悪党に粛清を/クリスチャン・レヴリング監督

これって、西部劇である必要はなく、デンマークの都会で起きる話でいいんじゃないの?

悪党に粛清を [DVD]

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  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2016/04/29
  • メディア: DVD

現実のアメリカ(合衆国)は主にアングロサクソン系やゲルマン系の移民たちで建国されたのだと思いますが、西部劇をつくるのは、むしろラテン系の方がうまいですね。

と、マカロニウェスタンをイメージして適当なことを書いていますが、デンマーク発の「ウェスタン・ノワール」とやらは、なにやら妙に殺伐として重く、爽快さも足らず、何も西部劇にしなくてもヨーロッパの話にすればいいのにという感じがします。


悪党に粛清を(予告編)

1870年代アメリカ―。元兵士のジョン(マッツ・ミケルセン)は敗戦で荒れたデンマークから新天地アメリカへと旅立つ。7年後、事業も軌道に乗り妻子を呼び寄せ再会を喜びあったのも束の間、非情にも目の前で妻子を殺されてしまう。
怒りのあまり犯人を見つけ出し射殺したジョンだったが、犯人はこの辺り一帯を支配する悪名高いデラルー大佐(ジェフリー・ディーン・モーガン)の弟だったことから彼の怒りを買う。更にその弟の情婦で声を失ったマデリン(エヴァ・グリーン)も巻き込み、それぞれの孤独で壮絶な復讐がはじまった…(公式サイト

物語の発端となる駅馬車のシーンが、何だかとてもいやな感じがします。何も起きないうちから、何が起きるのかはもう分かったので、早く先に進めてください!とお願いしたくなるような感じです。例え悪党の行いだとしても、空気が陰湿で、西部劇のおおらかさが感じられません。その後のデラルーの容赦ない殺戮も、突き抜け感がなく、いやな後味だけが残ります。それが意図するところなのか、それとも私の体調が悪かったんですかね。

駅馬車のシーンでは、もう少しジョン(マッツ・ミケルセン)の家族を守る感があってもいいでしょう。いかにも悪党のすすめる酒を妻に飲んでおけといいますかね? その悪党が妻のスカートに手を入れても(記憶違いでなければ)何もしないですかね?

デラルーが弟を殺された腹いせに町の人たちを撃ち殺すシーンも何とも救いがないですね。全く関係のない人間をいきなり撃ち殺すわけですが、何と言いますか、人間と人間の間に憤りとか恐れとか戸惑いとか、そうした感情が何も立ち上がってこないのです。

結局、すべての登場人物の「関係」に人間的なものが感じられません。それが「ノワール」と言いたいのかも知れませんが、同じくデンマークのラース・フォン・トリアー監督もダンサー・イン・ザ・ダークやアメリカ三部作なるものを撮りましたが、そこにはアメリカへのあこがれや嫌悪(?)が屈折して画かれており、映画としての完成度も高いものですが、「ドグマ95」を共に立ち上げたというこの監督の映画にはストーリーはあっても物語が感じられません。

クライマックスの銃撃戦も盛り上がりに欠け、なにやらラストにヨーロッパ的「善悪」の概念をちら見せしているのも中途半端で深みがありません。