「ルース・エドガー」(ネタバレ)よい黒人は受け入れられ、わるい黒人は排除される

なんだかわかりにくい映画だなあと思いながら、考えがまとまらず、はや3日経ってしまいました(笑)。

わかりやすい映画を望んでいるわけではありませんし、この映画の場合、テーマは明快ですし描いていることはわかるのですが、描かれるのは今現在起きている現象面だけですので、言葉で語られるその背景とどうしてもうまく繋がりません。

 

ルース・エドガー

ルース・エドガー / 監督:ジュリアス・オナー

 

なんだかそれこそわかりにくい書き出しになってしまいましたがこういうことです。

まず、起きることは17歳の少年ルース(ケルビン・ハリソン・Jr.)が教師ハリエット(オクタヴィア・スペンサー)に復讐するという話で、その復讐心の直接のきっかけとなるのは、ハリエットがロッカーにマリファナを持っていた陸上部の友人の奨学金を停止してしまったことです。

どうやって復讐するかと言いますと、違法性のある危険な花火をロッカーに置いておき、それをハリエットが持っていくだろうと予想し、また付き合っているステファニーにルースからセクハラ行為(レイプかも?)をうけたと嘘をつかせます。また、提出論文にわざと暴力志向の危険思想を持っているかのような内容を書きます。

しかし、ルースは学校の期待の星でもある文武両道の優等生です。そうした自分を校長の前でハリエットに糾弾させ、逆に窮地に陥れます。さらにハリエットの机に置いた花火を爆発させます。

ハリエットは退職させられます。

 

これが映画の中で起きることなんですが、これだけをみますと無茶苦茶違和感があります。これだけ先をよんだ策略をめぐらしてそれを成功させるのはあまりにも現実離れしています。

でもそういう映画です。

花火については一度ルースの母親のもとに渡ってしまいますので、それを再びハリエットのもとに戻したとも考えられますし、ステファニーも最後まで脅され続けている存在と考えればもう少し行為は単純化されますが、それにしてもそこまで執拗な恨みを持つ理由は映画からは読み取れません。

 

まさか17歳の少年の過ぎたいたずらという映画ではないでしょうから、違った視点から考えてみます。

 

ルースはアフリカのエリトリアで生まれ、言葉よりも先に銃の撃ち方を教わった少年兵として育ち、7歳の時にアメリカに渡り、エイミー(ナオミ・ワッツ)夫婦の息子として育てられています。

エイミー自身がここまで育てるのは大変だったと何度も言っているように、現在の優等生として学校からも大いに期待される姿は奇跡的ということです。

 

映画は模範的なスピーチをするルースのシーンから始まります。とにかく気持ち悪いくらいに優等生です。スピーチは完璧、両親を教師に紹介したりするのもそつなく、友人関係も良好、件の黒人の友人には良からぬ道に走らぬよう気を使ったりともう完璧です。エイミーにとっても自慢の息子ですし、校長ももてはやします。

 

このルースの過剰ともいえるキャラクターは、ルースの中に個人的アイデンティと社会的アイデンティティの分裂があることを示しており、ルースはそのことに苦しんでいるということだと思います。周囲から求められる人間像にルースの自我が抵抗しているということです。自分自身の中に皆が望む人間であるべきだと思う気持ちと、いや自分はそうじゃないと思う気持ちが同居している状態です。

 

映画はそうしたルースの苦悩や過去10年間の家族内のことをまったく描いておらず言葉で語っているだけですので一番重要なルースの人物像とエイミー夫婦の具体的な10年間がよくわかりません。

見る側がそれぞれの価値観で想像するしかありません。仮に私の想像でいうこうした自我の分裂がルースにあるとして、今度は逆に、果たして映画のようなストレートな復讐に向かうのだろうかという疑問がわいてきます。

それを認めるにしても、じゃあラストシーン、走りながら見せる涙が素直すぎますし、その前の自分の名前に関するスピーチ、母親は自分の本名をどうしても発音できなかった、父親はじゃあ名前を変えようと言い、光を意味するルースと呼ばれるようになったと語るのはあまりにもストレートに皮肉が効きすぎています。

 

これですとルースは自我の分裂ではなく、ハリエットへの復讐は確信的であり、さらに言えば、いずれエイミー夫婦へも復讐することになるでしょう。

 

というようなことで結局よくわからなくなるのですが、まあこれが正解かもしれないですね。白人文化を受け入れた「よい黒人」は受け入れるが「わるい黒人」は排除するアメリカ社会への告発映画ということでしょうか。

 

その意味では名前のスピーチは象徴的ですが、ハリエットが、ルースの課題論文について、あなたを知らない人がこれを見たらどう思うと思うのと言っていたのもそのことと考えられます。それにしても、このハリエットを黒人でキャスティングしていることをどう考えればいいんでしょう。

 

ハリエットという人物の背景が描かれていないこともわかりにく原因のひとつです。精神的に不安定な妹がいて病院か施設を出て一緒に暮らし始める設定になっていますが、この姉妹の関係はさすがに説明不足です。妹が学校へ来てパニックになることでハリエットの立場を不利なものにみせようとの意図だけならちょっとまずいです。なにかカットされちゃっているのかもしれません。

 

よくわからないままにこの映画を日本に置き換えて想像するとすれば、ひとつは、あなたは東大出の私たちから生まれているのだから東大へ行って立派な大人になるのよと育てられた子どもが親に復讐する物語、そしてもうひとつは、ある会社で出世した女性が部下の女性の優れた企画書を見て男たちがこれを見たらどう思うと思うのと説教する物語、そんな感じでしょうか。

 

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