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「おしえて!ドクター・ルース」90歳の現役セックスセラピスト ドクター・ルースの人生

「アメリカで最も有名なセックス・セラピストであり、司会者、作家として活躍」(公式サイト)するルース・ウェストハイマーさんを伝記的に追ったドキュメンタリーです。

ルースさんの人生そのものが映画です。

 

おしえて!ドクター・ルース

おしえて!ドクター・ルース / 監督:ライアン・ホワイト

 

現在91歳、アメリカでドクター・ルースと呼ばれている現役のセックスセラピストです。その人生は波乱に満ちています。ドイツに生まれ、両親をナチスの迫害で失い、戦後はイスラエルのスナイパーとしての経歴を持ち、その後アメリカに渡り、1970年、42歳(くらい)の時にコロンビア大学で学位(博士?)を取得しセックスセラピストとして開業、1980年にニューヨークのWYNY-FMで始めたラジオ番組 Sexually Speaking が評判を呼び一気にブレイク、様々な分野で今なお活躍中という方です。身長140cm、三度結婚し、子供二人、孫四人、90歳の誕生日までが描かれています。

 

監督は、「ジェンダー・マリアージュ 全米を揺るがした同性婚裁判」のライアン・ホワイト監督です。

 

 

このルースさんならどう撮っても映画になるよと言えなくもありませんが(ペコリ)、とにかくルースさんの90年の人生を、それがダイジェスト版であるにしても、余すところなく伝えているとは思います。

 

どう考えても、その幼少時代の苦難がこの映画で感じられる程度のものであるとは考えられず、またシングルマザーとしての子育てや二度の離婚のによる精神的な痛みが描かれているわけではありませんが、そうしたものを乗り越えた上であのルースさんの可愛らしい笑顔があることはとても強く伝わってきます。

 

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予告編から)

 

ルースさんは、ドイツ、フランクフルトに近いカールシュタットという街で、 1928年の6月4日にユダヤ人の両親のもとに生まれています。本名はカローラ・ルース・シーゲルといいます。アメリカに渡った時に、ドイツっぽいカローラ(Karola)を避けてルースと名乗るようになったと語っていました。

 

10歳の頃となっていましたが、1938年といえば、ググってみれば「水晶の夜」の年です。その頃に父親がナチスに連行され、ルースさんは子どもたちだけでスイスに避難し孤児のための施設で育っています。

しばらくは両親とも手紙のやり取りがあったようですが、それもいつしか途絶え、戦後に両親がホロコーストで死亡したことを知ったそうです。

 

当時の写真が結構残っている方だなあという印象を持ちましたが、そうした映像と下のようなアニメーションをつかってその幼少時代が語られていきます。

 

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予告編から)


1945年、17歳の頃にパレスチナ(イスラエル建国前)に移り、軍事組織のスナイパー(狙撃手)として訓練を受けたらしく、実は私はこれに興味を持って見にいったのですが、この時代のことはほとんど語られていません。本人は人を殺したことはないと語っていました。ただ、自分自身が負傷し、しばらく歩くことができなかったようです。

 

1950年にパリに移り、パリ大学で心理学を学びます。その後、1956年にアメリカに渡り、1970年にコロンビア大学で学位を取得するということになるのですが、この時代のこともほとんど何も語られていません。

 

映画の主題は、性の悩みを相談できる場を公共のラジオ番組に持ち込み、それが広く市民権を得たのはルールさんであったからだという点であり、映画の中でも、公式サイトでも、盛んに「性の話題がタブーであった時代」とか語られていますが、さすがに1980年代以降ともなれば、そんなことはありえなく、アメリカで『キンゼイ・レポート』が出ているの1948年と1953年ですし、1960年代後半からはヒッピーというムーブメントも起き、ラブ&セックスという考え方も経てきた時代です。

 

もちろんアメリカでは、この映画にも出てくる「福音派」という保守的なキリスト教団体の力が強いということもあるようですので批判や抵抗もあったとは思います。

 

とにかく、ルースさんのキャラクターが画になることは間違いなく、映画でもそれが全面に押し出され、ルースさんがナレーションまでやっています。ですので、一貫してルースさんの称賛映画になっています。

 

これはこれ、ルースさんという人物を知ったという点ではいい映画でしたが、映画としての深さを求めるとしますとかなり物足りないと言えます。セックスセラピストとしてのルースさんに焦点を絞って、もう少し具体的に突っ込んだ話をしたり、どんな批判や抵抗があり、それをどうやって乗り越えてきたのかといった描き方もあったのではないかと思います。

 

ちなみに、現在アメリカでは、人工妊娠中絶の全面的反対派が勢いづいており、実際、アラバマ州では今年の5月に、母体が危険な状態を除いて全面的に人工妊娠中絶を禁止する法律が成立しています。

アラバマ州で最も厳しい中絶禁止法が成立、波紋呼ぶ。賛成したのは全員白人男性だった | ハフポスト

 

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