小さな恋のうた

鉄板の青春音楽映画だが、山田杏奈、佐野勇斗、森永悠希の演技が魅力

青春 × 音楽(バンド)映画はやっぱり最強ですね(笑)。

それにこの映画、ベタなところのおさめ方が結構うまくいっており、最後まで嫌味なく見られます。こういう映画って、ある程度ベタじゃないと成立しませんし、かといって行き過ぎると引かれてしまいますし、結構バランスは難しいと思います。

小さな恋のうた

小さな恋のうた / 監督:橋本光二郎

それに何をおいても音楽映画ですから音楽シーンがよくなくてはいけないんですが、数シーンある演奏シーンがいいですね。

冒頭いきなりハイテンションな音楽シーンから始まります。あれは「Don’t worry be happy」だったんでしょうか、劇中使用曲はすべて「MONGOL800」の曲のようです。

亮多(佐野勇斗)、慎司(眞栄田郷敦)、航太郎(森永悠希)、大輝(鈴木仁)が学祭を前に練習するシーンなんですが、すでに学内では人気者のようで、練習室から漏れる音を聞きつけた生徒たちが集まってきてさながらライブ会場のようになります。

いきなりこれかい!?とは思いましたが、結果いいオープニングでした。

演奏シーンでは、上の引用画像の校舎の屋上のシーン、何となく既視感を感じたりはしたんですが、それはともかく、こういう屋外の演奏シーンというのはとにかくカッコいいですね。そんなとこじゃ誰も見られないんじゃない? みんな屋上へ上がってくるのかなとか思っていましたら、向かいの校舎とかを使って盛り上がった感もよく出ていました。

映画冒頭の演奏シーンの後、亮多と慎司が帰宅途中にひき逃げにあって、慎司が亡くなります。大輝は他のバンドに移り、バンドは解散かとなりますが、慎司の妹舞(山田杏奈)が兄の残したメロディーを持ってきて、これを学祭で演奏したいとやってきます。

ギターは誰が? 舞です。

この展開もよく考えられています。それにこの舞を寡黙なキャラクターにしていることが映画を引き締めてしますし、山田杏奈さんもしっくりはまっています。

で、新しいスリーピースバンドは順調な仕上がりをみせていきます。映画の軸がバンドの成長物語だけですとここにひとつかふたつの挫折エピソードが入るのでしょうが、この映画、沖縄が舞台ですので、駐留米軍という存在がもうひとつの軸になって進んでいきます。

米軍基地を囲うフェンス、爆音とともに飛び去る軍用機はごくごく日常の風景のように登場しますし、生活面でも、慎司と舞の父親は米軍基地で働いていますし、亮太の母親の経営するバーの客は多くが米兵のようです。

そして、決定的なことは、慎司を轢いて逃げた車は目撃者によると米軍関係者が乗るYナンバーだったらしく、それに対して米軍への抗議運動が起きます。

ただ、この映画、このひき逃げに関しては犯人は誰かに最後まで踏み込みません。直接的なメッセージよりも、そのことによって起きることを見せることで、米軍の駐留が日常に組み込まれてしまった苦悩をみせようという意図なのだと思います。

どこにも持っていきようのない怒り、舞の父親の苦悩、そして退職の決断、亮太の母親のバーの閑散とした様子、そしてもうひとつ、バンドのメンバーとリサとの交流。

生前、慎司は米軍の基地内で暮らす同年代のリサと知り合い、フェンス越しに自分の書いた曲を聞きあったりしており、今は舞がそれを引き継いで交流を重ねています。舞は、慎司が書き残したメロディーをリサに聞かせ、この曲を演奏するので学祭に来てほしいと伝えます。

しかし、それは実現しません。

これもうまく作られているなあと思うのですが、学祭の日、ふたつのことが起きて、演奏もできなくなりますし、リサも来られなくなります。リサも来て、演奏も盛り上がってクライマックスなんて手法はとりません。かと言って何か大きな事件を起こすわけでもありません。

バンドは順調に仕上がると書きましたが、それにはライブハウスをやっている男(世良公則)のサポートがあります。世良は(本名でゴメン)バンドに肩入れするあまり、演奏シーンをネットに流したり学祭の宣伝チラシを作ったりして、バンドに禁止されている校外活動を行ったとの誤解を招いてしまい、結局、バンドは学祭に出場禁止となってしまいます。

それと同時に、リサはなんとかして基地を出ようと、知り合いの米兵に車で学祭まで送ってもらおうとしますが、基地のゲートの前で抗議活動に阻まれます。ただ、これも、阻まれたとわかるのは後のことで、ここでは車のフロントガラスにガンガンガンと音がする程度でシーンを切り替えています。

ちょっと話はそれますが、車を運転する米兵とゲートの米兵の会話、「酒は飲むな」「ああ、刑務所に入っている半分は酔っ払いだからな」「残りの半分は女か」、その時、リサは唇を噛みしめるように顔を背けていました。

学祭への出場禁止でどうなるの? と思いましたら、これもうまく作られていました。ベースの大輝は他のバンドに移っちゃっていますから、もう一度やろうと誘われてはいましたがそうもいかず、もやもやしたものを抱えていたのですが、ここで救われます。引用した画像の屋上の演奏シーン、あれは大樹の発案で準備したのものです。

こういうところがツッコミどころにならずに進められている映画です。

ここでは「小さな恋のうた」と、もう一度「Don’t worry be happy」が歌われていました。あれ、違うかな、「あなたに」だったかな?

で、リサのことはすっかり忘れていましたら(笑)、今度は世良(本名でゴメン)のセッティングで米軍基地のフェンス前でリサのためのライブ演奏をやります。ここで歌われるのが「SAYONARA DOLL」と…ここで「あなたに」だったかな?

このシーン、バンドとリサの切り返しで編集されていましたが、途中からフェンスを消していました。映画のもつ思いの象徴的なシーンだと思います。

しかし、そう簡単に現実は変わりません。リサは家族とともに沖縄を去っていきます。

でも、基地がなくなるわけではありません。

沖縄が置かれた状況についてのメッセージはかなり抑えられており、青春音楽映画としては成功していると思います。これだけ抑えて描けるのは製作の主体が沖縄で生まれ育った人たちであるからこそで、仮にこの映画を沖縄以外の者が撮ったとしますと、おそらくかなり批判の対象になったのではないかと思います。

ところで、この映画のバンド、「小さな恋のうたバンド」としてメジャーデビューしたとあり、この映画で演奏している曲をおさめたCDも発売しています。映画の音源、彼らのものなんですかね? 違いますよね(ゴメン)。

なお、本日2019年5月31日のミュージックステーションに出演するそうです。

小さな恋のうた

小さな恋のうた