キャロル/トット・ヘインズ監督

ルーニー・マーラの魅力にやられてしまいました。古き良き映画の時代を感じさせる演出も適度で心地良いです。

あまり興味のないアカデミー賞も、この映画のルーニー・マーラがノミネートされているとのことで、一気に興味が湧いてしまいました。ぜひ受賞して欲しいですね。

それくらい良かったのですが、実はこれまであまり印象はなく、「ソーシャル・ネットワーク」では映画の主題とはちょっと離れた存在でしたし、「ドラゴン・タトゥーの女」は、元映画の「ミレニアム」を堪能してしまいましたのでリメイクに興味がわかなく見ていませんし、「セインツ 約束の果て」では全く印象に残っていません。

若手女優ルーニー・マーラと大女優ケイト・ブランシェットの競演。原作は『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』で知られる大人気作家パトリシア・ハイスミスが、別名義で発表しながらも大ベストセラーとなった幻の小説。監督は『エデンより彼方に』の鬼才トッド・ヘインズ。50年代ニューヨークを美しく再現した魅惑的な衣装、名曲の数々、流麗なキャメラ……。ワールドプレミアとなったカンヌでは批評家の星取りで見事にベスト1を獲得!(公式サイト

ところが、この映画ではむちゃくちゃ魅力的なんです。

カンヌで(最優秀)女優賞をとっていますが、なぜか、カンヌでは主演、助演という区別はつけていないのに、日本では「主演」がついてしまいます。単純に Best Actress (Prix d’interprétation féminine), Best Actor だけなんですが、どういうことなんでしょう? 私の勘違い?

それは置いておいて、この映画、ルーニー・マーラの抑制された演技、言葉でも表情でも多くを語らず、なのにキャロルへの好意、愛情、失望、喪失感(I miss you.)、不安、喜び、人が人を愛するときの感情すべてが演じきられています。

どのシーンもいいのですが、いくつかあるレストランのシーンの緊張感が特に印象に残ります。

導入となっている冒頭のレストランのシーン、これはエンディングに向かうラスト近くの再会シーンの別ショットなのですが、なんだか分からないけれども不思議な緊張感が漂っており、これから始まる物語を暗示していて素晴らしいです。まあこれは監督のセンスを褒めるべきところかもしれません。

続いて、時間が戻って出会いの後、キャロルがテレーズをランチに誘い、初めてプライベートに対面する場面の喜びと緊張感が綯い交ぜになった初々しい場面のルーニー・マーラは魅力的です。

そして、エンディング、テレーズのカットで終わっていたと思いますが、いい表情でした。

ケイト・ブランシェットは、二人の対比としてはよかったのかもしれませんし、それぞれのシーンは悪くはありませんが、全体的には少しやり過ぎ感が強く、裏が見えにくすぎます。同性愛が精神疾患と考えられていた1950年頃と考えれば、社会的に失うものも多いでしょうし、実際に最愛の子供を失うことになるわけですから、もう少し不安とか後ろめたさとかを秘めた演技が必要なのではと思います。カットされたシーンがあるのかもしれませんね。

映画全体としては、クラシカルな恋愛(純愛?)ドラマを相当意識して撮っているようで、上に書いた冒頭のレストランのカットへ至るクレーン(多分)を使った街の撮り方は古き良き映画の時代を彷彿とさせます。

その他にも、移動する車の中から街をとらえたショットも同じ意味合いで撮られていると思いますし、そもそもらしさを出すためにスーパー16ミリで撮っているそうです。全体にぼんやりしているのはそのせいですね。

それにしても、「アデル、ブルーは熱い色」でもそうでしたが、この映画も同姓であるか異性であるかを感じさせない恋愛映画になっているところが素晴らしいです。「アデル」と違うところは、クラシカルな恋愛ドラマを意図しているからだと思いますが、恋愛関係に感情的なシーンがほとんどなく、恋愛の熱さを抑えているところです。

ということで、2016年1本目の「当サイトおすすめ映画直近の4作品」に入れさせていただきます。