オリ・マキの人生で最も幸せな日

幸せは静かにやってくる

2016年のカンヌある視点部門でグランプリを受賞したフィンランド映画です。その年は深田晃司監督の「淵に立つ」も出品され審査員賞を受賞しています。

オリ・マキの人生で最も幸せな日

オリ・マキの人生で最も幸せな日 / 監督:ユホ・クオスマネン

モノクロです。16mmフィルムで撮られているそうです。モノクロですと照明がより重要になってくると思いますが、それがよかったのか陰影がきれいですね。

ただ、これがモノクロではなくカラーであったら、また時代が1962年ではなかったらと考えますと面白かったのか、よかったのか、ちょっとばかり微妙ではあります。

物語としては、ボクサーのオリ・マキ(ヤルコ・ラハティ)がアメリカの世界チャンピオンを迎えて地元ヘルシンキで世界タイトルマッチを行うというもので、その過程でのライヤ(オーナ・アイロラ)との恋愛模様やタイトルマッチをマネージメントしたエリス(エーロ・ミロノフ)と意見が合わなかったりするあれこれが描かれていきます。

ただ、どのエピソードもドラマチックに描かれるわけではなく、淡々といいますか、あっさりといいますか、さらりと物語が進められますので、ふん、ふんと見ている間に終わってしまいます。

たとえば、オリ・マキとライヤの関係にしても、オリ・マキはタイトルマッチのために地方都市からヘルシンキへ向かい、エリスのもとでトレーニングや調整をするのですが、最初からライヤと二人で向かいます。

そもそもその時点の二人の関係がわからなく、ボクシング関係ではなさそうですので最初から恋人同士かなと思っていましたら、映画の途中でオリ・マキがエリスに実は恋をしたと言うんです。え? 誰に? と思いましたらライヤにでした(笑)。

そのシーン、予告編にもありますが、オリ・マキが「いや、実は…」「遠慮せず打ち明けてくれ」と進みますので何事かと思いますが、「どうやら、恋をしている」「間が悪すぎるだろ」と、パーティーですので、その間に他の客に「どうも」などと軽く挨拶する言葉を入れながら進めており、なんとも言えず、くすりと笑いがもれてしまいます。

そうした間合いのシーンは他にもいくつかあります。そういうオフビート系の映画なんだろうと思います。

ボクシングに関するシーンも同じような印象です。ボクシングといいますとまずストイックという言葉が浮かびますし、ましてや世界戦ともなればぴりぴりした空気が支配する世界をイメージしますが、この映画ではいたってのんびりです。

減量にしても、バンタムだったかフェザーだったか、57kgが制限体重なのに今は60kgちょっとと言いながら、それでもパンを美味しそうに食べたりしていました。

コメディというわけではありません。笑えるわけではありませんし、それを狙っているわけでもないでしょう。現在の日本的ドラマ感覚からすれば、そこはもう少し突っ込むだろうとか、もう少しメリハリを付けるだろうとか、そこはどんと落とすだろうとかというパターンにははまっていない映画ということです。

ヘルシンキへやってきたオリ・マキとライヤはエリスの家に泊まることになります。アパートメントですので余裕の部屋もなく、エリスの子どもたちが追い出され、ふたりは二段ベッドで眠ることになります。フレーム外では妻に責められたエリスが「連れがいるなんて知らなかったんだ」と言い訳しています。

エリスが売り込んだのでしょう、ドキュメンタリー映画を撮るということで撮影隊が入り、ポーズしろなどととてもトレーニングどころではありません。そんなこんなで対戦相手のチャンピオンもやってきますし、スポンサーへのサービスやらパーティーやらでトレーニングに集中できません。

この映画どこへ向かっているのだ? と思いながら見ていましたら、突然ライヤが家に帰ると言って帰ってしまいます。映画的にはなぜ帰ったのかよくわかりません(笑)。

オリ・マキはますますトレーニングに集中できなくなり、自分も地元に帰ってしまいます。

とにかくドラマ的にはあっさりしていますので、帰ると言ってもエリスとの間にも何も起きません。地元に戻ったオリ・マキはトレーニングにも集中し、ライヤとの恋も成就し婚約します。そして、計量の日、危なくオーバーかと思いきや、下着を取り素っ裸で計量し無事にパスします。

試合当日、オリ・マキはあっさり2ラウンドでKO負けです。試合経過にハラハラさせ盛り上げることも一切しません。こういう映画なんだろうとわかっていても、へー、すごいね、この線でやりきるんだと感心します。

負けたからといって失望されたり非難されたりすることもありません。エリスにも感情的な表現はまったくありません。

オリ・マキとライアにとっては試合での勝ち負けなど関係ありません。試合前に川辺で水切りをして戯れたように、試合後も二人の川辺の戯れシーンで映画は終わります。

これはなかなか撮れない映画ですね。

ふと思ったことは、日本映画のなんだかよくわからないけれども(ペコリ)いい映画、たとえば中川龍太郎監督「わたしは光をにぎっている」なんていう映画を文化の違うヨーロッパから見れば、この映画を見たような感覚をもつのかなあなどと感じます。

オリ・マキのヤルコ・ラハティさんは「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」に出ていたとのことですが記憶はありません。エリスのエーロ・ミロノフさんは「ボーダー 二つの世界」のヴォーレとのことですが、あの映画は特殊メイクでしたのであらためて予告編を見てああそうだと気づく程度です。

ライヤのオーナ・アイロラさんは60年代ぽさがあってとてもいい雰囲気でした。もう少し魅力発揮のシーンがあってもいいのにという感じでした。

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