黒四角

(DVD)俳優の間合いと表情で物語を語る

いい映画じゃないですか!

DVDのレンタル開始が2019年12月となっていましたので、最近の映画なのに記憶にないなあと思いながら借りましたら、2012年製作で日本での公開は2014年の映画でした。

ひとことで言ってしまえば、時間と空間を超えたラブストーリーということなんですが、その物語そのものよりも、俳優たちの間合いと表情で物語を語ろうとしているその手法に引きつけられました。

黒四角

黒四角 / 監督:奥原浩志

奥村浩志監督、すでに数本撮っている監督で現在51歳のようです。

釜山国際映画祭グランプリ『タイムレス・メロディ』(00)
ロッテルダム国際映画祭・最優秀アジア映画賞『波』(01)
『青い車』(04)の奥原浩志監督、5本目の長編作品。
公式サイト

この「黒四角」以降の情報があまりないですね。2018年5月の記事に日本台湾合作映画のオーディション情報がありますがどうなったんでしょう?

で、この「黒四角」ですが、日中合作ということですので製作年の2012年を振り返ってみますと、8月に尖閣諸島への香港活動家上陸事件があり、続いて9月に日本政府の尖閣諸島国有化があり、日本に対する猛烈な反対運動やデモが起き日本企業が襲撃されるという日中関係戦後最悪の時期にあたります。

映画の撮影自体は、その年の10月に東京国際映画祭で上映されていることから考えますと、おそらく関係が悪化する前に撮り終えていると思われますが、中国での公開はできなかったようです。

それにしても「黒四角」と変わったタイトルですが、そのものズバリ黒い四角状の物体、「2001年宇宙の旅」のモノリスのようなものが登場します。多分そこからの発想(援用)だと思いますが、この映画では過去とつながるブラックホールのような意味合いで使われています。したがって物体というよりも空間にあいた四角い穴のようなもので、映像的にも二次元で現れたり消えたりします。

物語は2つの時間と3つの空間が交錯して進みます。この3つ目の物語の位置づけが最後までよくわからず3つの時間だと思って見ていました。

ひとつは現代、製作時期と同時代の北京、もうひとつの時間が70年前の日中戦争の真っ只中、そして3つ目は現代に登場するリーホワが書いている小説の物語のようです。監督がインタビューでそう語っています。

撮っている時のイメージというのは、二つの時代、そしてもう一つ小説の中の世界というのが出てきて、それが並行してずっと存在している、というものでした。時間軸にそって時間が流れていくというよりは、いろんな世界がパラレルに並んでいるような感覚で、撮る時は撮ったんです。
映画『黒四角』に込めた思い/奥原浩志監督インタビュー|集広舎

ただ、見返してみてもリーホワが語る物語には思えませんね(笑)。もちろん批判ではありません。

とにかく、現代の物語、チャオピン(チェン・シーシュウ)とハナ(鈴木美妃)はともにアーチストです。友人の画廊に出かけ、一面黒に塗りつぶされた絵が高額でSOLD OUTになっていることに驚きます。

ここにいたる導入部分、なんということはないのですがなかなかいいんです。

ふたりは、後にわかることですが、ハナは日本からの留学生で学生時代にチャオピンと知り合い付き合うようになって今は一緒に住んでいるわけです。そのふたりの関係や生活環境がなんとなく伝わってくる導入です。

冒頭、チャオピンが庭先でレンガ積みをして何かつくっています。家の中ではハナが何か布のようなものを切り刻んでいます。ハナが庭に出て、行かないの? 何時だ? 3時よ。俺はいいよ。行こうよ。知らないやつだし。私もよ。友達だろ。知り合ったばかりよ。どんな絵を書いているんだ? 抽象画よ。抽象画? とあり、結局出かけることになったらしく路上のシーンになり、露天の野菜売りの前で知り合いの男に出会い、ハナが一緒に行かない? と声を掛けるも、その男は身振り手振りでしか答えず、チャオピンがなぜ喋らない? と尋ねますと、ノートを1ページずつ指し示して、実験をしている。何の? 人類の進化。わかった、パフォーマンス(その男はパフォーマー)でしょう。いや、世の中はうるさすぎる。チャオピンたちは、お前はうるさすぎたなと笑って応えます。

という、ただそれだけの導入なんですが、妙に気に入ってしまいました(笑)。

画廊から帰ったその夜、ぼんやりと自ら描いた自画像を見つめていたチャオピンはその絵を黒く塗りつぶしていまいます。翌朝、ふと空を見上げますと黒い四角い物体が空を飛んでいきます。後を追い、荒野に出ますと、人の2、3倍ほどの高さがあろうかというその黒四角は荒野に直立しています。何だろう、これは? とあれこれ見ていますと、突然、黒四角から素っ裸の男が出てきます。

この映画の特徴ですが、こうしたシーンでもすごく細かく丁寧にカットをつないでいきます。家から荒野に黒四角を追うシーンでも、家を出るカットから町並みのカットを2,3入れて林にいたりそれを抜けると荒野といった具合です。それぞれのカットもかなり長めでゆったりしています。

最後までこうしたつくりの映画です。後半になりますとちょっと端折ったらという気もしてきますが、これが奥原監督のリズムなんだろうと思います。

それともうひとつ、これは特徴ということではないのですが、フェードアウトがとても多いです。特に後半になりますと時間と空間が頻繁に変わるということもあるのでしょうが、やたらフェードアウトでシーンが繋がれます。こちらの方は、さすがに後半になってのこの手法は気が削がれます。

で、映画の続きですが、本当は映画のつくり同様に細かく丁寧に書いていかないとこの映画のよさはわからないとは思うのですが、そうもいきませんので簡潔に要点だけ書きます。

チャオピンはその男を黒四角と呼び、家に泊めることにします。チャオピンには妹リーホワ(ダン・ホン)がいます。チャオピンとリーホワは黒四角にどこかで会ったことがあるような感じを持っています。リーホワと黒四角は互いに何か感じるものがあるかのように意識し始めます。

もうひとつの時間の日中戦争の時代、日本軍は北京にまで進駐し、(おそらく)ゲリラ兵掃討のためだと思いますが、一兵卒である黒四角が所属する部隊はある一軒家に忍び寄ります。黒四角はその家で熱に冒されながらも自分に拳銃を向ける女性と対峙することになります。しかし黒四角は上官には何もなかったと報告します。しばらくしてその家に戻った黒四角は、その女性の兄に妹はチフスに冒されていると告げ治療をします。

その兄妹はチャオピンとリーホワであり、黒四角はその後もしばしば兄妹を訪ね親しくなり、黒四角とリーホワは互いに好意を持ち始めます。

そしてある日、黒四角はふたりに明日大規模なゲリラ討伐作戦が始まるので逃げるように告げます。しかし、その帰り道、黒四角は(多分)ゲリラに射殺されます。

現代のリーホワが書いていると話す小説の中の物語、どの時代の話かはっきりしないまま、同じような荒野っぽい空間の中でリーホワと黒四角が出会います。縫製工場で働くリーホワが荒野の中の廃墟っぽい建物の上に椅子を置いて座っている黒四角に何をしているの? と尋ねます。見張りをしている。何の? いろいろさ、と答えることからふたりが親しくなっていくという物語です。

こうした設定とか、意味不明な(笑)会話とか、すごく好きなんですけどね。残念ながら、全体の中でこの小説の中の物語がうまく使われていないです。もったいない感じがします。

上に引用した監督の言葉では「パラレルな世界」がイメージされているようですが、映画としては前半は現代の物語であり、中盤に至って黒四角が日本兵の幻影(のようなもの)を見ることにより、後半は日中戦争の時間が中心になるというつくりになっています。

ただこれも批判ではなく、見終えて整理してみるとということであり、最後まできっちり映画として成立しています。

で、映画として結末はどうなるかと言えばどうもなりません(笑)。

現代の黒四角はリーホワに必ず戻ってくると言い残して過去に戻っていき、実際、黒四角は戻ってきますが、リーホワにはその姿は見えず、気配を感じ振り返るものの黒四角の姿はそこにはありません。

結局、愛は時空を超えるということであり、その物語を俳優の間合いと表情で語る映画ということです。

黒四角をやっている中泉英雄さん、いいですね。ウィキペディアを見てみますと何本か見ています。

奥原浩志監督の他の映画もDVDになっているようですので見てみたいと思います。

黒四角 [DVD]

黒四角 [DVD]

  • 発売日: 2019/12/27
  • メディア: DVD
 
タイムレスメロディ [DVD]

タイムレスメロディ [DVD]

  • 発売日: 2003/06/27
  • メディア: DVD