そんなには褒めないよ。映画評

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「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(ネタバレ)今の日本を顧みるための映画

ブッシュ政権が2003年3月20日に始めた違法なイラク戦争、アメリカの大手メディアがこぞって戦争を支持していた時、ただ一社ナイト・リッダーだけがブッシュの嘘を暴こうとしていたという based on a true story の映画です。主要な登場人物である下の画像の四人、皆実在の人物ですし、現実のニュース映像も頻繁に使われています。

 

記者たち 衝撃と畏怖の真実

記者たち 衝撃と畏怖の真実 / 監督:ロブ・ライナー

 

率直なところ、映画としての出来はあまりよくないです。実話ベースということもあるのでしょうが、真実と銘打ちながらもほとんど突っ込んだ描写はなく、ナイト・リッダーの記者二人が政府内の情報提供者から情報を得るところは何シーンかありますが、それが具体的にスクープになったりするシーンはなく、映画を見ていても、ブッシュの嘘を暴く記事が広く世に知らされたかどうかも曖昧なまま終わっています。

 

そもそも、ナイト・リッダーそのものがよく理解できません。ニューヨーク・タイムズとかワシントン・ポストといった新聞単体ではないようで、ウィキペディアには「2006年6月27日にMcClatchyに買収されるまで、米国では第2位の新聞社で、日刊紙32本が販売されていました」とあり、映画の中でも、ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコット(ロブ・ライナー)がその傘下の新聞社に、なぜ自分たちが配信している記事を掲載しないのだと怒鳴り込んでいるシーンがありました。通信社の機能を持っているようにも、メディアグループのようにもみえます。

 

映画の出来がよくない一番の理由は、起承転結(メリハリ)がはっきりしていない(まったくない)ことで、最初から最後まで、実際のニュース映像とナイト・リッダーが入手した(真実の)情報を対比させて描いているだけだからです。

 

冒頭と最後にイラク戦争で負傷した兵士のシーンを入れているのですが、これの意図するところがはっきりしていません。つまり、映画の基本的な視点としてはアメリカの若者を戦争で死なせてはいけないということなんでしょうが、それが基本テーマとしていいかどうかは置いておいて、仮にそうだとしても映画全体としてはそのテーマはほとんど浮かび上がってはきません。また、映画のメリハリのためと考えてもほとんど効果を発揮していません。

 

やはり、映画全体として浮び上がってくるのは権力とメディアの関係です。 

 

ナイト・リッダーの記者二人、ジョナサン・ランデー(ウッディ・ハレルソン)とウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)、支局長のウォルコット、そして引退したジャーナリストのジョー・ギャロウェイ(トミー・リー・ジョーンズ)、この四人が情報提供者に電話をし、時には切られてしまうこともありますが、特別苦労するシーンもなく、オイオイそんな簡単に情報漏らしていいのかと心配になるくらい簡単に政府内の極秘情報を得ています。

 

で、どうなったか?

 

これがわかりません。後半に他社に抜かれたからもう記事にできないとか、上に書きましたように傘下の新聞になぜ書かないのかと訴えたり、そんなシーンはあるのですが、ナイト・リッダーがどうしたのかは最後まではっきりしていません。

 

ブッシュ自身も誤った情報に基づいていたことを認めていることでもあり、それを後追いで映画化しているようにしかみえないです。

 

ただそうとは言っても、2003年ですからわずか16年前であり、ブッシュや(映画の中で)実際にイラク戦争を主導した当時の国防長官ラムズフェルドもまだ健在です。それなのに、アメリカという国ではこの映画がメジャーな作品として制作できることには驚かされます。

 

すごいですよね。どうしても、かたや日本は…、と言わざるを得ません。

 

少なくとも当時の日本は小泉首相がいち早くブッシュ=アメリカ支持を表明しているわけで、その後イラク戦争に突入するも大量破壊兵器が見つからず、ブッシュでさえ誤りを認めたにもかかわらず、小泉首相以下日本政府は何も語らず有耶無耶にしたままです。

 

考えてみれば、あれは日本の転機でした。現在の安倍政権もあの小泉政権に繋がっています。それまでのある種消極的なアメリカ追従が積極的アメリカ追従に変わった瞬間だったということです。

 

さらに、この映画、ちょっと入れ替えれば今の日本に当てはまる部分は多いです。

 

映画の中で政府内の情報提供者が、今、政府内で行われているのはイラクに大量破壊兵器があるかないかの調査ではなく、あることを証明(主張)できるデータを探すことだと語っていました。

 

以下、想像と憶測によっていますが(笑)、公になっていることでいえば、厚生労働省の毎月勤労統計調査不正では給料が上がっていると主張できるデータをつくれですし、森友疑惑では無償に近い金額になるまでゴミを増やせ、さらに追求されそうなデータは改竄しろですし、加計学園獣医学部疑惑では加計が選ばれる条件にしろですし、おそらくこれらは氷山の一角でしょう。

 

大手メディアが一斉にイラク戦争支持にまわったことも、現在の日本に当てはめれば、あれもこれもと思い当たることばかりです。上に上げた疑惑ひとつとっても、10年前の日本でしたら政権は倒れています。その理由に野党がだらしないからなんて常套句を書いたり語ったりしているメディアがありますが、違うでしょう、自分たちが追求しなくなったからです。

 

それがなぜかは、権力の圧力もあるでしょうし、記者クラブの弊害もあるでしょうし、記者という仕事に対する個々のメンタリティーの問題ということもあるでしょうし、メディアの主流が徐々にネットに移りつつあることもあるでしょう。

 

でも、これが一番じゃないかと思うのは、何か抗しがたい大きな歴史の流れの中に、常に我々は置かれている、そんな気がしてなりません。