のような印象です。

つかみにくいという意味では、カメラワークも特徴的で、どアップの連続と(事件を知る意味では)肝心なところをわざわざ見せないようなピントのあわせ方やフレーミングを用いています。

映画は、ルナがジュゼッペに告白するところから始まり、その後一緒にいる時に誘拐されるわけですが、そのシーン、ルナがこちらを向いているクーズアップにピントが合っている画の遠くで車が2台ボケた状態で止まり、走り去る画になっています。

その時はそれが誘拐シーンとはわかりません。ただ、かなり意図的なシーンでしたので、ああ車が2台いるなあと思った程度ですが、後に、そのシーンは誘拐場面として違う画で繰り返されます。

その後はルナが必死にジュゼッペを探すことが続きます。ただ、なにせファンタジーですので切迫感のようなものはなく、さらに、ルナの家族が実に奇妙で、両親はうまくいっておらず、母親は健康オタクなのかよくわからないキャラクターで、家の地下のサウナに入っている時はルナにここに来るなと言ってみたり、ルナと父親が釣り(ピクニック?)に行くシーンでは母親のランチ(焼きリンゴと何だっけ?)を捨てて、二人でピザやコーラの不健康な(笑)ものを食べていました。

こういう家族設定の意味がわかりません。

で、ルナは両親を含め大人たちがなぜジュゼッペを探そうとしないのか不満で、といいますか、そうした疑問が強調されたシーンはありませんでしたのでルナもわかっているということだとは思いますが、髪をブルーに染めたりと反抗的になっていきます。

ただ、このルナの反抗を両親ともにまともに受け止めるようなシーンがありませんので、とにかくモヤモヤモヤモヤしながら見ている以外にありません(笑)。

その後、上に書いた父親との釣りのシーンだったと思いますが、ルナは湖をじっと見ているうちにジュゼッペに呼ばれて幻影を見たのか水の中に入っていき、シーンしては幻想シーンがいろいろあり、結局父親に助けられて、それがもとで精神科の施設に入れられてしまいます。薬漬けにされたというようなことを言っていましたのでそういうことでしょう。

ちょっと話はそれますが、イタリアって薬漬けにするようないわゆる精神病院って、2015年までに廃止されたんだと思いますが、ああ、これ、その前の話か…。

ということで、後半になりますと、監禁されたジュゼッペがだんだん生気を失っていくシーンも増え、実際の事件通りに監禁場所も移され、ついには絞殺され、そのものの画はありませんがドラム缶の中で酸によって溶かされ、湖に捨てられます。

ルナとのことはと言えば、ルナが幻影の中で監禁場所を見つけ、再会し、冒頭に引用した公式サイトの画のようにふたりが横になっているシーンとなります。

で、ラスト、ルナには、一緒に髪をブルーにしてくれるなど最後まで味方になってくれる親友がいるのですが、その親友と男友だち二人の四人で海辺で楽しく戯れるシーンで終わっていました。これもよくわかりません。

ということで、気持ちがスッキリするような映画ではありません(笑)。そもそものつくりに無理があると思いますし、あの思わせぶりなカメラワークもくどいですし、何をおいても映画にメリハリがありません。ただ、シチリア(だよね)の風景は美しいです。

それにしても事件自体はシチリアののどかな風景にはまったくもって不釣り合いな事件です。

マレーナ (字幕版)

マレーナ (字幕版)