プロミシング・ヤング・ウーマン

レイプリベンジ、ラブコメ、スリリングだが…#MeTooの消費かも

今年のアカデミー賞脚本賞を受賞しているんですね。そんなことも知らずに見ていました。それに作品賞、監督賞、主演女優賞、編集賞にもノミネートされていたようです。

プロミシング・ヤング・ウーマン

プロミシング・ヤング・ウーマン / 監督:エメラルド・フェネル

プロミシング・ヤング・マンではなくウーマン

ネイティブスピーカーの感じるニュアンスはわかりませんが、むちゃくちゃ皮肉の効いたタイトルなんだろうと思います。

この映画には女性であれ、男性であれ、実際にプロミシングな人間はひとりも登場しません。過去プロミシングではあったけれどもその将来を絶たれた女性たちと、ただ男というだけでプロミシングと言われている男性たちです。

実際、男たちは過去にレイプ犯罪を犯しながら、プロミシング・ヤング・マン(であるはず)だからと現在は社会的成功を収めつつあります。

当然、裁きは受けるべきというレイプ・リベンジ映画です。

しかし、これはアメリカ映画です。陰鬱でもありませんし殺伐さもありません。ヴィジュアルはポップでガーリーです。使われる音楽もパリス・ヒルトンやブリトニー・スピアーズといったポップミュージックです。思い返してみれば、レイプという言葉さえ使われていなかったのではないかと思います。

レイプ・リベンジ映画でありながら、ラブコメ要素あり、スリリングなサスペンス要素あり、コメディ風味のクライム要素ありの不思議によくできた映画です。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

キャシー(キャリー・マリガン)がクラブで酔いつぶれています。卑猥なやり取りをしていた男たちのひとりが送っていこうかと近づき、自分のアパートメントに連れ込みます。

男は酔いつぶれたキャシーにキスをし、しきりに何をしているの?というキャシーに構わず下着まで脱がせようとします。突然、キャシーがかっと目を見開き、何やってるんだよ!と凄みをきかせます。男はポカーンと間抜けな顔をしています。

この後どうなったかのシーンはありません。それを描かないことでこの映画は成り立っています。この続きを描けば映画がどんどんシリアス層に入っていってしまうということで避けているんだろうと思います。

キャシーは天使

キャシーは30歳、医大を中退しており、現在はコーヒーショップの店員をし、両親と同居しています。

この両親のキャラクター造形がちょっと変わっていて面白いです。表現が難しいのですが、隠居した老夫婦のような感じで、すべてを理解しているが口にすることはなく、娘のことを心配しているがどうすることもできず、かと言って絶望的でもなく娘を信頼して希望は捨てていないといった感じがデフォルメされているようなキャラクターです。

家のインテリアも何を意図しているのかははっきりしませんが、宮廷風?ゴシック?といった感じで、後半に大学の同窓生の女性が訪ねてくるシーンがあり、不思議な表情で部屋を見回していました。上の画像のシーンです。

この画像のようにキャシーを正面からシンメトリーに捉えたカットが結構あります。ソファーの背もたれの形から天使のイメージという指摘もあります。下の画像のベッドのヘッドボードもそうですし、ラスト、殺された姿も手を広げています。

エンドロールの曲がジュース・ニュートンの「夜明けの天使(Angel Of The Morning)」というのもおそらく同じ意図のものでしょう。

キャシー、ライアンと出会う

コーヒーショップのシーン、同年代の男が「カサンドラ(キャシー)?」と声をかけてきます。大学の同窓生ライアン(ボー・バーナム)です。そっけないキャシーです。

ライアンは2度めにやってきた時に、自分が小児科医であること、同窓生のアル・モンローも医師となっており、近々結婚すると近況を語ります。

このあたりまでで、なぜキャシーが夜な夜な男たちを懲らしめているのか、なぜ大学を中退し医師になる道を諦めたのかが時々挿入されるキャシーのプライベイトシーンなどでわかってきます。

キャシーにはニーナという子どもの頃からの親友がいて同じ大学で学んでいたのですが、アルたち大学の男たちにレイプドラッグ(多分)をもられレイプされ、大学に告発したのですがもみ消され自殺しているのです。キャシーも精神的ダメージを受け中退して刹那的に男たちに復讐しているということです。

キャシーの本気の復讐が始まります。

復讐その1

キャシーは同窓生の女性マディソンを呼び出します。マディソンはニーナのレイプ被害を学内に言いふらした人物です。キャシーは最初は懐かしさを装いながら徐々に核心に迫る話をしてマディソンを泥酔させ、雇っておいた男性にマディソンの後処理(?)をさせ去っていきます。

翌朝ホテルで目覚めたマディソンはパニックに陥ります。

復讐その2

キャシーはある女子学生をその学生がファンであるポップスター(かな?)をダシにして自分のコントロール下に置きます。

そして、自分が中退した大学への復学を求め学長に面会します。しかし、それは表向きで、ニーナのレイプ被害当時、学長がニーナとキャシーの告発を、加害者であるアルがプロミシング・ヤング・マンであるからと告発を握りつぶしたことを思い起こさせるためです。

学長はニーナの告発を握りつぶしたことさえ忘れてしまっています。キャシーは徐々に思い起こさせ、そして言います。「今、あなたの娘はニーナが置かれた状況と同じ状態にある」と。慌てふためく学長は娘に電話をしますが、その着信音はキャシーの手元で鳴り響きます。

キャシーは、私はそんなことはしない、あなたの娘はポップスターを待ってどこどこのカフェにいると言い去っていきます。

復讐その3

キャシーは、当時アルを弁護した弁護士宅に向かいます。弁護士は自分の悪行の罪悪感に苛まれ眠れない日々を過ごしており弁護士も引退しています。弁護士はキャシーの前に許してほしいと跪きます。キャシーは許すと言い去っていきます。

ライアンとのラブコメ展開

ライアンはコーヒーショップに幾度もやってきてキャシーをデートに誘います。キャシーもその気になり、ラブコメ風展開となっていきます。

パリス・ヒルトンの「Stars Are Blind」でのミュージカル風シーンもあります。キャシーは両親にも紹介し、二人はラブラブ(死語か?)です。

復讐その4

マディソンが、自分が酔いつぶれたあの日何があったのか不安を抱えてやってきます。キャシーは何もなかったと言います。マディソンは、実はと、ニーナのレイプ被害の動画があると言いスマホを置いていきます。

動画を見たキャシーは(おそらく)その残酷さと、そしてもうひとつの事実に驚愕します。

キャシーはライアンの職場を訪れます。そして動画を再生します。そこに囃し立てる自分の姿を見たライアンは動揺ししどろもどろになります。

キャシーは冷たく別れを言い去っていきます。

復讐最終章

アル・モンローが仲間たちとパーティー(なんのパーティーかは?)を開いています。キャシーはナース姿で向かいます。

馬鹿な男たちは誰かが手配した娼婦だと思い、キャシーとアルを寝室に送り込みます。キャシーはプレイを装いアルの両手を手錠で固定し、素性を明かし、これが復讐であることを告げ、メスを取り出しアルの胸にニーナ(だったと思う)の文字を切り刻もうとします。アルの片方の手錠が外れ、逆にキャシーがピロケースで抑え込まれます。

映画としてはかなり長いシーンです。2、3分あったと思います。キャシーは息絶えます。

アルの悪友(名前はジルだったかジムだったか?)がやってきます。パニックに陷るアルを傍目に能天気です。さらに、事実を知っても大丈夫、大丈夫と悪びれることもありません。

このアルたちのバカ加減の描写といったらありません。おそらくこういうところをマジで描くと受けないという判断でもあり、男たちを徹底的に馬鹿に描くことで映画のファンタジー感を出そうとしているのでしょう。

アルとその悪友二人は河原でキャシーを焼いてしまいます。

エンディング

え? ここで終わるのか?! と、もしそうであればこれはすごい!!! とかなりの期待をしたのですが、さすがにそれはなかったです(涙)。

ありきたりの展開で終わっていました。

アルの結婚式です。出席しているライアンの携帯にキャシーから順次何通かのメールが入り始めます。パトカーのサイレンが聞こえてきます。

キャシーは、もし自分が行方不明になったら警察に届けてほしいと例の動画を弁護士に送っているのです。両親は捜索願を出しています。警察が捜索を開始し、河原でキャシーの焼け残りを発見します。

アルは逮捕されます。

ライアンへの最後のメールは「Love」と表示されます。

#MeToo を消費していないか

こうした映画が今制作されるのはやはり少なからず #MeToo の影響があると思います。

で、この映画は何なのか?

レイプ・リベンジ映画は日本でも何作かあると思いますが、さすがにこの映画のような描き方はアメリカ(的価値観)じゃないとできないのではないかと思います。

映画がシリアスであればより社会的であり訴求力も強くなるなどとは思いませんが、ただ、この映画のようにバカな男たちがバカなことをしでかしたかのように見える(私には見える)描き方で、今現在大きな社会的問題となっていることを扱うことはあまりいいこととは思えません。

ひとことで言えば #MeToo を消費しているだけではないかに見えるということです。

いま映画がやるべきはマディソンや学長の心理を深く掘り下げたものをつくることだと思います。

エル ELLE(字幕版)

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  • イザベル・ユペール

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