十年 Ten Years

他人事とは言っていられない日本なのに「君の名は。」でいいのか?普段どこの国の映画とさほど意識しているわけではありませんが、あらためて考えてみれば、確かに香港映画を見る機会は減りましたね。ここ1年くらいを思い返しても思い当たりません。

製作本数も減っているのだろうと調べてみましたら、2015年で59本というのがあります。ウォン・カーウァイ監督の時代(というのは変?)なんて200本くらい撮られていたんじゃないかと思いますが、やはり中国に返還されて相対的に香港の存在感自体が薄れていることもあるのでしょうか…。

5話オムニバス

香港政治の舞台裏をアイロニーたっぷりに描いた第1話『エキストラ』。失われゆく記憶の記録に思いをはせる第2話『冬のセミ』。母語である広東語だけでは生きづらくなった香港を活写した第3話『方言』。雨傘運動後の喪失と再生をドキュメンタリータッチで表現した第4話『焼身自殺者』。地元への愛と本当の真実を求める思いが交錯する第5話『地元産の卵』(公式サイト

で、この「十年」は、香港の30歳代(くらい)の若手監督5人が、それぞれ2015年から10年後の香港を思い描いて撮ったオムニバスの作品です。

かなり切迫した危機感が感じられます。

香港が中国に返還されて今年で20年、30歳代とすれば、最も多感な時期にその転換期を経験したことになり、返還前も後も体が記憶しているという感覚でしょうから、現状への不満、異議はかなり強いものがあるのだろうと想像しますし、その思いが前面に出た作品5篇です。

日本でもこうしたショートフィルムはたくさん撮られていますが、こうした実社会への異議申し立てや政治的な問題へコミットする作品は少なく(感じるという意味)、その多くが恋愛、友情、家族、そうした人間関係をテーマにしており、一概にそれを否定するつもりはありませんが、この映画のような直接的なテーマのものを見ますとかなり新鮮に感じます。

率直なところ、個々の作品にはっとさせられる映画的新鮮さはありませんが、それでもこれだけの明確な主張を今の香港ですること自体も大変なんだろうと想像します。

それにしても、今の日本も他国のことと言っていられない状況にあり、強権的だけではなく、姿の見えない同調圧力がますます強くなっているように感じられ、それなのに「君の名は。」(ごめんなさい、象徴的意味で書いただけです)でいいのかと思う今日此の頃です。

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