ルクス・エテルナ 永遠の光

ギャスパー・ノエ監督、画を点滅させるも心は点滅せず

サンローランのアートプロジェクト「SELF」の一環として制作された映画とのことです。監督本人がインタビューで、サンローランのクリエイティブディレクターのアンソニー・ヴァカレロさんから「何か一緒に作品を作りませんか?」と提案されたと語っています。

ルクス・エテルナ 永遠の光

ルクス・エテルナ 永遠の光 / 監督:ギャスパー・ノエ

サンローラン「Self」

そのインタビューはこちら。

サンローラン「Self」はこちら。

ギャスパー・ノエ監督のこの映画は Self 04 のようです。

Self 04

Self 01は写真家の森山大道さん、Self 02はアーティストのヴァネッサ・ビークロフトさん、Self 03は小説家のブレット・イーストン・エリスさん、Self 05はウォン・カーウァイ監督がキュレーター(curated)とクレジットされており、監督はウィン・シャさんという方です。Self 06はアベル・フェラーラ監督の「Sportin’ Life」という作品で昨年のヴェネチア映画祭で上映されたようです。

ギャスパー・ノエ監督のインタビューによれば、話があったのが2019年の2月で5月のカンヌへの出品を目指すことになったので制作期間は2ヶ月しかなったそうです。撮影は最大で5日間、準備期間は2週間とも語っています。

ギャスパー・ノエ監督の映画は「アレックス」と「CLIMAX クライマックス」を見ており、一見した印象としてはアバンギャルドなイメージで捉えられがちですが、意外にも映画は真面目に作られています。人と違うことをやろうという意識は強く感じますが、それも映画を面白くしようとの考えなんでしょう。

この映画もそうです。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

あらすじと書いていますが特に物語はありません。インタビューでも「“ベアトリスが作る映画で、シャルロットが魔女役で出演し、その撮影が思うようにいかない”という2行しかないシナリオ」と語っています。

映画は50分という短さでその半分くらいを監督役のベアトリス・ダルさんと魔女役のシャルロット・ゲンスブールさんの会話が占めています。その会話自体に大した意味はありませんので、どちらかと言いますとベアトリス・ダルさんに興味がないとつまらなく感じると思います。

「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」のベアトリス・ダルさんです。


ベティ・ブルー/愛と激情の日々 デジタル・リマスター版 劇場予告編

ご覧になっていない方であればこの予告編はきれいすぎますので海外の動画を見たほうがいいと思います。

そのベアトリス・ダルさんが監督として撮る映画の撮影現場が混乱するという映画です。前半のふたりの会話はスタンバイ中の雑談ということでしょう。

魔女役をやったことはあるかとか、火炙りの役のときはこうだったとか、プロデューサーがバカだった(違ったか?(笑))とか、ラブシーンで相手が興奮して射精してしまったとかというバカ話です(笑)。ふたりの会話自体が噛み合っていません。

字幕が悪い…、ん? 別撮り?

そうかも知れません。ふたりのそれぞれのカットを左右に分割しています。ふたりが写り込んでいるカットがワンカットあったように思いますが、そうだと思い込んで見ているのでそう見えただけでシャルロット・ゲンズブールさんはボディダブルだったかもしれません。準備期間2週間、撮影5日間じゃスケジュールが取れないでしょう。

とにかく、映像としては他のシーンでも2つとか3つに分割してそれぞれの人物を撮ったり、2カメの同時映像(多分)を左右で見せたり、アスペクト比を替えたりといろいろやっています。ただ、どの手法もなにか特別は意図があってやっているわけではないでしょう。いろいろやってみようということの結果だと思います。

途中何カットかテキストのカットがはいっており、ジャンリュックとかありましたので映画監督の言葉の引用ではないかとは思いますが、映画の流れとしてはうまく掴みきれません。

調べてみましたら、ドストエフスキー、カール・テオドア・ドライヤー、ジャン=リュック・ゴダール、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーだったようです。

中盤になりますと他のスタッフや部外者が入ってきて、なぜか皆イライラしていきます。混乱する一番のポイントは監督と撮影監督の反目です。プロデューサーのような人物がダル監督を降ろそうとして撮影監督に指示していたということだったようにも思います。監督がカット!とか言っても撮影監督がまだ撮っている!とか言って撮影が終わらないという感じです。

ゲンズブールには、部外者の男二人が自分の映画へのオファーをしようと執拗に絡んできたり、ヘアメイクのスタッフがやたら髪をいじろうとしたりし、最初は余裕を持っていたゲンズブールも次第にキレていきます。家のシッターに電話をして子どもの様子を聞くも、子どもがいたずらされて傷つけられたかもしれないというような電話のやり取りもありさらにイライラはつのっていくという流れです。

そうそう、ゲンズブールが電話するシーンに切断遺体が置かれているシーンがあり、ゲンズブールが電話をしながら無意識に布の覆いを取る演技をしていたのは、あれも何かの引用なんでしょうか。わかりません。

そして本番(リハって言っていたかも?)、ゲンズブールが火炙りにされる位置につき、ダル監督がアクション!と撮影開始、背景は燃え上がる炎、まわりは松明を持った興奮する群衆、音楽も入ります。

で、ダル監督がカット!と言っても撮影監督がまだまだと撮影は続きます。と言っているうちに照明の故障ということなのか誰かの操作なのかわかりませんが、照明がRGBに激しく点滅し始めます。

火炙りにされる魔女は3人で真ん中はゲンズブール、左右はサンローランのモデルだったのかな? ひとりはアビー・リー・カーショウさんだったかもしれません。しばらくはその3人を3分割で見せたりしていましたが、最後はゲンズブールだけになり、相変わらずRGB点滅は続き、これどうやって終えるんだ?と思っていましたら、それで普通に終わっていました(笑)。

ゲンズブールさん、何をどうしていいのかわからない感じで間を持て余していました。監督にとにかく磔になってとか言われたんじゃないでしょうか(笑)。

ギャスパー・ノエ監督はまじめ

この映画を見てもギャスパー・ノエ監督ってやっぱり真面目ですね。

ハチャメチャをやろうとしている(かどうかはわからない)のだけれども、結局ハチャメチャを見せようとしている感じです。きっちり映画を作ろうとしています。

CLIMAX クライマックス」でもきっちりダンス&音楽映画としてまとめていますし、「アレックス」にしてもレイプシーンはショッキングでしたが、映画の時間軸自体を反転させたりいろいろ反対にしたりということも映画のひとつの遊びではあります。

ギャスパー・ノエ監督はアイデアで勝負する監督だと思います。

ということで、今回はちょっとばかりやっつけ仕事的な映画でした。 

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