ノクターナル・アニマルズ

スーザンの今、過去、そして小説の物語が交錯して…(いない)

トム・フォードさん、映画も撮っていたんですね。「シングルマン」が第一作だったとのことですが、タイトルに記憶がある程度で見ていません。

この「ノクターナル・アニマルズ」は、昨年のヴェネチアで審査員グランプリを受賞しているようです。審査員グランプリって何かと思いましたが、ウィキペディアによりますと金獅子に次ぐ賞のようです。

ちなみにこの年の金獅子は、ラヴ・ディアス監督の「立ち去った女」です。現在上映中ですが、4時間近い大作ですから、見るにもそれだけの時間とちょっとした決心がいります。

監督:トム・フォード

スーザンはアートギャラリーのオーナー。20年前に離婚した元夫から彼が書いた小説「ノクターナル・アニマルズ」が送られてくる。離婚した夫婦が20年の時を経て「捨てた愛」「失った愛」をどう見つめ如何なる変化を遂げるのか。映画内小説と過去と現在が交差する複雑な物語が紡がれる。(公式サイト

で、この映画、タイトルバックの映像がすごいインパクトです。

超巨漢の女性たちが裸でダンス? じゃなくて蠢いているという表現のほうが当たっています。何だろう?と目は引くのかも知れませんが、だんだん嫌になってきます。

どうやらスーザン(エイミー・アダムス)が経営しているアートギャラリーのパフォーマンス的なもののようで、タイトルが終わりますと、ギャラリーには超巨漢の女性たちがそれぞれ展示台の上に様々な格好で横たわっています。

まあはっきりいって悪趣味ですね。

物語は、そのスーザンのもとに元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から本人が書いた小説のゲラ刷りが送られて来るところから始まります。タイトルは「ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)」、表紙をめくりますと、「スーザンへ」の文字です。

この後は、その小説の物語とスーザンの実生活、そしてスーザンとエドワードの過去が交錯しながら進んでいきます。

スーザンは現在アートギャラリーのオーナーとして成功しているのですが、描写されるギャラリーの作りとか働くスタッフとか住まいもそうですが、そうしたもののアートデザインが、正直、(シンプルなんだけれども、それが)過剰すぎて映画的に陳腐です。

まあそれはともかく、スーザンには夫がいるのですが、うまくいっていません。NYに出張だとかと出かけていきますが浮気中です。ただ、これ、物語としては大した意味はありません。現在のスーザンが幸せではないことを示しているだけです。

小説の中の物語は、トニー(ジェイク・ギレンホール)と妻と娘が、テキサス(だったかな?)の荒野をドライブ中に、3人のならず者に襲われ、トニーは荒野に置き去りにされ、妻と娘はレイプされ殺されます。

その後、保安官とともに犯人を見つけ出し、ひとりは保安官が、主犯格の男はトニーが撃ち殺してしまうという話です。

スーザンとエドワードの過去の話は、ハイスクール(だったかな?)で一緒だった二人が大学生になり偶然出会い、実は君が初恋の人だとか、私も好きだったのよとか盛り上がり、結婚するも、スーザンは金持ちのお嬢さま、今で言えばセレブ、一方エドワードは小説家を目指す(貧乏な?)心優しき男で、うまくいくはずもない、というのはかなり無理矢理な作りで、スーザンがエドワードの書いたものを批評するシーンはありましたが、あれでダメになるのなら、そもそも二人は愛し合っていないでしょう(笑)。

この過去の二人もかなり適当な作りです。

まあそれはともかく(2度め?)、2年ほどだったかの末、離婚、ただ、スーザンがエドワードの子どもを堕ろしたとのシーンもありました。これも前後の脈絡なく突然出てきますし、その時一緒にいるのが今の夫と、何とも適当な作りではあります。

小説の中の殺人と関連させようとしているのかもしれませんね。ちょっと無理ですけれど。

それはそうと、スーザンが小説の中の妻と娘が殺されたシーンを読んだ後に、現実の娘に電話をしていましたが、あれは誰の娘? 今の夫との間の娘なんですかね?

まあとにかく、詰めのあまい脚本です。

いずれにしてもそうした3つ、スーザンの現在、過去、そして小説の物語がごちゃごちゃと編集され、スーザンが小説を読み終えたラスト、エドワードと食事の約束をしますが、すっぽかされて、レストランにひとり残されて終わります。スーザンは微笑んでいましたっけ? もしそうなら、私ってバカねということでしょう。

好意的に取ればこういうことでしょうか。

エドワードは、20年を経た今でも、スーザンを(変質的に)愛しており、その愛は裏返せば憎しみでもあり、それをたとえて言えば、スーザン=夜の獣たち=小説の中のならず者ということであり、(中途半端なんだけれども)復讐心(REVENGE)を持って小説を書いたということ、かな?

脚本もトム・フォードさんのようですが、はっきり言ってプロに書いてもらったほうがいいです。

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