「パリの恋人たち」(ネタバレ)ルイ・ガレル、映画で戯れる

ルイ・ガレルさん、無茶苦茶楽しんで映画つくってます。

公式サイトにある「フランス映画界きってのサラブレッド」という枕詞(的な)がフランスでも言われていることかどうかはわかりませんが、こういう(映画の)センスには二世、三世という環境が大きく影響しているように思います。

 

パリの恋人たち

パリの恋人たち / 監督:ルイ・ガレル

 

どの国にも様々な価値観があり、様々な人がいるわけですから、 この映画を見てフランス人というのは、などと語るのもどうかと思いますし、そもそもこの映画、こうこうだからこうといった因果関係のようなもので理解しようとしても理解できるようには作られていないのですが、それでもなお、フランス人やねぇというつぶやきが漏れてしまうような映画です。

 

とにかく、映画の中で起きるほぼすべてのことが日本の社会通念では理解不能です(笑)。

 

初っ端からすごいです。マリアンヌ(レティシア・カスタ)が一緒に暮らしているアベル(ルイ・ガレル)に言います。私、子どもができたの。でも、あなたの子じゃないの。ポールの子なの。

 

ポールはアベルの友人でもあります。さらにマリアンヌは続けます。ポールは結婚を望んでいるの。結婚式? 10日後なの。

 

ここを出ていったほうがいいかななどと混乱気味のアベル、マリアンヌは、寛容でありがとうと返します。とにかく仕事へ行くよと外へ出たアベルは階段を転げ落ちます。

 

このファーストシーンでこの映画はコメディだとわかりますが、ただその笑いは、ぷっと吹き出すことはあるにしても苦笑であったり、含み笑いであったり、にやにやであったり、理解不能な笑いともいうべき不条理の笑いです。

 

そして映画はいきなり8年後に飛びます。アベルのナレーションだったと思いますが、ポールが亡くなったと語られます。

 

映画のナレーションというのは一般的に登場人物のあるひとりの視点で語られていくことが多いのですが、この映画では3人の登場人物がそれぞれその時の心情を語っていきます。アベルに、マリアンヌに、そしてポールの妹のイブ(公式サイトはエブ?)です。

たとえばアベルの場合、マリアンヌから妊娠を告げられたあと、これでやっとここ(マリアンヌの元)を出ていけるなどと本音なのか負け惜しみなのかわかりませんが、心の声が語りとして入ります。これは他の二人も同様で、その語りが淡々と進む映像に意味をもたせるような作りになっています。

 

とにかく映像は結果としての行為がとらえられていくだけで、なぜその行為をするのかという画はありません。そこに上のアベルのような本音なのかなんなのかわからない語りがかぶりますので、日本的社会通念では理解不能なことが続きます。

 

ポールの葬式の日、アベルはマリアンヌと顔を合わせるべきかどうかわからないと(ナレーションで)言いながら、アベルと息子のジョセフを送り、寄っていいかなどと尋ねます。

マリアンヌはマリアンヌでその時は断りますが、後にアベルに電話をし、あれやこれやで再びアベルと暮らすことになります。

 

8歳の息子ジョセフがアベルにささやきます。ママがお父さんを殺した、ママは医者と寝ていた、と。

 

アベルがその医者を訪ねたりしますので、ん? これ、(ほんのちょっとだけ)サスペンスか? などと思い悩んでいますと、その医者は、自分はゲイだと答えたりし、もうわけがわかりません(笑)。

 

イブが登場します。イブは子どもの頃からアベルに夢中でストーカーしていたと言います。もちろんこういう映画ですので陰湿さはありません。

そして、ある日、マリアンヌに、アベルが欲しい、私にちょうだい、と言います。断ったら?と返すマリアンヌに、戦争よと挑戦的です。

 

でも戦争にはなりません。マリアンヌがアベルにイブと寝たら?と誘いをかけます。ただこれもマリアンヌの心の中はまったくわかりません。

アベルは素直に従います。意味がわかりませんわね(笑)。

 

アベルは荷物(数個のバッグだけ(笑))を持ってイブのもとに行きます。ここではイブの語りが物語を進めます。しばらくはよかったけど、一緒に暮らしてみればただのおっさんみたいなことです。アベルもアベルでマリアンヌのもとに戻りたいのか頻繁に電話をしますがマリアンヌが出てくれません。ただこれらも語りで入るだけで映像は愛し合うアベルとイブのような画が続きます。

 

ジョセフがイブに、アベルがイブのもとに行ったのはマリアンヌの提案だとばらします。それもジョセフはスマホをベッドの下に隠して録音したとその音声をイブに聞かせます。

 

なんと言っていいかよくわからない展開ですが、不思議と何の感情も浮かばず見られます。そのように作られていると考えるべきでしょう。

 

アベルはイブの元を(再び数個の荷物を持って(笑))追い出されます。アベルはマリアンヌのもとに戻ろうと、それが愛であるのか、寂しいだけなのか、はたまた居場所がないだけなのかわかりませんが(笑)、政府の広報が仕事であるマリアンヌの職場(議会だったかな)に警備員の静止も振り切って駆けつけます。

 

当然、警備員に拘束され押さえつけられます。そこにこつこつとハイヒールの足音がします。アベルが見上げますと、そこには満面の笑みを浮かべるマリアンヌが…。

 

このシーン、映画そのものでした。

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映画はまだ終わりません。

後日、ジョセフがいなくなります。必死に探すマリアンヌとアベルですが見つかりません。ふと思いついたマリアンヌがイブに電話しますと、何か思い当たることを言ったのでしょう、それは考えなかったわ(のような台詞)と言い、ポールの墓にふたりで駆けつけます。

 

墓の前に佇むジョセフ、そっと両隣に立つマリアンヌとアベル、ジョセフがアベルに手を差し出します。何も示さないアベル、ジョセフは差し出していた手を引っ込めます。とっさに(といった感じで)アベルはジョセフの手を取りしっかりと握ります。

その3人を後ろから見つめるイブ。映画は終わります。

 

少なくとも「パリの恋人たち」といった叙情的な映画ではないですね。「L'homme fidele」は直訳では「忠実な男」です。

 

マリアンヌを演じているレティシア・カスタさんはルイ・ガレルさんの妻です。結婚しているようです。この「L'homme fidele」はルイ・ガレル監督の長編二作めで、一作目はその時(2015年)のパートナーだったゴルシフテ・ファラハニさんで「Les deux amis」という映画を撮っています。

 

…という映画だと(私は)思います(笑)。

 

いろんな価値観があり、いろんな人間がいるとしても、やはり、これはフランスらしい映画で、映画監督らしいルイ・ガレルさんということだと思います。

 

ひとつ重要なことを忘れていました。どこかのシーンで、アベルがマリアンヌにどうしてポールの子だとわかったのかと尋ねるのですが、なんとその答えは「コインで決めた」でした。もちろん真実かどうかはわかりません。

 

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