そんなには褒めないよ。映画評

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「ボーダー 二つの世界」(ネタバレ)北欧の妖精トロールをめぐるダーク・ファンタジー

ぼくのエリ 200歳の少女」を前面に出した宣伝がされていますが、それ系ファンタジーを期待していきますと、ちょっと戸惑うかもしれません。ファンタジーはファンタジーでも、視覚的にも内容的にも、こちらはかなりダークです。

もっとも、「ぼくのエリ」にしても本質的にはダークな映画ではありますが。

 

ボーダー 二つの世界

ボーダー 二つの世界 / 監督:アリ・アッバシ

 

内容的なダークさをひとことで言ってしまえば、異質なものを排除する人間存在への復讐物語だということです。

 

始まってしばらくは、差別、虐げられたといった言葉から北欧の先住民族であるサーミをイメージしているのかなと思って見ていたんですが、そうではなく、北欧の伝承の妖精(怪物?)「トロール」を題材にした映画ということです。

ティーナ(エヴァ・メランデル)とヴォーレ(エーロ・ミロノフ)の会話の中にも「自分たちはトロールだ」という言葉が出てきており、そのトロールが人間に復讐するという物語です。

 

ティーナは、後に語るところによれば、(現代の一般的美醜意識からすれば)その醜い容姿からいじめを受けて育ってきたらしく、税関職員として働く現在でも、どことなく人を寄せ付けないバリアをはったようなところがあり孤独感を感じさせます。

ただ、映画の中では、冒頭、未成年の青年が酒を持ち込もうとして摘発され、捨て台詞的に侮蔑的な言葉を投げつけていましたが、それをのぞいて、日常的に接する同僚や上司、近所の住人、そして同居人の誰も差別的な言動や眼差しを向ける描写はありません。

 

映画の中では誰ひとりとしてティーナをその容姿において特別視していいないにもかかわらず、その映画を見る我々(私)の中に芽生える「醜さ」の意識、そして自分とティーナとの間に引かれてしまう「ボーダー」、これがこの映画が視覚的にダークであることのひとつです。そのように作られた映画ということです。

 

ティーナは税関職員として特別な能力を発揮します。人間の罪悪感や羞恥心といったダークな面を臭いとして感じられるというのです。未成年者の酒(摘発の理由がわからないけど…)や児童ポルノが入ったメモリカードを摘発します。

ごく一般的な臭覚も鋭いらしく、様々なものにピクピクと唇(特殊メイクで鼻は動かない?)を動かして臭覚で判断します。

同居する男性がいますが、そこに愛情はありません。性行為もないようです。一度その男性が求めてきますが痛いからやめてと跳ねのけていました。

また、多くのシーンで、自然の中で生きる動物的志向があるように描いています。散歩に行く際に靴下を脱ぐカットをアップで入れて裸足で森の中を歩かせたり、トナカイ(かな?)や狐との交感シーンがあったり、車を運転中にトナカイの横断を感知して停止したりします。

ティーナは、多数の人々とは異なったそうした自分の特性を染色体異常のせいだと聞かされて育っています。

 

ある日、ティーナは自分と風貌の似た旅行者ヴォーレに臭いを感じ取り調べます。しかし何も見つかりません。後日再び入国したヴォーレを男性職員が身体検査をします。その職員はあやしいものは何もなかったが、外見は男性であるヴォーレに男性器はなく女性器があったと告げます。

 

見るものに新たなざわざわ感が生まれます。それはおそらく性的なものへのタブー意識からくるものだと思います。

 

映画はさらにそのざわざわ感を増幅させようとします。

ティーナはヴォーレに接近していきます。ヴォーレとともに森に入ったティーナは、ヴォーレが虫の幼虫を食べるのを見ます。食べるよう勧められても拒んでいただティーナですが、何かに突き動かされるようにその幼虫を食べてしまいます。

 

人にもよるんでしょうが、これもある種のタブーです。ますますざわざわします。

  

少し映画の流れからははずれますが、このティーナとヴォーレは特殊メイクをしていますので目と唇以外は動かせないようです。例えば、このシーンでも、映画的には、ティーナは虫の幼虫を食べ、どこかすとんと自分のあるべきところに落ち着いたような感覚を味わうシーンなんでしょうが、ほとんど表情が変わりませんので俳優の演技からそう感じるということがありません。

 

映画に戻ります。

このあたりで唐突なシーンがあります。ヴォーレが森の中に横たわって、苦痛なのかよくわかりませんが叫び声を上げています。ヴォーレの股間(であることもよくわからなかった)から何かが出てきます。

 

そして、視覚的に、あるいは内容的にもかも知れませんが、ダークなファンタジーの極め付きシーンです。

次第に互いを求め合うようになったティーナとヴォーレは、キスをし激しく抱き合います。するとティーナの女性器の中から男性器が伸びてきます。いわゆる男性器が勃起するということです。ティーナはそれをヴォーレの女性器に挿入し性交します。

 

ヴォーレは語ります。

自分たちは「トロール」であり、仲間がフィンランド(だったかな?)で暮らしているがこちらからは探せない、向こうから連絡があるのを待っている、自分が子供の頃、両親は実験台にされて殺され、自分は隔離されて施設で育ったと話します。

 

そして、自分は人間たちに復讐しているとも。

 

また、ヴォーレはティーナに一緒に人間たちに復讐しようと言います。

 

人間と、異質なものとして虐げられてきたヴォーレ、その間に「ボーダー」があるとすれば、表面的には異質なものであっても受け入れるべきという人間社会の中で育ったティーナの心の真っ只中に「ボーダー」が生まれたということです。

 

ヴォーレの人間に対する復讐の行為は赤ん坊の取り替えです。冒頭にティーナが摘発した児童ポルノの件でしたがそれが絡んできます。

ティーナとヴォーレの物語とは別にティーナの特殊能力を生かした捜査が進行しています。児童ポルノ所持で摘発した男からある場所が浮かび上がり、ティーナの能力を生かしてアパートの一室を突き止めます。踏み込みますと赤ん坊の児童ポルノ(描かれないので何かははっきりしない)が発見されます。

 

こちらの物語はかなり曖昧にされていますのではっきりはしませんが、森の中のヴォーレの唐突なシーンは、ヴォーレが定期的に未受精児を生むシーンだったらしく、ヴォーレはその未受精時を人間の赤ん坊と取り替えて、児童ポルノを(多分)撮影して売っている夫婦(グループ?)に赤ん坊を売っているということのようです。

 

ティーナの近所の夫婦の赤ん坊が取り替えられます。産気づいた時にティーナが病院に運んだりと、割と親しくしているような夫婦です。赤ん坊はヴォーレが産んだ未受精児にすり替えられています。

ファンタジーですので未受精児なんて言葉で表現していますが、見た目は赤ん坊の姿でも育つことはないという設定でしょう。 

 

ヴォーレは「いっしょに行こう、フェリーで待つ」(だったような…)と置き手紙をして消えています。

 

フェリーの上、「ふたりで子孫を増やそう」「人間に復讐しよう」とティーナを誘うヴォーレ、しばらくあって振り返り目配せするティーナ、ヴォーレは隠れていた捜査官に逮捕され手錠をかけられます。しかし、ヴォーレは隙きを見てそのまま海に飛び込みます。

 

このシーンも本当はふたりの、特にティーナの表情をしっかりみせるシーンなんですが、如何せん特殊メイクが邪魔であっさりしたものです。

いや、内容がかなり濃いーですから、逆にくどくなくてよかったのかも知れません。

 

後日、ティーナの家に大きな箱が置かれています。その中にはトロールの子どもが入っています。ティーナとヴォーレの子どもです。

 

どう評価すべきか難しい映画です。

見るものをいやーな感じにさせることには成功しています。人間が異質なものを排除する存在だということも感じせてくれます。そうした感覚が余韻として残るかどうかはかなり個人差があるということでしょうか。

 

監督はイラン系デンマーク人のアリ・アッバシさん、そうした出自が影響した映画なのかも知れません。

 

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