ロング,ロングバケーション

ラストは、老いてくればおそらく多くの人が望むであろう結末というべきか…

イタリアのパオロ・ヴィルズィ監督がアメリカで撮ったロードムービーです。そういえば、前作の「歓びのトスカーナ」もロードムービー的な映画でした。

で、この監督の映画は前々作と2本見ていますが、今、「人間の値打ち」を読み返してみましたら、無茶苦茶書いています(ペコリ)。「歓びのトスカーナ」も、主演のヴァレリア・ブルーニ・テデスキさんは圧倒的に褒めていますが、映画自体にはあまりいい評価はしていません(ペコリ)。

性に合わないんでしょうか?

監督:パオロ・ヴィルズィ

公式サイト

この映画はいいですね。ロードムービーらしく軽やかに走り、ちょっとした笑いやしんみりするところもあり、なにより物語自体にアクの強さがなく楽に見られます。

ヘレン・ミレンさんとドナルド・サザーランドさん、このお二人によるところが大きいと思います。ほぼ全編お二人の掛け合いで進行します。分かりやすい映画ですので、何も知らずに見たほうがいい映画だと思います。

夫はアルツハイマーが進行し、時に妻をも忘れてしまう元教師のジョン、妻はガンに冒され、医師に生きているのが不思議と言われるくらいのエラ、二人はキャンピングカーで人生最後の旅に出ます。

目的地は、ジョンが一度行きたいと願っていたヘミングウェイが晩年を過ごしたフロリダ、キーウェストです。

映画は、二人の息子が(何の用だったか)二人を訪ねるところから始まるのですが、二人はすでに出発してしまっています。この始め方もスッキリして小気味いいです。

ロードムービーといえば、旅の途中の様々な人々との出会いによるエピソードで構成されることが多いのですが、この映画は、そうした出会いはほんとんど重要ではなく、また、何回か息子や娘に電話するシーンもあるのですが、それもちょっとしたメリハリ程度の意味合いであって、重要なのは、二人が最後の二人のための時間を持つということにあります。

その意味はラストに明らかになるのですが、出発時点の早い段階で伏線がはられています。

ひとつは、そのカットでは何をしているのかよく分からなかったのですが、エラが運転席の床に何か隠すような素振りをするのです。ラストにああそういうことかと分かります。

そしてもうひとつは、二人がキャンピングカーで出ていったことを知った息子が、車が整備不良だと語ります。その時は、ああ途中で故障するんだなと思ったのですが、そうではなく、これもラストに分かります。

旅の目的はジョンが行きたいと願っていたヘミングウェイの家を訪ねることとして始まりますが、本当の目的はエラによって計画された二人にとって本当の意味での最後の旅ということです。

エラは自分が余命わずかであることを知っています。ジョンはヘミングウェイの小説の一節は覚えていても、息子や娘のことを忘れたり、時にエラのことも誰だかわからなくなります。知らぬ間に漏らしてしまうこともあります。

旅の途中、エラは自分自身が懐かしむこともあるのでしょうが、息子や娘の幼いころの写真を見せてジョンに記憶を保たせようとします。キャンピングパークに車を停め、屋外にスクリーンを張り、スライドで写真を見るわけです。このシーンが何シーンかありますが、時に周りのキャンパーが寄ってきたりしていい雰囲気です。

そして終盤、症状が悪化したジョンが、エラを隣りに住んでいる同年代の女性リリアンだと思い込み、とんでもない告白をします。

エラが妊娠している頃の話と言えばほぼ想像がつくことですが、当然エラはショックを受け、怒り、ジョンを突き放します。

このあたりの細かい前後は忘れましたが、とにもかくにも二人は目的地につきます。ただ、ヘミングウェイの家は観光地化しており、ジョンが望むようなところではありません。このあたりの描写もうまいと思います。もうすでにジョンはそこが自分が来たいと望んでいた場所だとも分からず、そこで行われている結婚式だったかのパーティーに溶け込んで一緒に踊るわけです。切ないといえば切ないですね。

一方、エラは症状が悪化し病院に担ぎ込まれます。

その後の細かい展開は思い出せませんが、なんやかやでジョンがエラを病院から連れ出し二人は車に戻ります。エラはいつもよりちょっと多めの睡眠薬をジョンに飲ませ寝かせようとします。そして、奇跡的な束の間のセックス(という言葉は当てはまらないけど)の後、エラ自身も睡眠薬を飲み、運転席の床にから排気ガスを導き入れて眠るのです。

この行為自体がいいことなのかどうかは誰にも判断は出来ませんが、おそらくジョンにとっても望むべき最後だったのしょう。

原作です。 

旅の終わりに (海外文学セレクション)

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