ユダヤ人を救った動物園

文部科学省選定映画という意味ではいい映画かも

否定と肯定」を見た時だったと思いますが、続けざまにナチスものの予告編が流れ、正直なところ、(映画として)こういうのはもういいよと思ったそのうちの一本です。

おそらく、もう1本の「ヒトラーに屈しなかった国王」は本当に見ないでしょうが、こちらは見てしまいました(笑)。

見た理由は、監督が「スタンドアップ」のニキ・カーロさんだと知ったことと、ちらっとダニエル・ブリュールさんが良かったとのレビューを読んだからです。

監督:ニキ・カーロ

ユダヤ人300名を動物園の地下に匿い、その命を救った、勇気ある女性の感動の実話。(公式サイト

ユダヤ人を救った実話にもとづく物語とあれば、およそ内容は想像がつきます。

となれば、映画として何に重点を置いて描くかがポイントになりますが、この映画はそれが何であるか見えてきません。もちろん、実話であることには、誰にでもできることではありませんので大いなる敬意を払い、あくまでも映画がとの話です。

逆の言い方をすれば、重くつらいトーンはやや控えめで、多くのエピソードがパターン通りにいい方向に進むだろうと思わせつつ物語が進んでいくということでもあります。

まずは平穏な幸せな日々が提示されます。

ある日の朝、主人公のアントニーナ(ジェシカ・チャスティン)は、夫とともに経営(かどうかは分からないが)する動物園を開館し、自らも動物たちとふれあい、いかにアントニーナが心優しく、動物たちを愛し、動物たちからも信頼されているかといった様子が描かれます。

この導入は、今時の映画としてはかなり異質で、絵に描いたようなアントニーナの心優しさと幸福感を、言うなれば脳天気に感じられるような描き方をしており、その意味ではかなりクラシカルな手法ではあります。

続いて、世情は今にも戦争(第二次大戦)が勃発しそうな空気であることと、その象徴として「ヒトラー直属の動物学者」ヘック(ダニエル・ブリュール)の存在が示されます。

ただ、このヘックの存在はかなり説明不足の感が強く、ドイツ人なのか、あるいはナチスにへつらうポーランド人なのかも分からず、公式サイトから引用した「ヒトラー直属の動物学者」という意味もよく分からず、後にはナチスの制服を着たシーンも何シーンかあり、兵士たちに命令できる立場というのも一体どういう存在なのかと、このヘックをナチス・ドイツの象徴的存在とするにはかなり無理があり、映画としての深みを欠く結果になっています。

そして、ナチスドイツのポーランド侵攻が始まり、夫ヤン(ヨハン・ヘルデンブルグ)ともども友人であるユダヤ人夫婦や多くのユダヤ人への迫害が始まり、アントニーナとヤンは友人のユダヤ人夫婦を匿います。

実は、これもよくわからなかったのですが、その友人の妻は住まいの地下に匿うのですが、夫はよくわからないままに何処かへいってしまいます。

で、その後、アントニーナとヤンは、ゲットーに隔離されたユダヤ人たちを住まいの地下に匿う計画を立て実行に移すわけですが、このあたりの描写も、その行為のきっかけであるとか、危険を犯す決断であるとかの描写が中途半端で、それゆえに危険であることの度合いがかなり浅いものになっています。

ナチスドイツの残虐性の描写を、ヘックや兵士たちが動物を撃ち殺すことや、ある意味ステレオタイプではありますが兵士たちがユダヤ人を少女をレイプすることで表現したりと、思わず、そういうことではないんじゃないのと言いたくなるようなことをやっていました。

こういう映画で緊迫感を出すための最も典型的な手法は、匿っていることの緊張感が緩み始めた頃に、突然、敵、この映画ではヘックですが、慌てて隠れたユダヤ人たちが声を押し殺している中、ヘックがやってきて、今にも気づくのではないかと、ぴーんと張りつめた空気が漂い、危機一髪、何とか切り抜けたと思ったその時、誰かが物音を立て、それを主人公、この映画ではアントニーナですが、彼女の機転で危機を切り抜けるというものです。

やはりこの映画でも、ヘックがアントニーナに好意を持っていることが早い段階から示されており、アントニーナがそれを利用して切り抜けるという、まったくもってかなりステレオタイプな展開で進みます。

さらに、こうしたアントニーナとヘックの関係は幾度も描かれ、それを夫のヤンが咎めるという、まあ正直、そんなこと入れなくてもと思うほどに典型的エピソードのオンパレードの映画ではあります。

少し良いことを書こうと書き始めたにも関わらず、書けば書くほど酷くなりそうですので、ここらあたりでまとめますと、結局、この映画は、「文部科学省選定」「年少者映画審議会推薦」とありますように、「文部省推薦」、今は「文部科学省選定」と言うんでしょうか、そうしたジャンルの映画ということになります。

当然ながら、さまざま悲劇的なことは描かれたにしてもハッピーエンドの結末を迎えることにはなります。

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