浜の朝日の嘘つきどもと

高畑充希さんら俳優が映画を救う

タナダユキ監督の映画では初めてよかったと思った作品かもしれません(ペコリ)。

「赤い文化住宅の初子」以来、数本は見ているのですが、どちらかと言いますとステレオタイプな人物でドラマをつくる印象が強く、過剰な演出を感じるからだと思います。

でも、この映画は、そうした過剰さは多少感じられるにしても、俳優によって打ち消されていますし、そもそものシナリオをうまくできています。

浜の朝日の嘘つきどもと

浜の朝日の嘘つきどもと / 監督:タナダユキ

俳優のバランスと間合いがいい

高畑充希さんと柳家喬太郎さんの掛け合いは面白く、高畑充希さんと大久保佳代子さんのおしゃべりは心が和みます。

そのどちらのシーンもフィックスの長回しが多く、長セリフもありますし、日常会話のようでありながら、きっちりと映画的会話を求められる台詞ばかりですので大変だったと思います。

高畑充希さんは場の空気をつくる力があります。時々、素がみえるところもありますが、とにかくある種の映画に必要なパワフルさがあります。

大久保佳代子さんは、その存在は知っていましたが、映画で見るのは初めてで、その自然体の演技に驚きました。

柳家喬太郎さんは落語家さんの余裕でしょうか、高畑充希さんのパワーの受けにまわっていてとてもよかったです。安定の脇役さんです。

他の脇の俳優さんたちも生きています。

物語自体は、タナダユキさんらしいパターン化されたものの組み合わせではありますが、俳優のほどよい存在感でとても見やすいものになっています。

シナリオの構成がいい

物語は2つの軸で構成されています。ひとつは茂木莉子(高畑充希)と森田保造(柳家喬太郎)が閉館を決めた映画館「朝日座」を再興しようとする話、そしてもうひとつは茂木莉子こと浜野あさひがその「朝日座」を立て直そうとやってくるまでのその訳を明かしていく話です。

つぶれそうになった地方の映画館を存続させる話というのは、過去にもそうした映画があったようにも思いますが、およそ想像がつく話です。

タナダユキ監督はそれ一本では映画にならないと考えたのでしょう。映画の7、8割方を浜野あさひの過去の物語に割いています。

これがとてもうまくいっています。その物語の構成が、高畑充希さんと大久保佳代子さんの自然体でありながら映画的なやり取りにぴったりとはまっています。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

浜野あさひ、茂木莉子を名乗る

南相馬の映画館「朝日座」が最後の日を迎えています。ひとりも客のいないところで、支配人の森田保造(柳家喬太郎)がサイレント映画「東への道」(らしい)を上映しています。

映画館の前で森田がフィルムを燃やしているところへ浜野あさひ(高畑充希)が駆け込んできます。フィルムが燃える一斗缶に水をかけ火を消してしまいます。

何をするんだ?という森田、映画館をやめちゃダメだ、立て直すのだという浜野、お前は誰だ?という森田に、浜野はとっさに茂木莉子だと名乗ります。

朝日座再建への道

こうして朝日座再建への道が始まります。

朝日座には450万円(だったかな?)の借金があり、すでに売買契約もすみ、跡地には健康ランド建設の計画が立っています。

それでも浜野はなんとかなると、クラウドファンディングで寄付を募り、仲介業者の不動産屋に掛け合い、上映継続の番組チラシを町中に配り、朝日座を継続させようとします。その甲斐あって、再開上映には町中の人が集まり、クラウドファンディングの金額も順調に伸びていきます。

森田も不動産屋もその勢いにつられたかのようになんとなく、そして次第にその気になっていきます。

浜野あさひ、高校一年生

そうした朝日座再建への道のあいだに浜野あさひの過去が挿入されます。というよりも、浜野の過去のほうがメインストーリーといったほうがいいあつかいです。

浜野が高校一年の時、東日本大震災が起きています。父親は家族のために必死だったのでしょう、タクシー会社で働いていた関連から除染作業員を送迎する会社を立ち上げ、事業としては成功します。しかし、その成功がまわりからの非難をかい、浜野自身もまわりから無視されるといういじめにあいます。

飛び降りることも考えたのでしょう、学校の屋上にたたずんでいた浜野に、教師の田中茉莉子(大久保佳代子)が話しかけてくれます。田中はすべてわかっているようでもあり、また根っからの気さくさからかも知れないという不思議な自然体で浜野に相対してくれます。

田中は映画好きで配給会社で働いていたこともあります。何はともかく映画を見ようと、DVDをスタートさせ、浜野には構わず、ひとりで感動し、ひとりで泣いてしまうタイプです。

浜野は立ち直ります。そして、高校の途中で母親と東京へ引っ越していきます。

浜野あさひ、高校三年生

ある日、田中のアパートに浜野がやってきます。浜野は、東京の生活にも馴染めず、また、神経症気味の母親から逃れるように家出してきたと言います。田中は浜野の母親に電話をし、しばらく預かることにします。

田中は惚れっぽいタイプで、男との出会いと別れを繰り返しています。ある時、ベトナムからの技能実習生のバオ(佐野弘樹)がやけっぱちで放火しようとしているところに遭遇し、その行為にはかまうことなく、お腹空いているの?とそのまま居候させます。バオはとても誠実で優しく、そして田中を慕っています。

順調に進むかと見えたある時、警察がやってきます。未成年者略取の疑いで田中が逮捕されます。浜野の母親が捜索願を出したのです。浜野が自分のもとに戻れば示談ですますとの条件が提示され、田中の身は浜野の決断に委ねられます。浜野は母親のもとへ戻る決断をし、田中は釈放されます。

朝日座、再び危機に陥る

朝日座再建も順調に進むかと思った矢先、突然客足が途絶えます。朝日座の買い手であり、健康ランド建設の開発業者が、町の復興のためには映画館よりも皆が集える健康ランドの方を選ぶべきとのキャンペーンをはり、いわゆる同調圧力的に皆が朝日座へ行くことを自粛したということです。

タナダユキ監督の映画には、こういうステレオタイプと言いますか、この流れの中で言えば、十把一絡げ的に大衆を捉えてドラマを動かそうとすることに抵抗を感じるのですが、この映画ではこれが本筋(に見えてそうではない)ではありませんのでなんとか許容範囲に収まっているというところです。

で、映画です。開発業者からは、さらに契約済みの解体費用1000万円の負担まで通告されます。

コメディーですのでいいんでしょうが、そもそも朝日座を手放すとはどういう契約だったのかとか、それと借金(負債のこと?)とどういう関係があるのかとか、適当な話ではあります。

浜野は絶縁状態の父親に会いに行きます。突っ込んで考えれば、なぜ父親とうまくいっていないのかもはっきりしていませんが、まあ親子関係とはそういうものですからいいとして、結局、お金の話は持ち出せず、逆に父親から金の無心かと言われ、ややギレしてその場を立ち去ってしまいます。

このシーンがあるということは、当然最後には父親が黙って金を出すということです。こういう先の読めるドラマづくりをするということです。

田中茉莉子、余命宣告を受ける

数年後、浜野は東京で大学を卒業し、映画配給会社で働いています。バオくんから田中が乳がんで余命宣告されているとの知らせを受けます。

週末には東京と福島(郡山?)を往復する日が続きます。田中はバオくんと結婚したといい、これでバオくんには永住権が手に入ると言っています。また、浜野に朝日座の再建を託します。というのは、映画好きの田中は南相馬に赴任していたときに朝日座に通い、その支配人森田と番組編成について言い合いをしており、それが悪いからダメなんだと、浜野になんとかしてやってほしいというのです。

かなり無理のある展開ですが、見ている時はふたりのやり取りにまったく違和感はなかったです(笑)。

田中は、「(バオくんと)やっておけばよかった」と最期の言葉を残し息を引き取ります。

朝日座、解体目前

浜野と森田が朝日座を見ています。解体作業が始まっています。

不動産屋がお金の算段がついたと駆けつけてきます。解体作業は中断されます。町の人々も駆けつけてきます。

こういうパターンドラマが嫌なんですよね(笑)。

とにかく、お金の出どころは、田中がバオくんに残したお金から500万円、クラウドファンディングと町の人々の寄付で450万円、そして浜野の父親が名を明かさない条件で500万円ということです。浜野は茂木莉子の名前で通っていますので、不動産屋はなにも知らずに内緒だけどと浜野の父親からだと言ったということです。

バオくんは田中の残してくたお金でベトナムに映画館をつくると言っています。

で、朝日座に500万円を残し、浜野に再建を託した田中とは誰かと不思議がる森田に、番組編成について言い合ったエピソードが明かされます。

浜野は、ここに残ろうかなとつぶやきます。

俳優が映画を救う

やはり、思い返しても、この映画は、高畑充希さん、大久保佳代子さん、柳家喬太郎さんたち俳優につきます。

シナリオの構成はうまいにしても細部はかなり雑です。それがすべて俳優の力で埋まっています。

ベトナム人の俳優を使うべきでは?

ただひとつ、ベトナムからの技能実習生チャン・グオック・バオに佐野弘樹さんをあててぎこちなく聞こえる日本語で演技させているのはとても気になります。

ベトナム人の俳優に演じさせるべきだと思います。雇用者から酷い扱いを受け、逃げ出し、放火までしようという技能実習生という描き方をし、なおかつつくられた言葉のぎこちなさを演出するのであればです。