エル・クラン/パブロ・トラペロ監督

面白い題材なのに、実話ベースであることと、その内容の奇妙さ異様さにおんぶしすぎている

これは宣伝が大成功の映画ですね。

プロデューサー アルモドバルに、この予告編(いきなり音が出ます)、そりゃ誰もがぶっ飛んだ映画に違いないとむちゃくちゃ期待しますわね(笑)。

まあ、これが実話って言うんですから、確かに、ぶっ飛んでいるといえばぶっ飛んでいるのですが、話の内容はぶっ飛んでいても映画がぶっ飛びきれておらず、なに? こんなシリアス系なの!?と、その意外さにぶっ飛んでしまいました。

さて、何回「ぶっ飛んだ」でしょう?

裕福で、周囲からも慕われる父、母、息子3人、娘2人の素敵な家族“プッチオ家”。幸せな暮らしをしている彼らのまわりで、身代金事件が多発。彼らの裏には一体、何があるのか? 1983年にアルゼンチンで実際に起き、ちょっと裕福な普通の“家族”が全世界を震撼させた事件を完全映画化!!この映画のとんでもない結末にあなたの開いた口がふさがらない!!(公式サイト

やっぱりアルゼンチンって国は、日本人では理解できない感性を持っています。アルゼンチンだけではなくスペイン語圏と言ったほうがいいかもしれませんが、この映画だけではなく、これまで見てきたものでもつくづく思います。死生観? 人生観? 家族観? 何かが違います。陽気なのか暗いのかわからない、脳天気なのか神経質なのかわからない、そんな感じでしょうか。

この映画で言えば、父親アルキメデス・プッチオ(ギレルモ・フランセーヤ)のキャラクター、こんな人物いませんし、いたとしてもこんな描き方をせず「家族のために」とか、最後は脚色してなんか折り合いをつけようとします。

俳優の力もあり、かなり存在感ありますし、最後は何とかするんだろうと思っていたにも関わらず、それに台詞でも「最後は自分が勝つ」といっていたにも関わらず、結局、映画の中では何もできず終わっており、ただ、あえて言えば、最後にテロップで流れた「アルキメデス・プッチオは、刑務所の中で司法試験に受かり、その後出所して弁護士になった」とかありましたので、その意味では「勝った」と言えるのかもしれませんが、すごいキャラクターですし、その描き方も不思議な感じがします。

映画としては非常に中途半端です。

終え方の中途半端さは、その後誰彼はこうなったとテロップで流す実話もの映画によく使うパターンですのでまあ許容範囲としても、メリハリのない構成と物語に深みをもたせる工夫が足りなさすぎます。

たとば、アルキメデスを軍事政権時の諜報機関か何かの生き残りのように描き、「大佐」という影の実力者のような人物を登場させて、その人物がその後の政権でも力を誇示しているように描いていますが、それが映画の中で全く生きていません。

家族の描写も中途半端です。

一貫して嫌がっているアレハンドロ(ピーター・ランサーニ)はまあいいとしても、家族間の会話が全くなく、妻エピファニアや娘達は頻繁に登場するにもかかわらず何を考えているのか全く分かりません。アレハンドロの弟二人も、ひとりはある日突然いなくなりますし、もうひとりはある日突然帰ってきます。

これでは映画に深みは生まれません。

結局、映画は、プッチオ家の家族内を描くことに終始しているため、誘拐行為が何ともちまちましたものになり、クライムものにも、サスペンスにも、そして一番期待されるブラックものにもなっていません。

このぶっ飛んだ犯罪が事実であるのなら、事実を追い求めるドキュメンタリーで撮るか、何かに焦点を定めた緊張感あるドラマにするか、徹底的に冷めたブラックものにすべきだったと思います。

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