「さくら」ネタバレレビュー・あらすじ:俳優を活かせていない演出に問題あり

西加奈子さんのベストセラー(だそうです)小説『さくら』の映画化です。

と言っても、この『さくら』だけではなく西加奈子さんの本を読んだことはありません。ただ、「まく子」は見ています。

 

さくら

さくら / 監督:矢崎仁司

 

俳優で見せる映画だが…

率直に言って印象のうすい映画です。けっして良くないという意味でもないのですが、思い返してみてもかなりぼんやりしています。

 

20年くらいにおよぶ家族の物語です。ほぼ家族5人で完結している物語です。ですので必然的に俳優で見せなくてはいけない映画だとは思いますが、それぞれ俳優は頑張っていてもなにかトータルとして湧き上がってくるものがないというそんな感じがします。

 

北村匠海さん、小松菜奈さん、吉沢亮さんの兄弟姉妹に寺島しのぶさんと永瀬正敏さんの両親の家族5人、昭和の平均的な家族イメージだと思います。

 

夫が働き、妻は専業主婦、子ども3人、借家住まいだったのが高台にある一戸建ての家を買うこともできました。夫は口数は少ないのですが温厚で妻にも子どもたちにも優しく、妻は家事をそつなくこなしあらゆることに眼が行き届きそつがありません。長男の一(吉沢亮)は弟薫(北村匠海)や末っ子美貴(小松菜奈)にも慕われ二人の目標でもあります。高校生にもなれば学校でも人気の的、野球をやれば四番でピッチャータイプです。

 

こんな家族の何を映画にするの?と思いますし、映画的結果としてもなんだかぼんやりしてはいるもののよくよく考えればかなりシリアスな物語(のはずだが…)というのがこの映画です。

 

キーは美貴だと思います。思春期の美貴が兄である一への感情(愛情)を整理できずに起きる(直接的ではない)悲劇が映画の核心です。映画を思い返してもしそれがなければと考えてみても…他には何もありません。

なのに、映画は美貴のその心情を正面から描こうとはせず、家族愛のきれいごとの中でさらりと流してしまっています。唐突に美貴の性的欲望のワンシーンを入れながらもです。

 

つまり、家族5人がみんな横並びの扱いで、映画の中で何度も出てくる家族写真そのものの物語なんです。完全に5人と犬一匹の中で閉じてしまっている映画です。

 

私にはこういう映画に意味は見いだせませんが、ただ、現在ではその癒やし的な意味も含めてかなり受け入れられる要素の強い映画だとは思います。

 

と、かなり辛辣に書いていますが、実際には最後まできっちり見られました。

 

理由は北村匠海さんです。見ている映画でそれとはっきり記憶しているのは「君の腎臓を食べたい」と「影踏み」ですが、何となく気になる俳優さんです。将来大物(?)になりそうな予感がします。

 

ネタバレあらすじ

この映画、20年くらいにおよぶ家族の歴史を語るみたいな映画ですが、時間軸や季節感があまりはっきりしません。次男の薫の語りで映画を進めており、その薫が東京の大学から関西の実家に帰ってくるところを現在として、映画のほとんどが回想ということになります。ただ、過去のシーンも誰かの回想として入るわけではなく、突然子どもの頃のシーンになったりします。ですので、結果としてほぼ20年間の家族を時間軸に沿って見ているような映画になっています。

 

以下は映画の時間軸には沿っておらず思い出せたエピソード程度です。

 

薫が東京の大学から関西の実家に戻ってきます。2年前に失踪した父親からスーパーのチラシの裏に「年末、家に帰ります」と書かれた手紙がきたためです。家には母親と妹の美貴がいます。

 

家に戻った薫に母親がお父さんはさくらを散歩に連れていっていると言います。また、お父さんに辛く当たらないでと言います。父親がさくらを連れて帰ってきます。

 

気まずい食事シーンがあります。ラストのシーンが大晦日でしたから、このシーンはその前日くらいということでしょう。さくらがおならをして、皆が臭い臭いと言っていたのはラストシーンのフリだったということです。

 

さくらがもらわれてきた日のエピソードがあります。美貴がさくら(犬)を抱いた時にさくらの花びらが落ちたのを見て、この子がさくらの花びらを産んだんや、名前はさくらや、と決まります。

 

そのエピソードの前に、朝の食卓で、美貴が母親に、昨日の夜のお母ちゃんの声はなんやったん?と尋ね、母親が、お父ちゃんとお母ちゃんの愛情があって美貴が生まれたんやでと優しく性教育をするシーンがあります。その流れからさくら(犬)が花びらを産んだという発想になっています。

 

子どもの頃のエピソードです。フェラーリ遊びという、(ちょっと意味不明だがおそらくホームレスをイメージしているのではないかと思う)長髪の男に一番近づいたものが勝ちという遊びを子どもたちがやっています。子どもたちが囃し立てると男が追っかけてきます。一と薫は、その遊びには美貴は入れないでいたのですが、美貴がお兄ちゃんといって入ってきます。男が美貴の前に立ちます。美貴は怯みません。(で、その後どうなったのか記憶にない)

 

一が少年野球で活躍するエピソード。家族で応援に来ています。一は四番でピッチャー、ホームランを打ちます。

 

高校生の頃のエピソードが続きます。

一が野球の練習をしています。薫が見ていますと、二人の女子がやってきます。一さんに渡してと手紙とプレゼントをおいていきます。

 

一が今度彼女を連れてくると言います。家族みな緊張します。一が連れてきた優子は見た目やさぐれ系で家族の期待に反して挨拶も、どもと答えるくらいです。美貴は優子を避けています。

一と優子の付き合いは真剣です。性的関係もあります。一が薫に優子は自分が初めての男じゃないようだと漏らします。

優子から次第にやさぐれ風の雰囲気が取れ、一の家族とも親しく話をするようになります。しかし、美貴だけは優子を避け続けます。一が優子の家庭について、母親はシングルマザーで付き合う男がよく変わり、いつも男から殴られているらしいと語ります。

 

薫に同級生の恋人ができます。女性の方が積極的で性的関係にもなりますが薫は本当に好きかどうかわからないと言っています。

 

美貴にも同性の親しい友人ができ、周りからはレズ(レズビアン)と揶揄されたりします。しかし、美貴がそれに対してどう思っているかの描写はありません。

 

父親にサキコを名乗る女性からの親しげな手紙が届きます。母親がこれは誰?!と問い詰めますと、父親は卒業アルバムの一人の男性を指さします。サキコは(単に女装なのかよくわからない)はゲイバー(これもよくわからない、オカマバーと言っていたと思う)を経営しています。家族全員で店に遊びに行きますと、母親とサキコは妙に気があい家族でも付き合いが始まります(特にシーンはない)。

 

優子が九州に引っ越すことになります。離れがたいふたりは手紙のやり取りを約束します。(時の経過がよくわからないが)優子からの手紙がぷっつり来なくなります。不安な日々を過ごす一は九州行きを決断しその旅費のためのバイトを始めます。

 

美貴の卒業式(中学?)の日、同性の友人が卒業証書をもらったその時、演壇のマイクを取り、私は美貴のことが好きだ、みんなはレズだとか陰口を叩くが、美貴だけは変わりなくつきあってくれる(みたいな感じ)と演説をぶちます。

 

ある日、兄弟姉妹3人でいる時、美貴が時計が止まっていると言います。一が電池を買ってくると言います。美貴が電池なんて今じゃなくていいよと言いますと、一は気分転換と言って出ていきます。一が交通事故にあいます。

 

下半身不随、顔の半分がケロイド状になり感覚もなくなります。病院の家族、言葉もなく思っ苦しい空気の中、美貴だけははしゃいでいます。

 

一の車椅子生活が始まります。一は自由にならない自分の体にまわりに当たり散らします。美貴だけは相変わらず一の車椅子に乗っかったりとハイテンションです。

 

さくらを連れて散歩に出るまでになった一ですが、ある日、公園の枝木にさくらのリードを投げて固定し反対側を自分の首に巻き付け自ら車椅子を倒して自殺します。

 

ある夜、美貴が薫の部屋に赤いランドセルを持ってやってきます。美貴は、見てと言いながらランドセルの中身をぶちまけます。部屋中に色とりどりの封筒が散らばります。優子から一にあてた手紙です。美貴は暗記しているのか、一くん、どうして手紙をくれないの(みたいな感じ)と読み上げ、一の名前で好きな人ができたと手紙を出したと言います。薫が美貴を2度殴りつけます。

 

美貴がベッドにいます。一の思い出の品(どういう経緯か記憶にない)のくるみを愛撫しながら自慰をします。

 

葬式の日、美貴は焼香を食べたり、おしっこを漏らしたりします。

 

薫が東京の大学へ進学します。引っ越すその日、母と美貴とさくらとサキコが見送ってくれます。サキコはお父さんからはちゃんと連絡もあるから大丈夫よと声をかけます。

 

そして、現在、大晦日です。さくらの調子が悪くなり、家族大慌てで動物病院を探し車で走り回ります。2軒、3軒まわっても開いている病院はありません。美貴が突然、好きな人が出来たらはっきり好きだと言う!と叫びます。父親が赤いランドセルは捨てたぞと泣きながら叫びます。

信号無視でパトカーに止められます。警官に免許証をと言われたその時、さくらがブーと大きなおならをし、美貴の手に排便します。家族みんなで大笑いします。

 

俳優を活かせていない演出が問題

こうやって思い出しながらあらすじを書いていて思いましたが、見ている時にはいつの時代とも考えずに漠然と見ていましたが、本当に昭和の話ですね。携帯やスマホが一度も出てきませんし、サキコの店をオカマバーと言ってみたりあの美術にしても確かに昭和です。ああ、そう言えば、美貴と友人にヤキを入れてやるといって呼び出していた不良少女たちのスカートが長かったです(笑)。

 

とにかくこの映画、そうした時代であるとか、時間であるとか、場所であるとかが曖昧でぼんやりしています。

 

それゆえ物語自体もぼんやりしてしまっています。薫の見た目で物語を進めているからでしょうか、いろんなことの突っ込みが浅いです。

 

父親の家出も曖昧ですし、帰ってきてからも曖昧ですし、母親は母親ですべて包容力で包んでいるようでもありますが、さほど物語的な存在感があるわけでもありません。一にしても関西から九州くらいいつでも行けるだろうにと思いますし、いずれにしてもどの人物もその思いが表に出てきていません。

 

起きていることに比して映画が軽すぎます。

 

何をおいても問題は美貴です。この物語のキーとなる美貴でさえ、一への思いが描かれるのは拗ねているような2、3シーンだけです。なのに結果として、一の死を招いてしまうことをやりました、ごめんなさい、はっきり言うべきでしたということで終わっています。

 

この物語のケースなら家族崩壊になってもおかしくないです。それを家族愛は強いものですと言われてもと思います。

 

ああそう言えばさくらのことをすっかり忘れています。物語としてあまりうまく活かせていませんのでタイトルに持ってくるほどの存在感はありません。

 

いずれにしても、ほとんどを薫の語りで済ませていることが一番の問題でしょう。原作も薫の一人称で書かれているんでしょうか。

 

さくら (小学館文庫)

さくら (小学館文庫)

  • 作者:西 加奈子
  • 発売日: 2007/12/04
  • メディア: 文庫
 

 

この映画を見ようと思った一番の理由は矢崎仁司監督の「無伴奏」をよかったと記憶していたからなんですが、今読み返してみましたら、なんと! 良かったと感じたのは成海璃子さんで、映画自体には結構厳しいことを書いていました(笑)。

 

この映画と同じようなことを書いています。やろうとしていることはわかるにしても映画として伝わってこないということです。

 

無伴奏

無伴奏

  • 発売日: 2016/12/02
  • メディア: Prime Video