50年後のボクたちは

冒険が犯罪すぎてノスタルジックにはなりにくいが楽に見られて楽しい

少年たちのひと夏の冒険などの言葉を目にしますと、どうしても「スタンド・バイ・ミー」が浮かんでしまい、あの Ben E. King の曲が耳元で鳴ってしまいます(笑)。

♫ When the night has come
 ♫ and the land in dark 
  ♫ and the moon is the only light we’ll see

あれはスティーブン・キングの原作でしたが、こちらは、ヴォルフガング・ヘルンドルフという作家のドイツの児童文学『14歳、ぼくらの疾走 マイクとチック』が原作とのことです。この方、2013年に亡くなっていますね。

監督:ファティ・アキン

原作はドイツ国内で220万部以上を売り上げたベストセラー小説「14歳、ぼくらの疾走」。映画化したのは、最新作「In the Fade」で注目を集めるファティ・アキン。トリスタン・ゲーベルとオーディションで才能を見い出されたアナンド・バトビレグ・チョローンバータル、2人の演技が思春期の少年の成長譚を爽やかに映し出す。(公式サイト

思ったほどノスタルジックな気分にならなかったのは意外でした。

あまりにもマイクやチックと年齢が離れすぎている(笑)からというわけでもないとは思いますが、起きていることとは裏腹に、ひと夏の青春は割とあっさりしていました。

マイク14歳、クラスではややはみ出し者、気になっているクラスの人気者タチアナにも無視され、誕生パーティーにも招待されません。

そうしたところへ、ロシアのかなり遠いところからチックが転校してきます。大五郎のような変わった髪型をしており、初日からウォッカで酔っ払っているようです(この設定、大丈夫?)。

夏休みのある日、盗んできたらしいポンコツのラーダ・ニーヴァ(ロシア製のSUV)でドライブに行こうとマイクを誘いに来ます。

「盗んだのか?」「借りただけさ」「捕まるぞ」「刑罰は15歳からさ」とうそぶきながら、祖父が住んでいるワラキアへ行こうと車を南に走らせます。

ワラキア? 南? ロシアじゃないのか? と思いながら見ていたのですが、今調べてみましたら、ルーマニアの地方のひとつのようです。

で、物語はロードムービーとなり、旅先での人々との出会い、とは言っても実はエピソードは2つしかありません。

ひとつは、食料を買い出そうとスーパーを探して歩いている時に出会ったボヘミアンのような家族、母親と子どもたちらしい数人の家族に食事に誘われます。ただこの出会いもさほど深くは描かれてはおらず、14歳ではなかなか人間関係を描くのも難しいのかなという感じではありました。

で、もうひとつは、あいにくガス欠になってしまい、他の車からガソリンを盗もうとホースを探し回る間にゴミ捨て場でプラハにいる姉に会いに行くという少女と出会います。

ホームレスのようなその少女イザは、警戒しつつも、ホースの在り処やガソリンの抜き方を教えてくれ、結局車に同乗することになります。

チックがイザを臭いとか匂うとか言っていましたので、確かに見た目かなり汚れておりそのことかと思っていましたら、それはあるにしても、ラスト近くで自分は女に興味がないと言っていましたので、そうした意味合いも含まれていたんだと思います。

3人はしばらく共に行動し、湖で裸で泳いだり、イザがマイクに髪の毛を切ってと頼んだり(よく分からない)、2人ではしけ(違ったかな?)に座りながら、緊張するマイクに「したい?」と突然声をかけたり、結局キスだけで終わるのですが、こういう物語にこの手の話は定番かなとニヤニヤ(笑)しながら見ていました。

イザは多分17,8歳の設定でしょうね。

その後3人は、遺跡か何かなんでしょうか、岩山のようなところに登り、そこに刻まれている落書きを見て、一番古いのは100年くらい(だったかな?)前のものだと言いつつ、チックが名前(でしたっけ?)をナイフで刻み込んでいました。

このシーンはそこで終わっているのですが、この後のマイクの言葉がラストに印象的に使われています。

イザは、途中「プラハ」と書かれたバスを見つけ、マイクに必ず返すからと30ユーロを借りて乗り込んでいき、2人とはお別れです。

その後、2人の旅は、怪我をしたチックにかわって運転することになったマイクが事故を起こし終わることになります。血まみれの2人ですが、チックは「捕まりたくないから」と言い、足を引きずりながら森のなかにひとり去っていきます。

映画では語られませんが、チックには何か滞在上の問題があるのかもしれませんね。そうでも考えないと、14歳の少年にしてはやや大胆過ぎます。

それはともかく、マイクは保護され、実は14歳から罪に問われるのが実際らしく、裁判となり、行方不明のチックに罪をなすりつけようとする父親に反抗して、マイクは堂々と2人でやったことだと証言します。

マイク、成長の証です。

そしてもうひとつ、新学期の学校、すっかり大人になったマイクに皆が驚き、それまで見向きもしなかったタチアナから「夏休みどこへ行っていたの?」とメモ書きが回ってきます。

マイクは「ワラキアさ」と書きながらもすでにタチアナへの興味は失い、チックがいるべき隣の空席を見て夏の旅を思い出すのです。

件の岩山、3人は並んで座り遠くを見つめています。マイクが言います。

「50年後の今日、ここで会おう」

結局、意図しなかったあらすじを書いてしまいましたが、冒頭に書いたあまりノスタルジックさを感じなかったわけは、公式サイトにもあるファティ・アキン監督の演出意図のせいかも知れません。

―どうやって主演の2人を見出したのでしょう。

彼らは撮影当時13歳でした。私は運転席でビクビクしている幼い顔が欲しかったのです。いつ捕まるかと始終心配している、そんな風に見えなければならない。 

一向にはじけないマイクが気になっていたのですが、こういうことなんですね。それにこの夏の経験でマイクが大人になったと書きましたが、実は、映画的には音楽や映像でそれらしく見せてはいてもマイク自身にはあまり変化は感じられなかったのです。

難しいですよね、13歳ですし。

もうひとつ、チックも、いいキャラクターだとは思いますがアウトサイダー的な面がやや(日本的には?)行き過ぎな感じで一面的すぎる感じです。

ファティ・アキン監督、「愛より強く」以来ずっと見ていますが、「ソウル・キッチン」以降、「消えた声が、その名を呼ぶ」もそうでしたが、(私には)あまり出来が良くないですね。

おそらく日本でも新作の「In the Fade」が公開されると思いますので、是非「愛より強く」に立ち返るような作品であって欲しいものです。

そして、私たちは愛に帰る (字幕版)