そんなには褒めないよ。映画評

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「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」(ネタバレ)We shall never surrender. 我々は決して降伏しない Never! Never!

チャーチルと聞きますと、私は、チャーチル、ルーズベルト、スターリンの3人が座って居並ぶ「ヤルタ会談」の写真がすぐに浮かびます。

あれは第二次大戦も末期、1945年の2月、いわゆる戦勝国が戦後処理を話し合った会談ですが、この映画は、イギリスにとってそんな希望的未来など雀の涙ほども想像できない存続の危機に瀕していた1940年の話です。

言わずと知れた今年のアカデミー賞の主演男優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞作です。確かに辻一弘さんの特殊メーキャップはすごいですね。

監督:ジョー・ライト

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公式サイト

 

描かれているのは、チャーチル(ゲーリー・オールドマン)が首相に就任する前日の5月9日から6月4日の有名な「We Shall Fight on the Beaches」の演説までの27日間です。

 

このところ続けて「ダンケルク」「人生はシネマティック!」と、2本も「ダンケルクの戦い」を扱った映画を見ていいますが、この映画もちょうどその時期の話で、首相となったチャーチルが、ドイツとの徹底抗戦か和平へ転換すべきかと苦悩の末に、最後に徹底抗戦の決断を下すという映画です。 

 

映画では、その「ダンケルクの戦い」との時間的な関連がよく分かりませんでしたので、今調べてみましたら、ダンケルクで包囲された40万人の英仏の兵士を救出したいわゆる「ダイナモ作戦」は6月4日に終了しているようです。

 

救出が完了したがゆえに「we shall fight on the beaches (略)we shall never surrender」と演説できたのですね。そりゃ誰であれ、40万人の命がかかっている状態ではどちらとも決断なんて出来ないでしょう。

 

で、映画ではその決断の経緯をこんな風に描いていました。

 

すでに前年の9月にドイツに宣戦布告していたイギリスは、北欧での惨敗をうけ、チェンバレン首相が失脚、1940年5月10日に、海軍大臣だったチャーチルが首相に就任します。イギリス政府内には、主戦派のチャーチルと和平派のハリファックス外相(スティーヴン・ディレイン)の対立があり、ハリファックスも首相候補だったのですが、辞退しています。

 

映画ではこのあたりの政府内のパワーバランスはよくわからず、まあこういうヒーロー映画ではよくあることですが、チャーチルは横柄でワンマンな人物に描かれ、孤立しているかのようにみえます。

挙国一致内閣の首相に選ばれるわけですからさすがに孤立ということはないとは思いますが、任命権者である国王ジョージ6世(エリザベス女王のお父さん)も、むしろハリファックスが首相になることを望んでいるようなシーンがあり、チャーチルを恐れているといった表現がされていました。

 

映画的には、この国王の立ち位置があいまいで見ていてあれ?と思ったのですが、終盤に国王がチャーチルを訪ねて、国民の声を聞くようにとアドバイスし、それが最後の決断へとつながっていきます。国王の変化に何かカットされたシーンがあるのかも知れません。

 

で、ちょうど首相就任と時を同じくしてドイツ軍がベルギーとオランダに侵攻、ほどなくして両国ともに降伏し、イギリスからの派遣軍とフランス軍40万がダンケルクでドイツ軍に包囲されてしまいます。

 

ただ、映画はこうした戦況について詳しく描いているわけではありませんし、実際見ていても具体的な戦況はほとんど語られません。じゃあ何が描かれているかといいますと、ただひたすら「チャーチル」という人物です。

 

そもそもこの映画のほとんどのシーンが室内です。ウェストミンスターでの議会シーン、官邸(なのかな?)での閣議のシーン、国王の住まい(バッキンガム宮殿?)、そしてチャーチルの住まいがすべてです。

 

チャーチルが、よくニュースで見るイギリスの首相の記者会見のバックの首相官邸(ダウニング街10番地)に住んでいたかどうか分かりませんが、住まいでの夫婦のやり取りは微笑ましさが強調されて作られています。

たとえば、妻は「あなた、最近態度が悪いわよ」「権力者は謙虚でなくては」(適当ですがこんな感じ)などと諌めたり、チャーチルが妻に甘えたりするシーンが結構あります。

 

閣議のシーンでは和平派との駆け引きが主に描かれていきます。まず、ダンケルクに包囲されつつある英仏軍を脱出させるための時間稼ぎかと思いますが、カレーの駐留軍数千人(だったかな?)に全滅を覚悟の戦闘命令を出すのですが、予想通り壊滅状態に(なったと思う)なり、ハリファックス外相がイタリアのムッソリーニを仲介者にした和平交渉を提案します。

 

この駆け引きが後半まで続き、ある日、最初の方に書きました国王のアドバイスにもとづき、チャーチルは乗ったことのない地下鉄に乗り、庶民たちに、ヒトラーに屈して和平を選ぶことをどう思うかと尋ねます。彼彼女たちは口を揃えて「ダメだ!」「Never!」「Never!」と力強く答えます。

 

このシーン、映画とはいえかなり嘘っぽく、ちょっとやりすぎじゃないのとは思いますが、映画的にはクライマックスの感動シーンということになり、力を得たチャーチルは意気揚々と閣議に戻り、徹底抗戦を宣言、その後、議会において件の演説をするのです。

 

We shall go on to the end, we shall fight in France, we shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our Island, whatever the cost may be, we shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender, and even if, which I do not for a moment believe, this Island or a large part of it were subjugated and starving, then our Empire beyond the seas, armed and guarded by the British Fleet, would carry on the struggle, until, in God's good time, the New World, with all its power and might, steps forth to the rescue and the liberation of the old.

 

という映画なんですが、この映画を見て浮かんでくるチャーチルの人物像は、いわゆる指導者として切れる人物というよりも、やや横柄で酔っぱらいで煙いけれども本当は気のいいおじいさんなんだという感じでしかなく、それを狙ったのならまあいいんでしょうが、やはりもう少し史実に突っ込んだ現実的なチャーチルが見たかったです。

 

それに、辻さんのメーキャップはすごいにしても、誰が演じているのか分からないのって意味あるのかなとも思いますし、ある種の仮面でもあるわけですから、映画全体が何かで覆われたような間遠さを感じさせます。

 

それにしても、「ヒトラーから世界を救った男」の副題はやめてほしいですね。観客をバカにしていますし、チャーチルに対する認識も間違っていますし、センスがありません。

 

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