巡礼の約束

五体投地のシーンが少ないのは残念、基本は親子ものでした

チベット仏教の巡礼といえば「五体投地」です。「ラサへの歩き方 祈りの2400km」で知りました。無茶苦茶いい映画でした。もう一度見たいです。

これもそういう映画かなと思いましたがちょっと違っていました。

巡礼の約束

巡礼の約束 / 監督:ソンタルジャ

物語の背景や契機となるのはラサへの巡礼ですが、映画のテーマは親子もの、あるいは家族ものです。

で、ソンタルジャ監督のプロフィールを見ていましたら、過去の作品に「草原の河」とあり、ん? なにか引っかかるものが…とこのブログを検索してみましたら、なんと! 見ていました。

すっかり忘れていましたが、読み返して思い出しました。

そのブログの最後は「結果としてはいい印象で終わってはいるのですが、やはり自分が考える物語にそって撮ろうと思うのであれば監督としての力不足が感じられますし、フィクションであれ、演技を強要しないのであればドキュメンタリーの手法を学ぶべきかと思います」などと偉そうな言い方でまとめています(ペコリ)。

この流れでこの映画について言えば、映画としてうまくまとまっています。

発端は、妻のウォマが泣きながらラサに巡礼に行くと言い出したことです。夫ロルジェがその理由を問いただしても答えません。

ウォマは実家にいる息子ノルウに別れを告げて五体投地で巡礼の旅に出ます。

しばらくは、なぜ泣いていたんだろう? どういう家族関係なんだろう? との疑問がわき、なぜ(映画が)それを隠しているんだろうと考えていたんですが、映画の1/3くらいでしょうか、ウォマが亡くなるあたりでああそういうことねとわかります。

この映画のキーポイントがロルジェの嫉妬(とは少し違った感情ではあるが)とそのロジェとノルウの親子関係構築の過程を見せることだからです。それを最初に明かしたくなかったのでしょう。

ウォマが泣きながら巡礼に行くと言い出したのは、亡くなった前夫がラサに一緒に行こう(行ってほしいだったかな)と枕元に現れたからです。ウォマは何らかの病に冒されており死期が近いことを自覚しており、そのことをロルジェに隠しています。

また、前夫との間の子供ノルウを実家においてロルジェと再婚しています。

ウォマが巡礼に出て2ヶ月(くらいだったと思う)、ロルジェがオートバイで追っかけてきて病気のことをなぜ黙っていたと訴え、ロルジェも巡礼に同行することになります。

そして巡礼の途中、ウォマの容態は悪化し、ロルジェに巡礼に出ようとした理由を告げ、ノルウには、前夫の遺灰で作った仏像とふたりで写った写真持ってラサに行くよう託して亡くなります。

ロルジェは、巡礼行きの理由を知ったときにはっきりとした嫉妬を現すわけではありませんが、ウォマがノルウに託したものが前夫のものであり、その二人の写真であることを知ると、そのものをそっと遠ざけたり、ウォマを寺院で供養する際にその写真を二人の間で破って貼ったりします。

ロルジェを演じているのは、ヨンジョンジャさんという有名なチベット人歌手で、この映画のプロデューサーでもあるとのこと、俳優ではないこともあるのか、感情を表に出さない演技がかえって気持ちを押し殺した風に見え、ああ…とため息の出るシーンでした。

ロルジェとノルウがウォマの後を継ぎ五体投地でラサに向かいます。

五体投地や道中の人の優しさについては「ラサへの歩き方 祈りの2400km」で感動していますので、この映画で驚くようなことはありませんが、ウォマが亡くなるあたりでロルジェたちを助けるジンバ家族が優しいです。

そして、映画の後半はロルジェとノルウの物語になります。ノルウは、ロルジェが自分を遠ざけたために母親と暮らせなくなったと考えていますので反抗的です。ロルジェはといえば、そうしたのルウに対してもこれまで通り大きく心を動かすようには見えず極めて自然体です。

どのシーンだったかは(あまり変化がないので)忘れてしまいましたが、ロルジェは、自分が破って寺院に貼ってきたウォマと前夫(ノルウの父)の写真を、ノルウがテープをはり元通りにして持っていることを知ります。

このシーンもわりとあっさり描かれていますが、ロルジェにしてみればかなりつらいはずです。自分のやったことへの後ろめたさを感じていたたまれなくなるのではないかと思いますし、ノルウにどう対していいのか戸惑いも生まれるのではないかと思います。

そうした感情的なことはほとんど描かれていません。そのあたりは演出意図なんだろうとは思いますが、その後もふたりの関係の変化があまり見えない分、やや物足りない感じで映画は進みます。

そして巡礼の旅は、ラサへ入る直前、ふたりが体を清め、髪を切るシーンで終わります。

おそらくロルジェはノルウを自分のもとで育てることになるのでしょう(違うかも)から、もう少し何らかの方法があったのではないかと思います。映画的にも物足りない終え方でした。

悪くない映画ではありますが、五体投地のシーンが短いカットのこま切れだったのは残念でした。黙々と繰り返すあの姿はそれだけで一本の映画になります。

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