永い言い訳

監督自身の永い言い訳を聞いているようだ。男の影のような女の描き方は「ゆれる」と同じだね。

「ゆれる」以降、単独作品は全て見ているのですが、何も書き残していないようで、このブログ内に何もありません。なぜだろう? と考えながら、ウィキで西川美和監督の作品リストを見ていましたら、すごいですね。独擅場(どくせんじょう)です。

  • ゆれる(2006年) – 監督・脚本・原案
  • ディア・ドクター(2009年) – 監督・脚本・原作
  • 夢売るふたり(2012年) – 監督・脚本・原案
  • 永い言い訳(2016年) – 監督・脚本・原作

 (ウィキペディア

人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻が不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなった。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の夫・陽一と子供たちに出会い、幼い彼らの世話を買って出る。子どもを持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き出すのだが・・・(公式サイト

原案、原作、脚本、監督、すべて西川美和監督ひとりのクレジットです。デビュー以来、十数年間、数作にわたって、そのスタイルを貫いてきているわけですから、そのスタイルに信念があるということでしょうし、割りとメジャー(世に出ている程度の意味で)な映画監督としては、それ自体が特徴的だと思います。自分の撮りたいものしか撮らないということでしょうか。

日本の映画界にあっては、その事自体、大変なことだと思いますが、それで3年毎に公開できているんですね。評価が高いということだとは思いますが、バックアップ体制がしっかりしているとか、もあるのでしょうか? アスミック・エース?

この映画の宣伝もかなり力が入っているようで、本木雅弘さんを露出させてのプロモーションをかなりやっています。

ただ、残念ながら、映画はつまらないです。

驚きがありません。映画を見るかぎり、もともとかなり保守的な価値観を持った監督だと思いますが、驚きという点で言えば、この映画、人物造形がほぼパターンで、予想通りの変化をしていきます。

書けなくなったとはいえ、人気作家であり、テレビでも活躍している衣笠幸夫(本木雅弘)は、テレビドラマほど作り物臭くはありませんが、ある種勝ち組の、生活感のなさ、つまり、お金の存在を感じさせない人物として描かれており、また、ある程度の知性を身につけ、ある程度のおしゃれさを身にまとっても違和感のない人物でもあります。

ただ彼は、なぜだか分かりません(から、話が薄っぺらいのですが…)が、妻ともうまくいっておらず、自分に対しても自信を失い、結果として、自己嫌悪を演じています。たとえば、子どもを作らなかったことについて、台詞は忘れましたが、自分と同じ人間が生まれてくることを嫌悪しているとうそぶいたりします。

そんな幸夫が、妻の死によって出会うことになった大宮陽一(竹原ピストル)や子どもたちによって変わっていきます。

大宮は、トラック運転手であり、長距離なのか、何日か家に戻らない、いわゆる肉体労働者として描かれており、知性(知識)に欠け、日々作業服で生活している人物で、住まいも公営住宅をイメージさせる団地住まいです。

しかし、大宮は、物事にストレートで、妻を失った悲しみや妻への思慕を隠すことなく直情的に表現する人物です。最後に残された妻からの留守電で表現されるように、貧しい(貧しくは描かれていないが…)ながらもあたたかい家庭だったようです。

もうこの設定で、何がどう変わるかは別にしても、およそ想像はつきます。

つまり、幸夫は、これまで拒否してきたものが、意外にも心地よいものであることを感じ、そこにまどろもうとしますが、もうすでにそこに自分の居場所はないことを知るということです。

ただ、映画そのものに驚きはないにしても、つくりはしっかりしており、妥協なく撮ったのでしょう、ほとんど隙がありません。

よく練られたシナリオですし、伏線も張られて突っ込みどころも殆どありません。映像的にも手抜きは感じられませんし、俳優も皆自然で、はまっていますし、台詞もよくこなれています。

とは言っても、映画に必要なのはやはり驚きです。それがストーリーであるのか、映像的なものであるのか、さまざま方法はあると思いますが、はっとさせ、スクリーンにくぎ付けにしてくれる何かが必要です。仮に、不完全なものであっても、不完全さゆえにおもしろさが生まれることだってあるはずです。

この映画で言えば、欠けているものがないのです。全て映画が説明してくれています。

幸夫が大宮の家族から離れ、大宮の家族に危機が訪れ、幸夫も落ち込んでいる状況にあって、結局、その解決のために、大宮の自動車事故というコトを起こして物語を進めるというのはまったくもっていただけません。

さらに言えば、幸夫自身の変化を「永い言い訳」出版というオチでもって表現するというのは、あまりにもシンプルさに欠け、冗長です。

少なくとも、大宮を迎えに行き、幸夫ひとり電車で帰るシーン、駅舎のおでん屋(?)が見える俯瞰の画で終える潔さは必要でしょう。確か、幸夫の頬に涙も見えていました。

もうそこでいいでしょう。

と、言える他者の目を入れるべきです。

ゆれる

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