サイの季節/バフマン・ゴバディ監督

まるで写真展を見ているかのようにそれぞれのカットは素晴らしい。だが…

んー、相当力が入っている感じはするのですが、何だか膜が張ったように遠い感じです。この映画が、あの「ペルシャ猫を誰も知らない 」の監督の作品だとは、にわかには信じられないくらいです。

手法が全く違いますし、重厚というのか、大人すぎるというか、他の作品を見ていませんのでなんとも言えませんが、あるいはバフマン・ゴバディ監督自身はこうした作品の方を撮りたいと思っているのでしょうか?

 「実在するクルド系イラン人の詩人サデッグ・キャマンガールの実体験」がベースになっているとのことであり、その詩もかなり引用されていますので、「詩的なるもの」が相当意識されているんでしょう。

ほとんどがフィックスされた画で構成されており、カメラが動くことは2,3のシーンのみだったと思います。

それぞれの画にはかなり強固な意志が感じられ、またかなりコントラストの強い映像処理がされています。

顔のアップにしても毛穴までとらえようとしているかのようですし、車の窓に当たる波しぶきも水の粒子をとらえようとしているかのようにみえます。

 イラン・イスラム革命時、ある男の企みによって不当に逮捕された詩人サヘル(ベヘルーズ・ヴォスギー)。30年後に釈放され、生き別れとなった最愛の妻ミナ(モニカ・ベルッチ)の行方を捜し始めるが、政府の嘘によって彼はすでに「死んだ」ことにされていた。一方、夫の死を信じ込まされ、悲嘆にくれるミナにはある男の影がまとわりつく。その人物こそがサヘルを監獄送りにし、ミナとの間を引き裂いた男アクバル(ユルマズ・エルドガン)だった・・・。(公式サイト

三人の現在の感情があらわになるシーンは全くありません。それぞれが何を思い、30年という月日の重さとどう折り合いをつけているのかも語られることはありません。

画がすべてを現しているということなのでしょう。

しかし、それがなかなか難しいです。あまりの画へのこだわりに、すべてがそぎ落とされてしまっています。まあ、それが狙いなら成功しているということにはなります。

それに、時折挿入される「詩」がうまくおさまっている感じがしなかったです。字幕を読んでいてもなかなか伝わってこず、それに女性の朗読でしたので、ミナ(モニカ・ベルッチ)が読んでいるのかと思い、さらに意味合いがつかみづらかったです。なぜ女性の朗読にしたのでしょう?

ところで、なぜモニカ・ベルッチなのでしょう?  王政派将校(だったかな?)の娘ということで、ヨーロッパ的顔立ちでもいいということなのでしょうか。私には違和感が強かったです。それに、30年前の20代という設定は無理でしょう。

この作品、フィルメックスで上映されたのは知っていましたが、もう3年前ですか。大きな賞でもとっていない限り興行的には難しい映画なのでしょう。

ペルシャ猫を誰も知らない [DVD]

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