駆ける少年/アミール・ナデリ監督

映画の力を感じさせるとてもいい映画でした

家なき、親なき、天涯孤独の少年を撮っているんだなとややとりとめのない印象を持ちながら見ていたら、ラスト近く圧倒されました。

CUT」の印象もあまり良くなく、さらに、30年近く前の映画をなぜ今劇場公開?といぶかしみつつ、でもちょっと気になり、見てみてびっくり、本当に同じ監督!?というくらい良かったです。

いわゆる孤児の少年アミルが廃船でひとり暮らしながら生きていくわけですが、全く悲壮感がなく、むしろ希望に満ちていると言っても過言でないくらい生き生きとしている様は、本当に感動します。

ゴミあさり、空き瓶拾い、水売り、靴磨き、もちろん全て生活のためですが、次々に新しいことに挑戦し、それらを実に楽しくやっていきます。稼いだお金は、外国の雑誌、結構な金額でしょうが、なんのためらいもなくつぎ込んだりします。なぜなら、そこには飛行機や船の写真があり、たとえ文字は読めなくても、自分の未来、希望があるからです。

文字、そう、彼は文字が読めません。読めないということも理解できずにいたある日、雑誌を売っているあんちゃんに言われた(何だったかは忘れました)ことがきっかけで、早速学校へ赴き入学したいと訴えます。それからは暇さえあれば教わった言葉を大声で復唱する毎日、その懸命な姿には感動しますし、ほほえましくなります。

そして、遊び友だちの少年たちと燃えさかる炎、あれは油田の炎(と言ってもなぜ燃えているのかよく分かりませんが)なんでしょうか、その炎に向かって競争をするシーン、思わず身体が前のめりになりました。いつしか駆けるシーンはスローモーションになっており、少年たちが互いに相手のジャマをしあって転んだり、それでも必死に立ち上がって走る様が炎をバックに美しく撮られています。

彼らが目指している先にはドラム缶にのせられた氷の固まり、結局最初に手にしたのはアミル、火照った身体に抱きしめる氷の気持ちよさそうなこと、それが見事にとらえています。炎をバックに飛び散る水しぶき、このシーンだけでもこの映画を見る価値はあります。

アミルが手にした氷は、すでにかなり溶けて随分小さくなっていますが、彼はそれを後から来た友だちにゆずります。そしてその少年はまた別の少年へと次々に手渡ししていきます。このシーン、言葉にすると間違いなくくさくなりますので書きませんが、実にシリアスなんですよ。

映画の力を感じさせるとてもいい映画でした。