ぼくのエリ 200歳の少女/トーマス・アルフレッドソン監督

は倒錯愛が美しすぎてアブナイ?

不思議な映画でした。

何がって?

何かしら監督の意図を感じるカットや編集が多いのですが、それが何なのか、はっきりとは分からないんですね。続けざまに3回も見直しました(笑)。以下、完全ネタバレですし、3回目に見ながらメモしたものですので細かすぎてよく分からないかも知れません。

映画の全体的な印象としては、監督のセンスの良さを感じることと日本にはないスウェーデンの雪の風景の新鮮さを感じたことです。ヴァンパイヤものですので夜のシーンが多いのですが、かなり意図的に明るく撮っているように思われます。それが何だか新鮮で奇妙な感じなんです。それと、手持ちカメラを使わないのが成功しています。安定した映像が静謐な感じを生み出しています。

監督のセンス云々の方はいろいろありますが、まず導入がいいです。無音のまま、黒のバックに、小さなセンスのいい文字でクレジットが数秒間隔で入ります。1分ほどすると、暗闇にしんしん(ありきたりの言葉で申し訳ない)と降る雪がフェードインしてきます。やや俯瞰気味の寝静まった街の一角に切り替わり、しばらくするとぼんやりと人が動く姿が浮き上がり、やがてそれは窓に映る裸の子供であると分かってきます。次のカットは一転して車の後部座席から前を撮っており、かなり年齢のいった男性の運転手と助手席に誰かがいることが示されます。そしてそこに静かに重めの弦楽が入ってきます。

もし劇場で見ていたら、私の場合、もうこれだけで完全に引き込まれているでしょう。

で、不思議なカットや編集。その多くは、かなりミニマムな編集を心がけた結果ではないかと思います。ん? あれ? みたいなところが随所にあります。以下はツッコミではなく、思い切った編集だなあと感心の(?)記録です。

28分くらい、エリと共にやってきた年配のおじさん、エリのために血を運んでくる従僕のような存在(に今はなってしまった?)だと分かってくるんですが、その男が死体を池に落とした後、そりをカラカラとひきずりながら帰って行くカット。殺人慣れしているということなんでしょうか、まるでそり遊びをして帰る子供のようです。

46分あたり、同じその男がバスケの選手の殺害に失敗した後、「エリ」とつぶやきながら自ら硫酸をかぶるシーン。まあこれは不思議というわけではなく、オスカーに惹かれていくエリへの諦めや長くエリのために人を殺し続けてきた疲労でしょうか、おじさんの表情がとても良く、いいシーンではあります。

そのおじさんが、病院で自分の呼吸装置を引き抜いてエリに自分の血を与えるシーンが続きますが、これまたいいシーンですね。

で、その後に街の中年の男女、後に重要な役回りを担うんですが、その二人が汗をびっしょりかいて眠っているカットが入ります。なぜ汗をかいているんでしょう?

時間は前後しますが、この男、いつもアルミのアタッシュケースを持っています。ところが、これ、最後の方で空っぽってことをしっかり見せるカットがあります。どういう意味なんでしょう?

オスカーがいじめっ子をやっつけるシーンと最前の池に落とされた死体が子供たちによって発見されるシーンを同時進行で描いているところなんて、うまいですね。

オスカーがエリを隠れ家のようなところへ連れて行き、ナイフで自分の手を切り、血のちぎりを交わそうみたいなことをいうんですが、これは、単にエリがその血を飲むことでヴァンパイヤであることをオスカーに示すために考えられたシーンなのか、あるいはオスカーのキャラクターの一端を見せようとしているのか? まあ両方なんでしょうが…。オスカーは、いじめられっ子なんですが、いつもナイフを携帯し、殺人など犯罪の新聞を収集したりとやや危ない感じも臭わせているようです。

で、一番不思議なシーン。

71分あたりにオスカーが父親と過ごすシーンがあるのですが、そこに父親の友人がやってきて、これが何だか思わせぶりで妙なんですね。男も父親もにやにやして、父親はオスカーとやっていたゲームを放り出し、男と酒を飲み出し、あげく男は「ここは居心地がいい」とのたまい、そこに何ともカンファタブルな音楽がかぶるという、二人はゲイってこと? で、夜中(多分)にオスカーはヒッチハイクして家に帰ってしまうんです。オスカーが、以前、二人の何かを見てしまったシーンがカットされているんでしょうか?

で、オスカーはそのままエリの家を訪ねますが、そこでエリはオスカーを家に入れた後、着替えます。が、上着をパジャマのようなものからセーターに着替えただけで、下はパンツのまま、何を見せようとしたのでしょう?

そうそう、エリの部屋にあるレナウン娘みたいな70年代風のポップなポスター、あれ興味があるのですが、誰なんでしょう?

84分あたり、今度はエリがオスカーの家を訪ね、オスカーが入っていいと言わないがゆえに全身から血が噴き出すシーンがありますが、そこのエリの台詞がこの映画全てですね。「君は何者なの?」と聞かれたエリが「あなたも私と一緒、人を殺してでも生きていきたいと思ってるでしょ、それが生きるってこと。私を受け入れて。」じっと目を見つめられて、最後には馬乗りになって、こんなこと言われたら、誰だってやられちゃいますよね。

そうそう、忘れちゃいけないのが、その時、一瞬、エリは老け顔になります。

その後が例のぼかしのシーン。ぼかしのせいで去勢されて美少女(美男子)のヴァンパイヤってことが際立ってしまっていますが、この映画(原作がなんでしょうか?)、そういったやや悪徳的なものがあちこちにちりばめられているような気がします。多分それをかなり編集で押さえているので、なにやら不思議な感覚になるのではないでしょうか?

88分あたり、その後、母親が帰ってきて、エリは窓から自分の家へ戻ります。そして、深夜2時、オスカーが母親の部屋にやってきていきなり電気をつけるカットが入りますが、これからエリのところへ行こうかと思ってて電気はつけんだろうとは思いますが、電気をつけても起きないくらいぐっすり眠っているのなら安全って確かめたんでしょうか(笑)。で、エリの家へ行って夜を明かすみたいです。ヴァンパイヤは昼間寝ますから、夜中一緒に遊んでいたということでしょう。

で、朝、屋外の遠景、黄色いコートを着た男が遠くを歩いているんですが、あれは誰?

で、夜が明けているので、エリはバスタブの中で眠っています。そこへ最初の方で重要な役回りと書いた男が、いろいろあってエリを殺そうとやってくるわけですが、当然争いになり大きな音を立てますので、階上の住人が「今何時だと思っているんだ!」って、え?何時なの? 夜中? ならエリは夜中に寝ているの? で、さらに、もう男は殺され(血を吸われ)音も静まっているのに、まだ床をコンコンってたたくんですが、なぜ? 続いて、オスカーが家に戻ると母親は当然着替えた服装をして、多分どこへ行っていたの!と怒っているシーンになるわけですから、やっぱり朝でしょう。

というわけで、いろいろ不思議なことはあるのですが、ここもかなりいいシーンで、殺した男の血で真っ赤な唇のエリが「もうここにはいられないわ」といいながらオスカーにキスをします。完全に口説いています。これ、冷静に考えたらどうなんでしょう? そこに死んでいる男の血でべっとりのままキスですよ。相当危ないシーンです。でも結構感動するんですから、うまいってことでしょう。

オスカーは何も言わず黙って自分の部屋に閉じこもり、最初にやることが、何と、収集しているミニチュアの車のドアを閉めたりします。うーん? 何でしょう?

で、衝撃のプールのシーンになります。まあこれは言葉で書いてもダメでしょう。見ないと分からないですね。

ラストは、オスカーとエリが列車で旅立ちます。何ともやるせなく切ないエンディングではあります。終わらないたびは続くのですから…。

いくつか、あまりにも細かいので、最後に

14分20秒あたりの教室のシーンで、カメラはオスカーをとらえているのですが、その奥にガラスのドア越しに人がいて何かしら動いています。当然ピントは合っていませんのでよく分からないのですが、あれ何でしょう? 前後をカットしてしまったのでしょうか?

15分40秒あたり、オスカーが家で母親と話をするシーン、オスカーの着ているものが続きのカットで一瞬にして変わっています。時間経過を端折っているのでしょう。

近所の男がエリに殺される前後の酒場のシーンはつながっているようで何か変な感じがします。

61分くらい、オスカーがプールで泳いでいるシーンへの入りがいじめっ子の子分のアップから入るのですが、この子が何かしら意味ありげなんですが、前がカットされているのでしょうか。

82分あたりに、いじめっ子の兄が初めて登場するシーンは、ラスト近くのプールのシーンのために付け加えてような妙なシーンです。前半にも登場シーンがあったものがカットされたのかも知れませんね。