ローズの秘密の頁

アイルランドの時代背景が見えづらく、結局ルーニー・マーラっていいねとしか…

やっぱり、ルーニー・マーラさん、いいですね。「キャロル」ですっかりその魅力にやられてしまったのですが、寡黙さが似合いますし、眼差しはやさしいけれど意志の強さを持った目ぢからがあります。

この映画でもそうですが、秘めたパワーみたいなものがすごく出ていました。

ただ、余計なことですが、素の写真からはあまり魅力は感じられません(ペコリ)。俳優として素晴らしいということになりますから、まあ悪いことじゃないでしょう。

監督はジム・シェリダンさん、誰だっけ?と何も思い浮かばなかったのですが、「父の祈りを」の監督でした。

監督:ジム・シェリダン

公式サイト

感動するところもありいい映画だと思いますが、やや構成に難ありでしょうか。

おそらくカソリック教会が経営する精神(科)病院だと思いますが、そこに40年間も監禁状態で収容されているローズが40年前の出来事を語るという物語ですので、重要なのは、いかに現在と過去を違和感なく行き来するかということと老いたローズの若き頃は確かにこうだっただろうと思わせる(見た目も含めた)説得力だと思いますが、かなり難しいと言わざるを得ません。

一言でいえば、現在の老いたローズのヴァネッサ・レッドグレイヴさんと過去の若きローズ、ルーニー・マーラさんの両方が立ち過ぎているということです。どちらかを主にすべきだと思いますが、キャスティング上の制約があるのでしょう。

共に立ち過ぎているがゆえに、ルーニー・マーラさんの40年後がヴァネッサ・レッドグレイヴさんと言われてもちょっと違和感がありますし、シーンの分量にしても、物語的には現在のシーンをもっと少なくしたほうがすっきりすると思います。

もうひとつ引っ掛かったのは導入です。

まず、現在のシーンでは、そもそもの発端にうまく焦点が当てられていない感じがします。精神科医のスティーヴン・グリーン(エリック・バナ)が、ある人物に依頼され、聖マラキ病院に収容されているローズを診にくるわけですが、そのローズが聖書に日記を記していたことがそもそもの発端であるわけですから、そこに焦点を合わせてぐっと引きつけてほしいわけで、病院の移転なんてことで話をごちゃごちゃさせる必要はないように思います。

ましてや、そのスティーヴンこそが映画のオチになるわけですから、導入のスティーヴンのポジションが曖昧過ぎます。中盤になりますと、なんか変だな?スティーヴンと看護師のシーンがやけに多くなってきたなあと、あるいは看護師も物語に絡んでくるのかなと思わせ、おそらくそれはスティーブンに自分の過去を語らせるための存在が必要だったんだろうと思いますが、見るものに余計なことを考えさせてしまいます。

そして過去の導入部分、ローズの置かれた環境が理解し難いです。私が見落としたかもしれませんが、ローズはどこから?なぜ?叔母のところへやって来たのかよく分かりませんし(アイルランドってドイツの攻撃を受けていた?)、また、カソリックとプロテスタントの対立、ゴーント神父(テオ・ジェームズ)のローズへの過剰な接近、そしてマイケル(ジャック・レイナー)の人物像やバックボーンなど、それぞれの人物像や関係が整理されていません。

結局、ローズはアイルランドのどこかの町(スライゴというところらしい)に来たということらしいのですが、保守的な田舎なのでしょうか、とにかく目立つ存在ゆえに男たちからしきりにちょっかいを出され、ゴーント神父までもがローズにつきまとい、挙句の果てにゴーント神父が乱闘騒ぎまで起こすことになり、叔母の家を出て山奥(に見える)の小屋でひとり暮らすことになります。

このあたりのシーンでマイケルがどういう描き方をされていたのか、(寝落ちしていたのか)ほとんど記憶がありません。ローズとマイケルって、すでに導入部分で好き合っていました?

まあとにかく、マイケルは志願してイギリス空軍に入隊するのですが、ローズが暮らす小屋の近くに墜落します。あれがよく分からないのですが、ドイツ軍と空中戦をやったということでしょうか? まさかアイルランドの上空で空中戦を出来るほどドイツが侵攻していたということはないでしょうから、IRAに撃ち落とされた? あるいは故障?

と、まあ細かいことがよくわからないのがこの映画の難点なんですが、とにかくローズはマイケルを匿い、愛し合うようになって結婚します。マイケルは、IRA(と思しき)村の連中に追われ、後に殺されたとローズが聞くシーンが出てきますが、とにかくここは離れ離れになり、マイケルの子を宿していると打ち明けたローズは精神(科)病院に収容されます。

これもよく分からないのですが、宗教差別なのか、未婚の母が許されなかったのか、あるいはゴーント神父の陰謀なのか、アイルランドを理解していないと分かりにくいですね。

で、臨月になり、病院から逃げ出したローズは、海を泳いで(無理じゃない?)対岸に逃げ、子どもを産み落とします。気を失ったローズは子殺しとして隔離されてしまいます。病院では、必死に「私は息子を殺していない」と叫ぶローズですが、電気ショックなどの虐待を受け誰からの助けもなく40年を過ごすことになります。それでも必死に自分の記憶を保とうと思い出を聖書に日記として記すわけです。

そしてラスト、あっけなくスティーヴン・グリーン医師こそがその息子であることが明らかにされるのです。そして、スティーヴンにローズを診るように依頼した人物はゴーント神父であり、ローズが浜辺で子どもを産み落とした時、手に取った石を振り下ろしていたのはへその緒を切ろうとしていたからであり、その子どもはゴーント神父が匿い里子に出したということです。

こう書きますと、とってつけたようなオチに見えますが、この映画はそうした種明かし的なことをやろうとしているのではなく、おそらくカソリックとプロテスタントの宗教対立や民族(的な)対立の中で翻弄されたひとりの女性を描きたかったのだと思います。

ただ、そうしたバックボーンをよく知らない者にはかなり分かりにくい物語であり、結局、最後に印象として残るのはルーニー・マーラっていいなあということになります(笑)。

父の祈りを (字幕版)

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