轢き逃げ 最高の最悪な日

水谷豊オリジナル脚本による監督第二作。

水谷豊さん、「相棒」の宣伝映像などでちらちらと見ているくらいで、ちゃんと見たのはこの映画が初めてです。脚本も水谷さんのもので完全にオリジナルだそうです。

轢き逃げ 最高の最悪な日

轢き逃げ 最高の最悪な日 / 監督:水谷豊

入りがむちゃくちゃうまいですね、びっくりしました。

ドローンを使った空撮で住宅街を走る男を追います。男の息遣いが聞こえています。男は停車している車の助手席に乗り込みます。

ここの切り替えの編集、気持ちいいですね。

そして、車の走行シーンが続きます。かなり早い切り返しで男たちの会話、約束の時間に遅れているようです。幹線道路の渋滞、助手席の男が、抜け道があったはずと思い出し、車は抜け道にそれ、住宅街を猛スピードで走り抜けていきます。車がカーブを曲がった瞬間、フロントガラスに女の姿。衝突、そして静寂。

もちろん撮影や編集の技術ではあるのですが、スピード感がありますし、スムーズですし、息つく暇もなく一気に事故シーンまでいきます。かなり力の入った導入シーンだと思います。

と、これは期待できるぞと思ったのですが、この感じのシーンはここだけで(笑)、あとはややミステリータッチのヒューマンドラマでした。

それに、この時点ではわかりませんでしたが、このふたり、大学時代からの親友なのに、なぜこんな住まいから離れたところで待ち合わせるの? ですよね(笑)。何か理由言っていましたっけ?

で、走っていたのは森田輝(石田法嗣)、車を運転していたのは宗方秀一(中山麻聖)、ともに大手ゼネコンの社員です。輝が急いでいたのは、秀一が副社長の娘白河早苗(小林涼子)と結婚することになり、式場での打ち合わせ時間に遅れていたからです。輝は司会を担当することになっています。

呆然と前を見つめる棟方、恐る恐るドアをあけ路上を見る輝。女は倒れて動きません。あたりを見回す輝、誰もいない。秀一は車をバックさせ、女の脇をする抜けるように走り去ります。

予告編を見ていただけですので、えー、水谷豊さんがひき逃げ犯を探し出す物語じゃないんだ…と、やや予想が外れて、じゃあ、どうなるんだろう? との思いで見ていましたら、この後しばらくは、女性が死亡したことがニュースで流れ、罪悪感から夜も眠れなくうなされたりのふたりの心の葛藤が描かれるとともに、ふたりの微妙な関係、秀一は常に日の当たる道を歩むタイプであり、輝はその秀一に依存することで自分のポジションを得ているという、あるいはこれがキーかと思わせるやや危うい関係が描かれ、また、会社内では、主導権争いから秀一と早苗の結婚をやっかむ動きがあることが示されます。

ここらあたりまでで1/4か1/3くらいですが、え? 何がドラマの軸? と、だんだん先が見えなくなってきます。見終えて思うことは、この会社内の人間関係、早苗の父の副社長はともかく、早苗との結婚を狙っていた専務(?)の息子とその専務まで登場させているのはちょっとばかり余計じゃないかと思います。おそらく秀一や早苗の人物像に厚みを持たせるため、あるいは見るものを惑わすためかとも思いますが、むしろそれよりも、秀一と輝の関係を大学時代のフラッシュバックなど使って、これが物語の軸なんだよと見せておいたほうがよかったように思います。

このあたりでのふたりの関係が印象的でなく、後半明らかになるふたりの関係がしっくり来ないんですよね。秀一のキャラクターが内面指向的すぎることと、輝の人物像に奥行きがなさすぎることがこの映画の問題かと思います。

いきなり結論にいっちゃいましたが、この後の展開は、まずふたりに、何者かからあたかも轢き逃げを知っているかのような手紙がきます。当然ふたりともパニクります。そして、秀一と早苗の結婚式、ここでもまた轢き逃げを知っているかのような差出人不明の電報が届きます。

普通差出人不明の電報なんて読まなよね、と思いますが、司会が輝というとことがミソということですね。

いまだ映画の軸が見えない中、防犯カメラ映像によって、あっけなく秀一が逮捕されます。輝も逮捕されますが、すぐに釈放されます。

ここらあたりから、映画はまったく別の物語かと思う展開を見せます。刑事ふたり(岸部一徳、毎熊克哉)の登場もそうですが、前半まったく登場しなかった、ひき逃げされた女の両親(水谷豊、檀ふみ)の物語であるかのような様相を呈します。実はそうでもなく、群像劇的に秀一や輝、早苗も含めたそれぞれの人間模様を描こうとしたんだとは思いますが、やはり早い段階から全員を登場させておかないとなかなかそういう映画にはならないでしょう。

で、水谷豊(俳優名でいきます)は、娘の死を受け入れることができなく悶々としていたのですが、岸部一徳から、娘の携帯が見つからないことを聞かされます。水谷豊は家中を探しますが携帯は見つかりません。でも日記が見つかります。そして、それを読んでいきますと、その当日、事故現場近くの喫茶店で誰かと待ち合わせしていたことがわかります。

あれ? おかしいなあ…。日記には亡くなったその日のことが、待ち合わせをしているけれども、その店が休みで連絡したいけれども、携帯をなくして連絡できないからどうしよう、と書かれています。なのに、車に轢かれたのは、その店から飛び出してきたからで、ということはその日記はいつ書いたの?

辻褄が合っていませんね。まあ映画なんですからいいんですけど、考えてみれば、最初の待ち合わせ場所もそうですが、この映画、結構脚本にあらが目立ちます。

とにかく物語を先に進めますと、水谷豊は、喫茶店の店主から娘がホワイトジーンズをはいた男と2,3度訪れていたことを聞きます。また、娘の友人たちから最近皆で合コンをしたことを聞き、その時の映像にホワイトジーンズをはいた男をみつけます。

突然シーンが変わります。夜、男がガラスを割ってどこかに侵入するシーンになります。水谷豊です。ホワイトジーンズの男の目星をつけたということです。どうやって知ったの? 確信が持てないのにそこまでする? ということは置いておいて(笑)、そこで娘の携帯をみつけます。その時家の主が戻ってきます。そして格闘シーン。

誰だと思います? 秀一は留置されていますので、輝しかいませんね。

で、輝は逮捕! って、何の容疑?

輝が娘の携帯を盗み(それさえ証明できそうもないのに)、わざわざ喫茶店の休みの日に待ち合わせをし、わざわざ秀一との待ち合わせに遅刻して慌てさせ、喫茶店の前を通る抜け道を教え、娘を轢かせるって、それ、何の罪で起訴して、どうやって証明するの?

と思うのですが、映画はそこにはいかず、逮捕(じゃないかも?)された輝がサイコチックな本性を現し真相を明かします。ことの成り行きは上のとおりなんですが、その理由は、秀一への嫉妬だそうです。自分たちへの脅迫も自作自演でした。

そして、ラスト、秀一に面会した早苗は、「自分は人間失格だ…」(これも言っていたけど、ここは違う台詞だったと思う)という秀一に「待っています」と告げるのです。

そして、事故現場、娘を思い佇む壇ふみ、その後ろに早苗の姿、(場所は変わるけど)、謝罪する早苗、そして早苗を思いやる壇ふみ。(俳優名じゃ変だね(笑))

シナリオを練り直すか、他の眼を入れたほうがいいように思います。