コロンバス

主役はモダニズム建築? ジンとケイシー?

「モダニズム建築の街コロンバス」を背景に、二人の男女がそれぞれの人生におけるひとつの決断をくだすまでの姿が描かれていく映画です。

コロンバス

コロンバス / 監督:コゴナダ

そもそも「モダニズム建築の街コロンバス」という街を知りませんでしたのでいろいろググってみたんですが、まずアメリカにはコロンバスという街が5ヶ所もあるんですね。「アメリカ大陸発見」などという間違った学び方をした例のコロンブスからのネーミングのようです。今は「アメリカ大陸到達」でしょうか。

この映画のコロンバスはインディアナ州の人口4万人くらいの街です。

で、冒頭に、「モダニズム建築の街コロンバスを背景に」と、「舞台に」ではなく「背景」という言葉を使ったのには理由がありまして、率直なところ、モダニズム建築と二人の物語がほとんど溶け込んでいないように感じたからです。

4年ほど前に「もしも建物が話せたら」という映画を見たことがあります。

ヴィム・ヴェンダース監督はじめ6人の監督が6つの建物を撮ったオムニバス映画だったんですが、これが予想に反してもとても面白かったんです。その時の記憶とは違い、この映画では建物にあまり魅力が感じられませんでした。

建物そのものは三次元、あるいは四次元ですが、映像にしますと、それもフィクスですとスチル写真をスライドで見せられているような感覚になります。空間的拡がりが感じられなくなるということで、この映画はそうした映像構成になっています。

その弱点を二人のドラマで補おうとしたのかもしれませんが、物語が背景にマッチしていません。そのどちらの物語も割と感情的なものなんですが、それを逆に背景に合わせて静的に描こうとしています。もちろん建物自体が静的という意味ではなく、この映画の中の建物が静的ということです。

ジン(ジョン・チョウ)は韓国在住の翻訳家で、父親がコロンバスで倒れたために急遽駆けつけてきたという設定です。父親は建築家か研究者のようで、コロンバスには講演のために来ていたのでしょう(多分)。父親は遠景のワンシーンに登場するだけですし、実在としては重要な存在ではありません。ジンの心のなかの父親との関係が問題とされるだけです。

簡単に言ってしまえば、うまくいっていないということです。ジンにしてみれば、父親は建築に一生懸命で自分のことを大切に思っていないと感じているようです。父親が倒れたことにもあまり心配する風でもなく親身さがないように描かれています。

ケイシー(ヘイリー・ルー・リチャードソン)の方は大学への進学に迷っています。一緒に暮らしている母親が以前薬物依存だったらしく、その母親をおいてコロンバスを離れられないと考えているからです。

どちらかといいますとケイシーのほうが問題としては深刻です。現在の母親は薬物は断っているようで、昼間は工場で働き、夜も(時々?)清掃の仕事をしています。ただ、ケイシーは母親から目が話せない、自分がいなければだめだと考えています。

という二人が、コロンバスのモダニズム建築を背景にして、ケイシーの方はジンに(内心)助けを求めるように、そしてジンの方はそれに応えてついつい心を許してもらすようにお互いの心の内を語っていきます。

結局、ケイシーの方は母のもとを離れ大学に進学する決断をし、ジンはコロンバスにアパートメントを借りしばらくは入院中の父のもとに残ることになります。

で、おそらくコゴナダ監督が一番見せたかったであろう建築物ですが、あまり印象的なシーンはありません。やはり映画ですから動的なものがないとつらいです。この映画で言えば、物語自体は動きのあるものなんですから建築物にあわせた静的なダイアローグではなく、そのまま二人の感情を全面に出すとか、実際に建築物をからめて移動させるとか、何かそうしたダイナミックさがないと建築物の生きた感じがでてきません。

モダニズム建築の(私の)印象がそうなんですが、映画全体が気取った感じになってしまっています。

いいシーンがあったのですが残念ながら生きていませんでした。


『コロンバス』本編映像解禁❷

ジンとケイシーの対話のシーンのひとつです。ケイシーがガイドのように説明しますので、ジンが「君はそんなことでこの建物が好きになったのか」と尋ねます。ちょっと間があり、ケイシーは「いいえ、感動したから」と答えます。ジンが「その感動したことを聞かせてくれ」と言いますと、その建物の室内からのケイシーのカットに変わり無音になります。

すごくセンスがいい流れだと思いますが、如何せん無音の前が同じような印象のかなり引いたロングのフィクスですので印象に残りません。(いや、書いているから残っている?)

監督のコゴナダさんの名前は「小津映画に欠かせない脚本家の野田高梧に因ん」だ名前とあり、一瞬、ん? と思ったのですが「KOUGO NODA」からなんでしょうね。

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