修道士は沈黙する

大人向けのアイロニカルな舞台劇のような映画

ローマに消えた男」しかみていませんが、 ロベルト・アンドー監督の映画はあまりマジで見ちゃいけないことを再確認しました(笑)。

つくりは大層なんですが、どこかふざけたところがあり、真剣に見ていると陰でくすくす笑われているのじゃないかという感じがする映画ということです。

だって、この映画、G8財務相会議の面々が、マジで自分たちが世界を牛耳っているかのように振る舞い、それをあたかも真実であるかのようにシリアスな音楽をバックに、(おそらく)宗教的な、あるいは哲学的な言葉を散りばめて煙に巻くように作られているのです。

ただ、最期にひっくり返されますのでご注意(笑)。

監督:ロベルト・アンドー

公式サイト

それに、G8財務相会議ということであれば、日本の出席者はあの麻生太郎ですよ。マフィア気取りでボルサリーノにロングコートで乗り込むさまを思い浮かべれば、ほぼこの映画はわかります(笑)。

茶化すのはほどほどにして映画です。

2015年の映画です。

ドイツのリゾート地でひらかれるG8財務相会議にイタリア人修道士ロベルト・サルス(トニ・セルヴィッロ)が招かれます。他にもロック歌手と絵本作家が招かれますがあまり大した役回りではありません。

招いたのは IMFのダニエル・ロシェ専務理事(ダニエル・オートゥイユ)で、表向きは自分の誕生日を祝うためですが、本当の目的は修道士サルスに告解をするためです。

「告解」ということ自体、本当のところどういうものか理解していませんが、ウィキペディアからの「洗礼後に犯した自罪を聖職者への告白を通して、その罪における神からの赦しと和解を得る」ということと考えれば、このロシェの告解はかなり身勝手な話で、つまり自分がガンに冒され死を目前にしているがゆえに、今まさに G8で決議されようとしている世界を変える(らしい)決定的な決議を覆すためにサルスに告解をしある数式を残すというものです。

多分、これであっていると思いますが、結構幾度も落ちそうになっていましたので正直自信はありません(ペコリ)。

で、ロシェは自殺してしまいます。

この映画が、ロシェの死が自殺か他殺かといったサスペンスであるかのような見立てもありますが、そのように作られているとは思えません。そうした緊迫した空気は一切ありません。カメラワークや編集もかなりゆったりしています。

警察の捜査も描かれますが、映画にそれを追おうとの意識は感じられず、もっと俯瞰したところからといいますか、悪く言えば平板にと言いますか、会議の参加者面々の裏があるようなないような会話が延々と続きます。

この、それぞれの会話や人間関係があまり整理されて提示されませんので見ていてかなりつらいです。英語だけなら字幕とあわせてなんとか聞き取ろうと努力もできますが、(おそらく)イタリア語、フランス語、ドイツ語が入り混じっていると思われ、ほぼ完全に字幕に頼るしかなく、さらに会話の内容が具体的ではないことが多く、仮に伏線などがあったとしても多分見落とします。

と言ったわけで、ロシェが死に、最後に事件が大団円となる財務省会議、そしてロシェの葬儀までは、ロシェがサルスに一体何を告解したのかを皆が探ろうし、しかしサルスは決して話さないという場面が続きます。

そしてラスト、財務相会議の席でサルスはロシェから託されたある数式を皆に見せます。その数式を見た財務相たちは席を離れ、それぞれがそれぞれのスタッフとこそこそと話し、その数式がリーマンショックに匹敵する混乱をもたらすものだと理解し、会議で決議予定だったある計画を放棄することになるのです。

このシーン、かなり皮肉を持って描かれています。かなり陳腐なこの設定をそれぞれ財務相たちが真剣に向き合っているように描かれています。

さらにその後のロシェの葬儀シーンでは、メンバーたちを前に追悼の説教をしたサルスが突如壇上から消え、その場からは鳥が飛び立つのです。

説教自体ははっきり記憶していませんが、(おそらく)自分たちがなにごとかをコントロールしていると思い上がる人間たちへの戒めだったように思います。

そしてもうワンシーン、誰だったか(どこかの国の財務相?)が連れてきた犬(ドーベルマン?)、この犬、会議の場面では突如凶暴さをあらわしてテーブルの周りをぐるぐる回っていましたが、その犬が修道院に戻るサルスの後をついていくのです。

ということで、あまり具体的ではないのですが、現在の金融資本主義への皮肉が込められた映画ということになります。

ただ、今の経済システムが少数の人間の判断で左右できるものという、そもそもの設定自体が非現実的ですので、何だか映画が上滑りしているように感じます。その意味で、冒頭に書いたように、あまりマジに見る映画ではないと思いますし、大人向けのアイロニカルな舞台劇を見ているような映画だと思います。

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