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「マイ・ブックショップ」(ネタバレ)イギリスの田舎の風景は美しく、エミリー・モーティマーもいい

ひとりの女性がイギリスの田舎町に本屋をひらく、ただそれだけ話なんですがかなりよかったです。ゆったりしたリズムと間合い、そしてなんといっても、その女性フローレンスをやっているエミリー・モーティマーさんがいいです。

 

マイ・ブックショップ

マイ・ブックショップ / 監督:イザベル・コイシュ

 

久しぶりのイザベル・コイシェ監督、前回何を見たかも思い出せず、このブログを検索してみましたら2015年の「しあわせへのまわり道」以来でした。菊池凛子さんが出ていた「エンドレス・ナイト(Endless Night)」は結局日本では公開されなかったようです。それにしても、宣伝文句とはいえ、未だに「死ぬまえにしたい10のこと」のイザベル・コイシェ監督と言われるのは(日本だけ?にしても)本人にしてみればどうなんでしょう。

ただ、これからは「マイ・ブックショップ」のイザベル・コイシェ監督と言われるようになるかもしれません。

 

物語としては派手にしようと思えばできなくもない話なんですが、そうした色気はまったくないようで、俳優の存在感とイギリスの美しい風景に自信を持っているような映画の出来です。ただし、ロケ地は北アイルランドの Portaferry や Strangford とのことです。

 

映画はいきなり始まります。町の風景が何カットかあり、そこにナレーションがかぶってきます。実は、このナレーションの主が映画のオチ的なものに関係してくるのですが、このシーンの記憶がよみがえりません。

と言いますとは、見にいったのが休日の女性サービスデーでしたのでチケット購入に長蛇の列、劇場へ入るのが始まる直前になり、落ち着かないままに映画が(いきなり)始まってしまいましたので、しばらくは映画に入り損ねてしまったということです。重要なナレーションがあったかもしれません。

 

時代は1959年、イギリスの海辺の町サフォーク州ハードボロー、原作もこの町名かどうかはわかりませんが、架空の町のようです。そこにフローレンス(エミリー・モーティマー)が本屋を開こうとします。それは亡くなった夫との夢だったようです。ただ、映画の中ほどでわかりますが、夫が亡くなったのは16年前の戦争でということで、ちょっとばかり、えっ、16年前? と思いました(笑)。

 

映画の中の町並みや風景としては、現代的感覚で言えば、ここで本屋ってやっていけるの? と思えるようなところなんですが、物語の肝はそこではなく、フローレンスが本屋を始めることを好ましく思わない人物がいることです。ガマート夫人です。

ガマート夫人は貴族なんでしょう、こじんまりはしていましたが、森の中の静かな佇まいの屋敷に住んでいます。夫は General Gamart と呼ばれていましたので、第一次世界大戦での司令官だったのかもしれません。あまり思慮深くもなく知的でもなく妻の言うなりの人物として描かれています。

 

なぜガマート夫人がフローレンスの邪魔をするかは、フローレンスが借りたオールドハウスという建物をアートセンターにしたかったからというのが表向きの理由です。おそらく、ガマート夫人の本音は、自分ではない人物が、ある種知的なものの象徴ともいえる書店を始めることに我慢できなかった、つまり、その町の名士というプライドを傷つけられ、自分の存在が脅かされると感じたからではないかと思います。

 

それほどに保守的なイギリスの田舎町の話ということです。

 

派手にしようと思えばできる物語というのはこのことで、フローレンスとガマート夫人の対決はドラマになりやすく、フローレンスがあれこれ妨害にもめげずに頑張り、最後にはガマート夫人が改心するなんて物語をついつい想像してしまいますが、この映画がいいのは、そうした対立をことさら強調していないところで、確かにガマート夫人は政治力を使ってフローレンスを追い出す法律、文化的価値のある建物は行政が接収できるという法律までつくるのですが、そうした妨害工作のあれこれには深入りせず、また、フローレンスの怒りを直接ガマート夫人に向けることを避けて、二人の間に何人かのクッションを置いていることです。

 

それによって、心から本を愛するピュアな人物としてフローレンスが際立ってきます。

 

クッションとなっている人物で最も重要なのはブランディッシュ(ビル・ナイ)です。ブランディッシュは町で唯一本を読む人物と言われる老人です。人嫌いだから読書好きになったのか、読書好きだから人間関係が面倒になったのかよくわかりませんが、とにかく町に本屋ができたのは無茶苦茶うれしかったんだと思います。しばらくは堅苦しい手紙のやり取りが続きます。ブランディッシュからお勧めがあったら届けてほしいとの手紙に、ブラッドベリの『華氏451度』を届けたり、フローレンスから『ロリータ』をどう思うかと尋ねたり、そしてついにブランディッシュがフローレンスを家に招きます。

 

フローレンスがブランディッシュを訪ねるシーンはいいシーンでした。ノックをしても誰も出てきませんので家に入っていきます。二階からブランディッシュが緊張の面持ちで見下ろしています。フローレンスがゆっくりと一段ずつ登ってきます。そして次のカット、二人は無言のままテーブルにお茶のセッティングをします。先に用意しておけばいいのに(笑)とも思いますが、緊張感もあり優しさも感じられるとてもうまいシーンでした。

これを境に、さらに二人の(精神的な)距離は縮まり、おそらく二人はともに愛情を感じるようになったんだと思います。海辺の二人のシーン、ここもよかったです。徐々に徐々に二人が距離を縮めていくシーンは美しかったです。

 

ブランディッシュは、ガマート夫人の妨害についには我慢できなくなり直談判をしようと、ひとりガマート夫人のもとを訪ねます。

 

ここで私は、ブランディッシュにガマート夫人を改心させる何か戦略でもあるのかと思っていましたが、何もなかったです(笑)。直球勝負、そして最後は思いっきり怒りをぶつけていました。

この展開もよかったです。なぜブランディッシュが40年間、人との関係を避けてきたのかがよくわかるシーンでした。言葉にできる何かがわかったということではなく、ブランディッシュという人物がそこに生きている感じがしたということです。

 

ただ、ブランディッシュはその帰り道に倒れて亡くなってしまいます。

 

BBCの記者(なのかな?)の Milo North もかなり重要な役回りになっています。なかなか位置づけがわかりにくい人物で、結果としてガマート夫人の手先となってしまうのですが、その実何か目的があるわけでもなく、面倒だから従ったと言っていたようにとにかく優柔不断な人物で、話の展開としてはフローレンスがオールドハウスを追い出される直接的な裏切り行為をします。

 

この Milo North の曖昧な立ち位置が結果として映画をよくしています。二人のシーンは結構たくさんあり、あるいはシナリオでは Milo North ははっきりとガマート夫人の手先として動くとなっていたかもしれませんが、その二枚目半的なキャラクターもあり、またフローレンスに恋人を紹介しながらその矢先に振られたと話す展開もあり、どことなく憎めない人物に描かれています。

そして最後には店を手伝うといって入り込みフローレンスを騙すわけですが、この人物の存在によってガマート夫人の妨害工作が曖昧化され、フローレンスの怒りを描く必要もなくなっています。

結局、最後、オールドハウスは法律により町に接収されます。その時初めてフローレンスは Milo North の裏切りを知ります。でもすでに為す術はなく怒りさえも沸き起こってこないのです。

 

フローレンスが船で町を去るシーンです。へえー、こういう終わり方なのかとちょっとばかり新鮮さも感じていたのですが違っていました。(良いかどうかは別にして)きっちり映画的なラストになっていました。

  

クリスティーヌという10歳くらいの少女がいます。家は貧しく、週12シリングと6ペンスでフローレンスの店を手伝うことになります。このクリスティーヌが利発な子でフローレンスとのやり取りも楽しいシーンですが、中盤、ガマート夫人の妨害で手伝いをすることができなくなります。代わりに Milo North が手伝うという流れになるのですが、それは置いておいて、フローレンスが町を去る時、クリスティーヌが石油ストーブを持って誰もいないオールドハウスに入っていきます。この石油ストーブ、実は前半に振りがあり、フローレンスがクリスティーヌに何々すると(よくわからなかった)火事になるから気をつけてねと言い、そして中程、手伝いができなくなった時に持っていっていたのです。すっかり忘れていましたがこのための振りだったのです。

 

フローレンスが小舟(渡し船?)で町を去る時、様々な思いを込めてオールドハウスの方角を見ます。するとそこから煙が立ち上っているではありませんか!

 

オイ、オイ、それって大丈夫か!? とは思いますが(笑)、さらに映画は続き、おそらく4,50年後でしょう、本屋のシーンとなり、冒頭の人物のナレーションがかぶり、自分はクリスティーヌであり本屋をやっていると明かすのです。

 

このオチが映画的であり、見ていてすっきりすることは間違いありませんが、マイナス面も大きいでしょう。

 

もともとシリアスタッチの映画を撮る監督ではありませんし、軽めに物語を運ぶ傾向がありますのでこういう方法を取ったんだと思いますが、イギリスの田舎町の美しい風景や途中のいいシーンの印象を消してしまう危うさがあります。

 

でもトータルでいえば、エミリー・モーティマーの演技で丸でしょう。