そんなには褒めないよ。映画評

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「ブラック・クランズマン」(ネタバレ)これをアメリカのお話と思ってはいけない。

予告編ではコメディっぽい印象を受けたのですが、笑えるところはまったくなく気分が悪くなるような映画でした。これがアメリカの1960年、70年あたりの現実であり、また現在でもその根がなくなっているわけではないことを考えれば、スパイク・リー監督が「グリーンブック」のアカデミー作品賞受賞に怒るのもよくわかります。

 

ブラック・クランズマン

ブラック・クランズマン : 監督:スパイク・リー

 

KLANSMAN とは、日本でもよく知られているクー・クラックス・クラン(KKK)の構成員ということですから、BLACK をつけ「黒人のKKK構成員」というタイトル自体、皮肉を込めた挑戦的なタイトルだと思います。真ん中の K はないようですが同名の原作があります。著者ロン・ストールワースさんの実録ものらしいです。

 

Black Klansman: Race, Hate, and the Undercover Investigation of a Lifetime (English Edition)

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物語は、黒人のロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)と白人のフリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)が協力してKKKに潜入捜査をし、今でいうヘイトクライムを未然に防ぐという話です。

 

ロンが電話を担当しフリップが実際に潜入するということですので、二人の関係を軸に描けばバディムービーということになりますが、あまり意識して作られているようにはみえません。おそらく意識的(無意識的?)に避けているんでしょう。それをやっちゃいますと「グリーンブック」みたいになってしまいます。

それに警察署内の人間関係にも目に見えないよそよそしさが感じられます。所長以下全員白人なんですが、意図的にロンへの差別偏見を描いているシーンを除いて、同じ部署の同僚たちに差別的な言動をする者がいるわけではありません。でも、多くの白人監督が撮るこうした映画とは何かが違います。

逆にいえば、「グリーンブック」もそうですが、白人監督の撮る白人と黒人の同僚関係には(白人の)フレンドリーさが強調されるきらいがあります。でもこの映画では、たとえばロンとフリップのプライベートな関係が描かれることはありません。

 

スパイク・リー監督に意識されていることなのか、無意識でそうなってしまうのか、単に作風なのか、あるいは私の考えすぎなのか、どうなんでしょう?

 

ヒントは冒頭の「風と共に去りぬ」のワンシーンの引用でしょう。スパイク・リー監督から見ればひどい映画だということです。

 

ロンがコロラドスプリングの警官募集に応募するところから本編(?)が始まります。ロンはその警察署に初めて採用された黒人警官らしいのですが、そのあたりの描写は簡単にとんとんとんと進んでしまいます。もう少し何かあったほうがいいようには思いますが、映画全体を通しても人間関係的にはみなあっさりしています。そういう作風なんですかね。

ロンは最初は資料室に配属されます。ここで白人警官の差別的なシーンが描かれます。ロンは捜査課(情報部?)への異動を申し出て、運良く(なのかどうなのか?)ブラックパンサー党(系?)の集会への潜入捜査を命じられ念願がかないます。

 

この映画、メッセージという意味ではかなりその真意を読み取るのが難しい映画だといえます。それに、(私には)よくわからない会話も結構あります。ロンとパトリスの映画の話(だったのかな?)も理解できていないです。笑えないのは若干そうしたことがあるかもしれません。

 

この潜入捜査で、後に恋人関係になっていく学生団体の代表者パトリス(ローラ・ハリアー)と出会いますが、そもそもロンが警官であることにしても、そのパトリスからも〇〇(何だったっけ?)と差別的に呼ばれるくらい、(特に当時の)黒人から見れば天敵みたいなものでしょうし、そのロンが仲間であるべき黒人たちの中へ素性を隠して、つまり騙して潜入していくわけです。

 

ところで、このブラックパンサー系の集会ですが、その講演者がクワメ・トゥーレと改名した云々というやり取りがあり、ちょっとよくわかりませんでしたのでググりましたらこんな動画がありました。

 


<クワメ・トゥーレの演説編>映画『ブラック・クランズマン』予告映像

 

ウィキペディアによりますと、この講演者ストークリー・カーマイケルは、一時ブラックパンサー党の主席であったのですが、意見の不一致により離党し、その後アフリカに渡って改名したということらしく、そうであれば、そのカーマイケル改めクワメ・トゥーレをわざわざアフリカから招くということは、あの集会は仮にブラックパンサー党の集会だったとしても主流派の急進的なグループじゃないという位置づけなのかも知れません。

ストークリー・カーマイケル - Wikipedia

 

この潜入捜査によりこの団体に危険はないとなり、次にロンは KKKの新聞募集にいきなり白人を装って入会したいと電話をします。実際の潜入はフリップの担当ということになり、これ以降、KKKのメンバーたちの集まりや正規の集会が嫌というほど描かれていきます。

 

映画に登場するKKKのメンバーは数人ですが、とにかく皆ひどい人物で無知と愚かさが際立っています。明らかにブラックパンサー党系の集会のクワメ・トゥーレの演説と対比させているわけです。いかにKKK、そしてそれ的なものが異様な存在であるかを示そうとしています。

 

ただ、ことさらそれが叫ばれているわけではありません。実は、この映画、ロン自身が人種差別に対してどう考えているのかは全くと言っていいほど明らかにしていません。たとえば、パトリスが移動中に白人警官に車を停止させられて侮辱されたり性的な犯罪的嫌がらせを受けたと怒っても、ロンはそんなやつばかりじゃないと言うだけです。まだ警官であることを明かしていない時点でさえです。

 

それは、実際にKKKに潜入するフリップにも共通しています。フリップはユダヤ人です。KKKはアングロサクソン系白人至上主義ですのでユダヤ人も差別排斥しようとします。KKKの集会では、言葉では黒人差別排斥が叫ばれますが、映画の中で頻繁に描かれる差別偏見行為はフリップに対するものです。KKKのイカれた男が、フリップはユダヤ人じゃないかと、これでもかこれでもかと差別的な言葉を浴びせかけるシーンは見ていても気持ち悪くなるくらいです。

ところが、それに対してフリップ自身の怒りは描かれていません。怒りどころかどう感じているのかさえみえないのです。警察署内のシーンでも、そうした差別偏見行為自体が話題になることはありません。

 

こうした描き方がスパイク・リー監督の作風なのか、原作の志向性によるものなのか、あるいは計算されたものなのか、それを語るほどリー監督の映画を見ていませんが、KKKの異様さが浮び上がってくることだけは間違いないです。

 

黒人監督が撮る人種差別の映画は明らかに白人監督が撮るものと違うということです。差別偏見がある場において、(見せかけの)和解を語るか、差別自体を明らかにしようとするかの違いともいえます。

 

ヘイト(的行為)を繰り返しつつ和解をよそおう行為、それはアメリカだけの話ではないかも知れません。

 

ロンが黒人であるにもかかわらず、KKKの支部長や最高幹部デビッド・デュークが白人(至上主義者)であると(騙されるという意味ではなく)認識することからも、人間の持つ差別感情の根源的なことが見えてきます。

 

電話のシーンが二分割で描かれるシーンは明快ですが、騙し騙されていることを見せているんではなく、人間はそうやって様々な思い込みよって人や物事を認識してしまうということなんでしょう。人は目の前にいる人物が何者であるかを理解する時、まずは肌の色や話す言葉(映画ではアクセント)などなど見た目で判断するということです。

 

この映画、人種差別に対するメッセージというよりも、それぞれ自分自身を戒める映画とみるべきかもしれません。

 

で、映画の展開としては、フリップがKKKの支部長に推薦され、それに反感を持つイカれた男とのあれこれがあり、それでもロンが最高幹部との電話で信頼を得て、支部長に就任する(ここちょっと曖昧で自信がない)ことになり、その入会就任式(?)にやってきた最高幹部の警備にロンがつくというギャク的なシーンもあり、同時期、KKKのイカれた男たちが爆弾によるパトリスの殺害を計画しており映画的クライマックスとなります。

爆破計画はイカれた男の妻がパトリスの家に爆弾を仕掛けるというものですが、うまくいかず路上に駐車されたパトリスの車の下に仕掛けます。

計画を知ったロンがパトリスのもとに駆けつけ、その妻を取り押さえます。しかし、通りかかった白人の警官二人が黒人というだけでロンを地面に押さえつけてしまいます。イカれた男たちKKKメンバーが車でやってきます。彼らは計画が予定通りに進んでいると思いパトリスの車の隣で爆破ボタンを押すのです。

生死は明らかにされませんが死んだのでしょう。

 

後日、ロンとパトリスが(どちらかの)部屋にいますと誰かがノックする音、二人は拳銃を構え廊下に出ます。その先には、KKKのメンバーが白装束に白三角頭巾で十字架に火をつけ気勢を上げています。そして現代のヘイトクライムの実写映像が何カットか続きます。

 


シャーロッツビル 春からの対立がついに死傷事件に

 

KKKの集会では、メンバーたちがトランプ大統領の決め台詞「アメリカファースト」を連呼していました。BBCの動画にもありますが、トランプ大統領はKKKを否定はしていません。

 

翻ってこの日本、果たしこうした映画が作られたとして、まっとうに評価され何らかの賞をとることはできるのでしょうか…。

 

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