「荒野にて」ネタバレレビュー・あらすじ:居場所を求めて2000km、少年と馬の放浪の旅

劇場公開時に見ようかどうしようかと迷った映画です。

宣伝チラシの印象から少年と馬の交流を描いたほのぼの系のヒューマンドラマだと思い込んでしまったことと前作の「さざなみ(2015)」が映画としてさほどよく思えなかったことからです。

ところがDVDで見てみましたら、ほのぼの感は一切なく少年チャーリーの激烈な人生そのものでした。劇場で見ればよかったです。

 

荒野にて

荒野にて / 監督:アンドリュー・ヘイ

 

下のチラシもそうですが「荒野にて」のタイトルもよくないですね。

 

 

このチラシとタイトルからは映画の内容は想像できません。

 

孤独感を抱えた15歳の少年チャーリー(チャーリー・プラマー)が必死にSOS を出しながら居場所を求めてさまよう映画です。大人たちは誰もそれに気づきません。

 

演じているのは役名と同じ名前のチャーリー・プラマーくん、撮影当時17、8歳だと思いますが、この映画は彼につきます。2017年のヴェネティア映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞しています。

 

最初に「さざなみ」は映画としてよくなかったと書きましたが、その映画でもベルリン映画祭でシャーロット・ランプリングさんとトム・コートネイさんが共に俳優賞を受賞しています。アンドリュー・ヘイ監督は俳優を生かす監督ということかも知れません。

 

さらにこの「荒野にて」は、映画としてもとてもよかったということです。

 

冒頭から引き込まれます。ノイズ系の効果音を無茶苦茶うまく使っています。

 

オープニング・クレジットのバックにがさごそとノイズが入り始めます。やがて窓からの薄明かりのシルエットで少年が浮かび上がります。早朝でしょう、車の走行音なども聞こえてきます。少年にはどことなく心もとなさや不安げなところが感じられます。

隣室に寄り耳を澄ませますと男女の話し声が聞こえてきます。少なくとも夫婦の会話とは思われず、少年の立ち振舞からはそれが父親であるか母親であるか、どちらかの一夜の相手との会話であると予想させます。

 

少年は外へと走り始めます。辺りはいわゆる整った住宅街ではありません。鳥などの屋外ノイズと共に車の走行音がかなり大きな音で入ります。しかし車は見えません。少年は片側1車線の道路を走り続けます。車の姿は見えないのに行き過ぎる走行音が入ります。工場のような作業場のような脇を走ります。ガチャガチャと機械音や金属音が入ります。少年の吐く息も激しくなっています。

少年がスピードを緩めながら道路の先を見つめています。車は見えませんが少年の後ろからやってくる走行音がとにかくかなり大きな音で入ります。少年が止まりますと、ホーストレーラーを牽引した車が少年の横を通り過ぎカーブを曲がっていきます。少年はカーブの先にある施設を見つめています。競馬場です。

 

ここまでかなり特徴的に何度も車の走行音が入るのですが、ここで初めて車そのものがフレームに入ってきます。不安感の演出でしょう。実際に不穏な感じが漂い、何とも落ち着かない気持ちにさせられます。

 

劇場で見ていたらこれだけで完全に引き込まれていたでしょう。

 

少年の名前はチャーリー、父親は仕事を変えては転々と移り住む生活をしており、最近ポートランドに越してきたばかりのようです。父親との関係は悪くありません。慕っているようでもあります。母親は幼い頃に出ていったらしく記憶にもないようです。だからでしょう、叔母への思いは強そうです。4、5歳の自分が叔母と一緒に写った写真を大切にしています。チャーリー12歳の時に叔母がチャーリーを引き取って面倒をみたいと言い出し父親と大喧嘩になりそれ以来疎遠になっています。

 

父親はチャーリーを愛しているから離さないと自分では思っているようですが、逆で子どもに依存して親としての大人としての自尊心を保っているだけです。教育がどうなっているのかわかりませんが、そうした価値観があるようにも見えませんし、自分に余裕があれば小遣いを与えているといった印象です。

 

という設定で、とにかく全編を通してチャーリーの孤独感がひしひしと伝わってくる映画です。

 

同年代の少年少女はひとりも出てきません。チャーリーが映画の中で経験していく世界はすべて大人の世界です。大人がチャーリーにひどく当たり、それにより同情をかおうとする映画ではありませんが、概して大人は皆身勝手です。というよりも、ロケーションがアメリカ北西部ですので、今だカウボーイハットを被った男たちの世界ということでもうひとつのアメリカという世界です。15歳のチャーリーでさえ子ども扱いされずひとりの大人として扱われており、甘えられない感じが漂って切なくなります。

 

競馬場でデル(スティーヴ・ブシェミ)という男と出会います。競馬といっても草競馬で、デルは数頭(と言っていたが2頭しか出てこない)の馬を持って各地の草競馬場を回って賞金を稼いでいます。

チャーリーはそのデルから手伝いの仕事を得て馬の世話をすることになり、そのうちの一頭ピート(リーンオンピート?)に心を寄せるようになります。

 

チャーリーとデルがダイナーで食事する場面があるのですがちょっと不思議な感じのシーンです。チャーリーがいきなり食べ始めますとデルが「ひどいマナーだな」と言い、チャーリーが「なにか変?」と返しますと「俺より先にガツガツとかき込みやがって」言います。

画としてガツガツ感が強調されているようには感じませんが、チャーリーの生い立ちや生活環境を見せているんでしょう。確かにその後、母親や父親や叔母さんのことを根掘り葉掘り尋ねさせてチャーリーの生活環境を説明していました。

ただ、デルは「俺と一緒に食べるのならマナーが必要だ」と静かな口調ながらも、何も食べずにまるで怒っているかのように席を立っていきましたのでとても奇妙に感じたシーンです。

 

この映画割とそうした、ん? と首をひねるようなところは多いです。順撮りじゃないでしょうし、編集の都合ということもあるのでしょう。

 

最初のシーンで父親と一緒にいた女性は職場の女性で既婚者です。ある夜、その夫が怒鳴り込んできます。乱闘騒ぎになり、父親はガラス窓を突き破って怪我をし、ガラスが腸を傷つけて感染症を引き起こして重症となります。

警官に保護者は? と尋ねられたチャーリーはとっさに叔母さんがこっちへ向かっていると答えますが、警官は施設に連絡をしようと言いあっています。チャーリーはすきをみて逃げ出します。

 

その後、病院シーンがあり、厩舎で働くシーン(厩舎に寝泊まり?)があり、再び病院シーンがあり、家から荷物を持って出るシーンと続きますので、これも、ん? と感じるところではあります。編集の問題ですね。

 

競馬のためにしばらくポートランドを離れます。女性騎手のボニー(クロエ・セヴィニー)が加わります。

このパートはロードムービー風です。

ピートがレースに勝ちますが薬物を使っていたり、ひとりでダイナーで食事をしていますと注文していないものが出てきてサービスよと言われ、そこに何やらメモ書きがあるのですがそれが何かは語られず(お誘い?)、ボニーには馬はペットじゃないと言われたりするシーンがあります。

 

ポートランドを留守にしている間に父親が亡くなります。チャーリーは医師に大丈夫と言ったじゃないかと責めますが、医師はそんなことより保護者はいるかと尋ね養護施設に相談するとチャーリーに真正面から相対しようとはしません。

 

チャーリーは厩舎に逃げ帰り、鏡に映る自分と対話し、そしてピートのいななきを聞き心のうちで対話します。

ピートは足に怪我があります。最後のレースに勝てなければ虐殺の運命です。負けます。チャーリーはピートをトレーラーに載せて逃げます。

 

ここまで映画の半分くらい、ここからはチャーリーとピートのロードムービーです。叔母さんがいるというワイオミングを目指します。

ガソリンを入れるにも持ち金は少なく、地図を万引きし、有り金がなくなりガソリンを盗み、無銭飲食をして捕まり、逃げて、車が故障(ガス欠?)し、ピートとともに徒歩でワイオミングを目指します。

 

本当に荒野です(多分)。

 

荒野の一軒家で暮らしている男たちがいます。テレビゲームをやっています。警戒することなく家に入れてくれたりします。

よくわからない男女がやってきて食事します。おじいちゃんと孫娘のようで娘が食事をつくり、皆からいろいろなじられたりしています。チャーリーが、なぜ我慢しているの? と尋ねますと、行くとこないしと答えます。

 

んー…よく知りませんが、アメリカだなあと思います。

 

再びピートを連れて歩き始めます。夜です。ピートが車の走行音に驚いて飛び出し車に轢かれて死にます。警察から質問攻めにあい、再び逃げます。

 

ひとり放浪のロードムービーです。炊き出しで食事にありつき、トレーラーハウスで暮らす男女と知り合い、塗装の仕事にありつきお金を得るも男に取られて追い出され、バールを持って仕返しに行きお金を取り返します。

 

ここもいきなり男に襲われていますので何か編集で落としていますね。

 

叔母さんはワイオミングからララミーに引っ越していることがわかります。さらに400km、バスでララミーに向かいます。

 

そして叔母さんの働いているララミー公立図書館、長い長い放浪の旅は終わります。

 

「少しだけここにいていい?」

「もう離さない」

 

ただ、チャールズが心の安らぎを得るのはまだまだ先でしょう。暖かくむかえてくれた叔母さんのもとでも悪夢に悩まされるチャールズです。

 

朝、ララミーの住宅地を走るチャールズの後ろ姿に音楽は入ってきます。

 


Bonnie Prince Billy - The World's Greatest

 

叔母さんとの再会の場面でも過剰に盛り上げようとはせずさらりと描いています。感傷的な音楽を入れて盛り上げようとの誘惑も感じない監督なんでしょうか、とても好感が持てます。 

 

さざなみ」のあまりよくない印象を一気に挽回した映画でした。

 

荒野にて(字幕版)

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  • 発売日: 2019/09/03
  • メディア: Prime Video
 
さざなみ(字幕版)

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  • メディア: Prime Video