「サンドラの小さな家」ネタバレレビュー・あらすじ:テーマはともかく、日本社会からみれば現実感は薄い

この映画は、映画の主人公サンドラを演じているクレア・ダンさんが自ら書いた脚本をフィリダ・ロイド監督に読んでみてほしいと持ち込んだことが始まりとのことです。その経緯が 公式サイト  のフィリダ・ロイド監督のインタビューにあります。 

 

サンドラの小さな家

サンドラの小さな家 / 監督:フィリダ・ロイド

 

 

フィリダ・ロイド監督とクレア・ダンさん 

フィリダ・ロイド監督と言いますと映画界では「マンマ・ミーア!」と「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」で知られますが、舞台演出家としても著名な方で、もともと「マンマ・ミーア!」もロンドン・ミュージカルとしてロイドさんの演出で大成功している作品です。

 

一方のクレア・ダンさんはアイルランドの舞台俳優ですので、なにか関係があるのかなと調べてみましたら、2012年にロイド監督が演出した女性だけのシェイクスピア三部作(all-female Shakespeare Trilogy)の「ジュリアス・シーザー」と「ヘンリー四世」にダンさんが出演しています。この舞台はBBCで映像化もされているようです。

 

おそらくこれが縁でしょう。クレアさんは「ヘンリー四世」ではハル王子を演じており、ヘンリー四世がこの映画のペギーをやっているハリエット・ウォルターさんです。

 

上のリンクにあるビデオクリップをみますとこの映画のようなふたりの力強い演技が見られます。ウォルターさんは「ジュリアス・シーザー」でも主人公のブルータスを演じています。

 

この「all-female Shakespeare Trilogy」って面白そうですね。

 

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ダイジェスト版のような映画 

で、映画ですが、クレア・ダンさんがその脚本を書くきっかけとなったのは、親友から「ホームレス状態になってしまった」と聞かされたこととのことです。公式サイトにダンさんのインタビューもあります。

 

脚本としてこの映画の一番のポイントは「自分自身のヒーローになること」と語っており、おそらく逆境に陥っても自分に自信を持って乗り越えようとしてほしい、そうすれば協力者は現れるということではないかと思います。

 

原題の「Herself」はそうした意味合いのタイトルなのでしょう。

 

ということからなのか、逆境自体の描写は、現在の日本社会の感覚から言えばあまり深いものとは言えず、割と簡単にトントントンと乗り越えられてしまっています。もちろん映画の中で語られることが深くないという意味ではなく深く描かれていないという意味です。

 

語られているのは、夫のDV、行政の形式主義的サポート、シングルマザーの貧困といったことですが、それらの描き方はかなり表面的です。

 

ですので、逆境のことがらがダイジェスト版のように並べられ、なぜか次々に簡単に解決していくように感じる映画です。

 

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

最初のシーンはサンドラ(クレア・ダン)が鏡に向かって化粧しているところだったと思います。娘のエマとモリーもいます。

 

夫から受けている暴力によるあざを隠しているシーンだったようです。

 

夫ゲイリーが帰ってきます。娘たちに外で遊ぶように言います。手にスタンガン(だと思う)を持っています。サンドラはエマが外に出る間際に「ブラックウィドウ」とつぶやきます。エマが化粧ポーチ(かな?)を持って走ります。その間、夫のサンドラへの暴力シーンが何カットか挿入されます。エマが近くのショップに飛び込み化粧ポーチを開けます。「警察を呼んで!ママが殺される!」と書かれたメモが貼られています。

 

夫の暴力行為のシーンはここだけですが、この後幾度かサンドラがそのフラッシュバックに悩まされるシーンがあります。PTSDです。

 

夫婦関係の描写が一切ありません。夫の暴力はいつから始まったのか、それは何がきっかけだったのか、長く続いているのであればその間サンドラはどういう心理状態だったのか、などなど疑問はつきません。

 

シーンの前後の記憶は曖昧ですが、サンドラが両手に持てる程度の荷物を持ち、二人の娘を連れてホテルに入るシーン、そしてサンドラが行政サポートの担当者に住まいを交渉するシーンがあります。

 

サンドラは逃げるように家を出たような描写ですので、一般的には、まずはサポート機関、そしてシェルターかなと思いますが、そうした描写は一切なく、ずっとホテル住まいですからそれなりにお金はあるのでしょう。ただ、ホテルの部屋に入るのにロビーを通らないように言われていましたので、映画の中では説明はありませんが、正規の客ではないとか何か理由があるのでしょう。

 

その後も、すぐに娘たちを夫のもとに届けるシーンになってしまいますので、とにかくことの経緯がはっきりしません。

 

ダイジェスト版のようだというのはこのことですが、まあ、離婚調停に入ったということなんでしょう。後にわかりますが、夫は両親の家に戻っており、養育費を出しています。ということであれば、一般的にはこの間、かなり日にちを要するのではないかと思います。

 

サンドラの生活環境は、パブでの仕事とハウスクリーニングの掛け持ちです。パブのオーナーは容赦のない人物として描かれています。ハウスクリーニングの方は医師のペギー(ハリエット・ウォルター)が雇い主で、ペギーはアフリカに行っていた時に腰を痛めたと言っており、現在は歩行器がないと歩けません。

 

このペギーはこの後の映画の展開で一番の重要人物なんですが、これもよくわからない描き方です。サンドラとの関係について、サンドラの母親もペギーに雇われていたらしく、その関係で引き継いで雇われている(ような)のですが、じゃあサンドラは結婚しているときもペギーのもとで働いていたのか、そうだとするとあのペギーであればサンドラのDV被害について気づかないはずはありませんし、そうじゃないとするとそれまで働いていた誰かに取って代わったのか、たまたま空きがあったのか、などとそこまで突っ込まなくてもいいんじゃないのというところまで気になってしまいます(笑)。

 

とにかく、そんな生活が続いていたある夜、サンドラは自分で家を建てることを思いつきます。ネットでできるかどうか調べますと「あなたも自分の家が持てる!」みたいな動画が見つかり、資金を得ようと行政サポートに、今の自分への支援金の何年分(1年だったか?)かを貸してくれれば家が建てられると交渉しますが受け入れられません。

 

しかし、建てる土地も資金も簡単に解決がつきます。雇い主のペギーが自分の土地の空いている敷地に建てればいい、資金も貸そうと申し出ます。

 

サンドラは準備に入ります。これもトントン拍子に進みます。建築資材店で偶然出会ったエイド(コンリース・ヒル)が助けてくれます。パブの同僚や学校でたまたま出会った女性(子どもの母親)、後半ではパブの同僚の仲間たちも加わります。

 

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協力者を探す段階のワンシーンに父親を訪ねていくシーンがあり、ダウン症かと思われる弟(と思われる)がいて、その彼も途中から加わっていました。

 

当然皆無償の行為ということですので、日本社会の感覚で言いますとサンドラってすごいなあと思います。エイドにもそうですが、パブの同僚や、子どもの迎えが遅くなった時にたまたま子どもの面倒を見てくれていただけの女性に迷うことなく手伝ってくれないと頼んでいます。多分、そういう感覚が一般的な社会なんでしょう。

 

ということで割と順調に家は建っていきます。もちろん映画ですので嵐が来たりというシーンはありますが、そうしたことよりもこの一連の建築シーンではサンドラがかなりハイテンションで、手伝ってくれている皆に強く当たったりするシーンが2、3シーンあり、それが印象的です。

 

えー? みんな、あなたを助けようとしてやっている無償の行為なんですけど、と思いもしますが、サンドラに頻繁にやってくるPTSDが挿入されたりしますし、生活環境によって視野が狭くなっていると見るべきなんだろうと思います。

 

その一番の原因は夫との親権調停(裁判?)です。サンドラは定期的に夫のもとに娘たちを連れていきますが、下の娘モリーが泣いて車から降りようとしません。夫がそれをもって約束の不履行を理由に親権を争い始めたのです。夫の弁護士は契約の不履行とともに家を建てていることに行政への虚偽申請があるとサンドラの養育不適格を主張します。

 

サンドラは興奮し裁判は不利に傾きそうになります。

 

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サンドラは本当のことを話す決心をします。モリーが泣いて夫のもとに行くことを拒否するのは、サンドラが夫の暴力にさらされているその姿をクローゼットの中から見ていたからで、それが原因でモリーはおしっこをもらすようになったと語ります。裁判(の判決?)は延期となり、時間を掛けて娘たちから聞き取ることになります。

 

リーガルドラマとしてはこれではダメだと思いますが、映画はさらにとんでもない展開で解決しようとします。

 

家がほぼ完成となり皆でパーティー(ぽい感じ)をやっています。娘のエマが「ブラックウィドウ!」と駆け込んできます。庭に出ますと家が燃えています。夫が火をつけたというのです。

 

夫は逮捕され懲役刑に処せられます。ただし、一切シーンはありません。サンドラはショックで寝込んでしまいます。ペギーの家です。

 

ある時、サンドラが目覚めますと傍らに夫の母親がいます。母親は「あの子は夫は妻を殴るものだと思って育ってしまった。私はもう遅いがあなたは(なんとかと言っていたと思う)」と言い去っていきます。

 

んー、DVについて、こんな安易な描き方でいいのかなと思います。

 

そしてラストシーンです。ペギーがサンドラを庭に連れ出します。娘たち、エマとモリーが焼け落ちた家の跡地でショベル(スコップ)を持って遊んでいます。サンドラも加わります。

 

という、やはりドラマ構成としては既視感のある場面の寄せ集めのようであり、結果としてダイジェスト版に見えてしまう映画だと思います。

 

あるいは、テーマとしては世界共通の問題意識ではあっても日本社会では現実感のない映画と言うべきかもしれません。

 

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