そんなには褒めないよ。映画評

ミニシアター系映画レビュー*沈黙する言葉

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当サイトおすすめ映画直近の4作品

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監督:アルチュール・アラリ

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残像

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アンジェイ・ワイダ監督の遺作、心に残る映画です!

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「佐藤泰志/移動動物園」は、アラン・ドロン「太陽がいっぱい」のようだ

画像を入れようと検索したら、「移動動物園」「そこのみにて光り輝く」「黄金の服」が文庫化されたようだ。喜ばしい。

小学館に「移動動物園」についての説明書きがあったので引用しておこう。

海炭市叙景』で奇跡的な復活を果たした悲運の作家、佐藤泰志のデビュー作が文庫化。山羊、栗鼠、兎、アヒル、モルモット…。バスに動物たちを乗せ、幼稚園を巡回する「移動動物園」。スタッフは中年の園長、二十歳の達夫、達夫の三つ上の道子。「恋ヶ窪」の暑い夏の中で、達夫は動物たちに囲まれて働き、乾き、欲望する。青春の熱さと虚無感をみずみずしく描く短篇。他に、マンション管理人の青年と、そこにするエジプト人家族の交流を描く「空の青み」、機械梱包工場に働く青年の労働と恋愛を描写した「水晶の腕」を収録。作者が最も得意とした「青春労働小説」集。

「青春労働小説」か? なるほど…(笑)。


表題作の「移動動物園」は、どこか「太陽がいっぱい」を思い出させるところがある。もちろん「達夫」に園長への殺意が生まれることはないし、「道子」への思いも成就しない。それに「達夫」の思い自体、はっきりと書かれているわけではない。ドラマチックな展開もなく、動物たちの世話をする日常が描かれるだけだ。しかし、照りつける太陽、青春の危うさ、切なさ、そして何よりひりひりするような痛みがある。


収録された3作には、確かに「青春労働小説」と括ることに違和感のないキーワードがある。「汗」だ。それは、それぞれの主人公が、「生きる」ことの実感を懸命に感じようとするリアルなモノとして幾度も登場する。
たとえば、冒頭の

暑かった。足元からたちのぼってくる草や土の匂い、それに汗の匂いが、夏の空気と一緒に達夫をぴったりと包みこんでいて、息をいっぱいに吸いこむと、むせびそうになるほどだ。

といった具合だ。


「生きる」ということに関しては、印象的なシーンがある。


動物園といっても、幼稚園や保育園の子供たちに見せて回るだけだから、ほとんどが上の引用にあるような小動物たちなのだが、そのうちの兎が子供を産むシーンがある。その描写が実に詳細で、そして鮮やかだ。実体験にもとづいているのかもしれない。


そして、その生き生きとしたシーンに相反するように、残酷なシーンが描かれる。


移動動物園は、子供たちに動物とのふれあいを体験させることが目的なわけだから、当然大きくなってしまえば邪魔ものである。それらを買い取りに来る青木という人物も登場するのだが、時に殺してしまうこともあると語られた後、ある日、園長がちょっとしたことで腹を立て、
「達夫、皮膚病の栗鼠、殺してしまえ」(皮膚病の栗鼠は達夫が可愛がって面倒を見ている)
「ついでだから大きくなった兎とモルモットも殺してしまえ」
と命じる。


達夫と道子は、逆らうこともできず、またこれまでもやってきたことではあるので、無言で、動物たちを一匹ずつ袋に入れて水飲み場のコンクリートに叩きつける。そのうち、その空気に我慢できなくなった道子が、モルモットを袋に入れずに叩きつける。達夫が言う。
「駄目じゃないか」
「知ってるだろ?こいつらは眼があいていたら恐くて死ねないんだ。落ちていく時に眼があいてたら、それだけで、もう死ねないんだ」
その場を離れた道子は、しばらくして、「激しく嘔吐する声をあげ」る。
「赤んぼか?」
道子は頷く。園長の子を宿しているのだ。


結構ぐっとくる展開だが、それでも真夏の太陽の下、ものごとは淡々と進んでいく。


「空の青み」はマンションの管理人、「水晶の腕」は切り屋の話だ。切り屋というのは、梱包会社での仕事らしく、輸出向けの制御装置など、かなり大きな物の、それらのサイズや形に合わせて、材木を寸法通りに切る職人的な仕事のようだ。ウィキによると、実際に1979年梱包会社に就職しているらしく、どの作品も実体験をもとに書かれているのだろう。詳細な描写はリアリティをもって立ち現れてくる。


「水晶の腕」には、ちょっとばかり甘すぎるきらいはあるが、こんなことを語る場面がある。同僚に、「頭が少しとろい」(そのまま引用)あんちゃんと呼ばれる2歳年上、27歳の男がいる。

あんちゃんはパチンコ屋の名物男だった。(略)客が席を立つと、店員より先に、せかせか動き回って椅子をきちんと直して歩く。敗けて持ち金がなくなると店中うろついて、落ちている玉を拾って歩く。一度、そんな場面に出くわしたことがある。あんちゃんは店の端から順番に椅子の下や人の足元をのぞきこんでは、落ち玉を見つけると平気で這いつくばるようにして玉を拾っていた。僕の所へきた。(略)あんちゃんは屈んで、僕の片足をつかんで広げると玉を拾った。(略)僕は受け皿から玉をひとつかみして、あげるよ、そんな真似するなよ、といった。するとあんちゃんは、人からは貰わないことにしているんだよ、と首を振った。(略)その夜からだ。僕はどんな意味ででもあんちゃんを軽蔑しないことにした。


2011年の今から思えば、若干引っかかることもあるが、佐藤泰志さんとはこういう人なのだろう。

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