アナと世界の終わり

青春、ゾンビ、ミュージカル、3ジャンルの王道をゆく

青春ゾンビミュージカル映画としては完璧です。

ただ、そうしたジャンルがあればですが(笑)。

「ショーン・オブ・ザ・デッド」と「ラ・ラ・ランド」の融合(‘Shaun Of The Dead’ Meets ‘La La Land’)とのコピーで紹介されています。どちらも見ていませんので、それが妥当かどうかわかりませんが、ゾンビが出てくる青春ものをミュージカルで作れと言われたらこれ以外にはない、そんな感じの映画です。 

アナと世界の終わり

アナと世界の終わり / 監督:ジョン・マクフェール

ややこしい話など何もありません。イギリスの田舎町リトルヘブンの物語、高校生たちがゾンビに襲われ、町中の住人がゾンビ化してしまう中、三人の高校生が脱出するという話です。

ただ、その先に未来が見えるかといえばそうでもなく、三人が見つめる先には出口の見えない茫漠とした世界が広がるのみという悲しい物語です。

なぜ人間がゾンビになるかなどというところへは深入りしません。ワンシーン、テレビニュースが世界中でウィルスが蔓延していると伝えるシーンがあるのみです。もう誰もが「ゾンビ」と聞けば「ゾンビ」をイメージします。そうした一般的に固定化されたイメージの上に作られているということです。リトルヘブンというネーミングもそうでしょう。

ゾンビは歌いも踊りもしません。ただひたすら人間を襲い喰らいついてゾンビ化していくだけです。

歌い踊るのは高校生たち、その人物配置も青春映画の定型を踏襲しています。

まずはアナ(エラ・ハント)、しっかり者の女子です。父親は卒業後大学へ行ってほしいと思っていますが、本人は内緒でオーストラリア行きを計画しています。いわゆる、青春≒脱出願望の人物です。

アナの周りには二人の男子がいます。

ひとりは幼馴染でちょっとダサ系のジョン、アナを好きなんですが、アナにはベストフレンドと言われてしまいます。 

もうひとりは自意識過剰気味のニック、子分を数人従えて行動し、ジョンにもですが、皆にあれこれちょっかいを出してからかったりしています。アナと付き合っていたのか、たまたま一度なにかがあったのか、そんな台詞がありましたが、大したことではありません。ただ、自惚れ屋ですので、アナは自分のことが好きなはずと思っています。

このニックだけが途中で若干変化します。前半はやや悪ガキ系でしたが、後半の対ゾンビ戦ではアナと二人だけになるあたりから、一歩ひいた感じで控えめになります。キャラの変化というよりもアナ中心の映画ですから必然でしょうか。

他に、クリスとリサのあつあつカップル、そしてステフ、このステフを演じているのはサラ・スワイヤーさんという振り付けを担当している方とのことです。

こうした高校生たちに敵対してくるのはゾンビだけではありません。サヴェージ校長という権威の象徴がいます。もちろん、サヴェージ校長は噛みついたりはしませんが(笑)、常に高校生たちに対して抑圧的な態度を取ります。

このサヴェージ校長、とにかく学生たちにあれこれ、あれはダメこれはダメとし指示てくるのですが、それらの行為に合理性はありません。既成概念を象徴しているのだと思います。それにしても、普通こうしたパターンですと、ひとりやふたりの太鼓持ちがいるものですが、予算の都合でしょうか(笑)、ひとりでよく頑張っていると思います。

それに、このサヴェージ校長の行動は、ゾンビ騒ぎとはまったく別次元の行為のように描かれます。サヴェージ校長にはゾンビなど見えていないようです。とにかく、学生たちに対して権威的であること、そのことが自分を支えている根源であるかのような行動パターンです。

という人物配置で物語は進み、 多くの学生や親たち、ちょうどのその日、クリスマスのイベントが学内で開催されており親たちが見にきていましたので、学校の体育館から出られなくなり、とにかく権威主義的であらねばならないサヴェージ校長の別次元の行為により、ゾンビたちが招き入れられて皆食われてしまいます。

あれ? アナたち主要人物はなぜそこにいなかったんでしたっけ?

まあ、そんなことはどうでもいい映画ということなんですが、アナ、ジョン、ステフ、クリスはゾンビに襲われながらもそれを切り抜け学校に向かいます。こういうところも結構見せ場で、ちょっとした小ネタもあり、面白いです。

途中、子分を引き連れたニックに出会い行動を共にし、これがむちゃくちゃ意味不明で面白いのですが、途中、クリスマスツリーの倉庫があり、ここを抜ければ学校への近道だとか言いながらその倉庫に皆で入っていきます。

はあ? って感じですが、まあ、クリスマスツリーの中でゾンビに襲われるシーンが撮りたかったのでしょう(笑)。こういうセンスっていいですねぇ。

で、そこ(だったと思う)で、ジョンが食われます。悲しいですね。そして、ニックの子分たちもやられてしまいます。

残ったアナ、クリス、ステフ、ニックは何とか学校に到着します。ただ、上に書きましたようにすでに学校はゾンビたちの天下です。それでも何とか生き延びていたリサと再会、しかし、喜んだのもつかの間、クリスとリサはゾンビにやられてしまいます。

続いて、ゾンビたちに囲まれたままでの(笑)、サヴェージ校長との対決があり、なぜかよくわからないままに校長に捕まっていたアナの父親との絡みもあり、結局、校長はゾンビにやられ、また父親も噛まれてしまいます。

ゾンビたちに囲まれ絶体絶命のアナとニック、そこにステフが車で駆けつけ、三人は脱出します。 

「どこへ行く?」尋ねるステフに、アナもニックも無言のまま先を見つめるだけ…、と終わります。

この映画の良さは、音楽の使い方がうまいということに尽きると思います。もちろん、どの曲もいい曲なんですが、それだけではなく、物語の中にとてもスムーズに音楽が挿入されています。といいますか、逆に、音楽が物語の流れを作っているといったほうがいいかもしれません。

たとえば、学校への車の中で父親にオーストラリア行きを反対された後にその思いを歌う下の動画の「Break Away」、実際にはこのままではありませんが、流れとしては、イントロをバックに、アナがロッカーに隠している航空券(かな?)、そして映像ではまだ何だかわからない扉を見てため息をつき、扉を閉めるとそこにはオーストラリアの地図、そして扉が閉まった瞬間にカットが切り替わり、同時に音楽はヴォーカルに入るといった作り方がされています。


『アナと世界の終わり』本編映像“熱唱ミュージカルシーン”

ベタなんですが、こういう細かな作り込みがミュージカルには適しています。

ひとつ気になったのは、音楽の別録りが見え見えでスクリーンとの融合感がなく、もう少し何とかならなかったのかなあとは思います。

下の検索ですべての曲を聞くことができます。 

Anna and the Apocalypse songs – Google Search

こんな歌もあります。

「Human Voice」

直接的にはゾンビに囲まれ人間の声が聞きたいと歌うシーンですが、その歌詞にはある種現実世界への疑問が織り込まれています。


Soundtrack #7 | Human Voice | Anna and the Apocalypse (2018)

特に何か際立ったところのある映画ではありませんが、青春映画、ゾンビ映画、そしてミュージカル映画、それぞれの王道をうまくバランスよく取り入れた映画だと思います。

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ラ・ラ・ランド(字幕版)