「ある女優の不在」(ネタバレ)イラン社会の3人の女性、過去、現在、未来(となるか?)

それにしても「ある女優の不在」とは無茶苦茶な邦題をつけたものです。

原題は「Se rokh」、Google翻訳で調べてみたんですが、何語なのかもわかりません。映画の言語はペルシャ語、アゼルバイジャン語、トルコ語となっており、そのいずれかとは思いますが変換されません。想像ではペルシャ語の音をアルファベット表記に当てたものではないかと思います。

英題は「3 Faces」、直訳すれば「3つの顔」ということで、3人の女性をさしています。下の写真の現役の俳優であるベーナズ・ジャファリさん、「ブラックボード 背負う人」に出ていたとあります。その下のマルズィエ・レザイさんは俳優を目指している女性、そしてもうひとりはイラン革命の前まで俳優として活躍していたシャールザードさん、現在は引退して(させられて)います。

つまり、イラン社会における過去、現在、未来の女性を(象徴的に)描いているということだと思います。

 

ある女優の不在

ある女優の不在 / 監督:ジャファル・パナヒ


くどいようですが、この映画、世界中で上映されていますがこんな奇妙なタイトルを付けているところはありません。みな「3つの顔」あるいは「3人の女性」となっています。

 

「ある女優」に焦点を当てているわけでも、「不在」という誰かがいないことを問題にしているわけでもありません(と、私は思いますけどね…)。

 

それに字幕ですが、最近の字幕は多(他)言語表記をしなくなってしまったんでしょうか。この映画、上に書いたように3つの言語が使われているらしく、パナヒ監督とジャファリさんがマルズィエという女性を探しに行く地域はアゼルバイジャン地域で、そこではアゼルバイジャン語が主要言語らしく、ウィキペディアによれば、イランではアゼルバイジャン語を同系統の言語として「トルコ語」と呼ぶ場合もあるとのことです。

 

Idioma azerí

 

映画の中(の字幕)で、ジャファリさんが、自分はトルコ語が話せないのでパナヒ監督に意味を聞くシーンや、ジャファリさんには聞き取れないだろうという前提で男たちが話しをするシーンがあります。

 

主要言語以外の多言語が出てきた場合は山括弧で表記するのが一般的だったと思います。特にこの映画は登場人物がその言語を理解しないということにも意味があるわけですから、それを伝えようとしない字幕はダメなんじゃないかと思います。

字幕について言えば、最近は丸ゴシックを使った字幕も多くなっていますし文字間も適当で読みにくいものが多いです。

 

デジタル化による業界の劣化ですかね(ペコリ)。

 

ジャファル・パナヒ監督は、2010年にイラン国内で拘束されて、20年間の映画製作禁止、出国禁止、マスコミとの接触禁止といった処分を受けていると聞いていますが、その後も映画を撮り続けています。

実際に2011年には自宅軟禁状態の自分を撮った「これは映画ではない」を公開していますし、その後も「人生タクシー」で2015年のベルリン金熊賞を受賞しています。

 

この映画も昨年のカンヌに出品されて脚本賞を受賞しているわけですから、どういう処分なんでしょう?

 

なかなか映画の内容に入れません(笑)。

 

「私は昔から映画が大好きで、ずっと女優を夢見てきました。寝る間も惜しんで勉強し、テヘランの芸術大学に合格した。でも、夢は砕け散った(公式サイト)」と縊死自殺を撮影した動画を送られた人気俳優のベーナズ・ジャファリは、その内容に動揺し、ジャファル・パナヒ監督とともにイラン(公式サイトにはイラクとあるがイラン)北西部のアゼルバイジャン地区へ向かいます。

動画はパナヒ監督に送られ、それをジャファリに見せたということのようでした。

 

動画を送ってきたのはマルズィエという10代(多分)の女性で、俳優になるという夢を家族に反対され、ジャファリに助けを求めたということです。もちろん動画はジャファリの注意を引き行動を促そうとの狂言です。

ジャファリがマルズィエと対面するシーン、さすがにジャファリは興奮し(ひどくはないけれども)暴力的にもなっていました。

結局、マルズィエはイラン革命前に俳優として活躍していたシャールザードという女性のもとに匿われていました。

 

シャールザードさんというのは、公式サイトによれば「伝説的なイラン人映画スターで、イランでは若い世代も含めて誰もが知っている」らしく、「最も有名な出演作は、マスード・キミアイ監督の偉大なフィルム・ノワール『Qeysar(原題)』(1969)で、多くの国民が彼女と言えば同作品での役を思い浮かべる」俳優とのことです。

この方です。Shahrzad - IMDb

本名はコブラ・サイーディで、シャールザードというのは『千夜一夜物語』のシェヘラザードのことですね。

 

映画の中ではシャールザードさんは登場しません。人里離れた山里で(ちょっと違うけどそんな感じ)隠遁生活しています。パナヒ監督が遠くから見ている画としてそれらしき人物のシルエットや後ろ姿がありますが、実際にそうであるかはわかりません。

そうであるかどうかわからないことにも意味があるということだと思います。

パナヒ監督はシャールザードが暮らす一軒家には入りません。離れたところに車を止めそこから見ているだけです。夜、灯りがともるその家では3人の女性が楽しそうに踊っています。3人で何が話されたのかもわかりません。

 

翌朝、パナヒ監督とジャファリさんはテヘランへ戻ります。

曲がりくねった山道、車がすれ違えないほど細いために村の約束事に従ってクラクションを鳴らします。向こうの車は見えませんが相手もクラクションを鳴らし譲ることになります。ジャファリさんが少し歩くと言って車を降り曲がりくねった道を歩いていきます。フレーム外からマルズィエが走り込んできます。白いチャドルを翻してジャファリさんを追ってゆき、やがて追いつき二人で歩いていきます。二人とすれ違うように牛(かな?)を積んだトラックがゆっくりとこちらに向かってきます。

 

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いいシーンでした。

 

チャドルが白いことにも意味があるのかも知れません。マルズィエは飛び立てるでしょうか?

 

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